ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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アブセントアブソリュート
日時: 2011/09/18 22:56
名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

——名も知れぬ騎士と知られてはならない彼女が出会う時、非存在は絶対となる。
絶対は絶対に覆せないと誰が決めたのだろうか。
道標は、そこにあるというのに。


【物語を読む前に】
・更新は亀です。
・初めに言ってしまうと、音無ノ犬という名前は捨てハンです。正体が分かっていてもダンマリでお願いします。
・他作業合間にちまちまと書いていくことになると思います。完結を目指したいと思いますので、ゆるりと荒らし等はスルーしていかせていきます。
・ただ一言、頑張ります。


【目次】
プロローグ(騎士part)
>>1
プロローグ(彼女part)
>>2
プロローグ(救世主part)
>>3

第一章〜始動〜
騎士:♯1>>4
彼女:
救世主:

Page:1



Re: アブセントアブソリュート ( No.1 )
日時: 2011/09/15 23:23
名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

寂れた平野の中、青空はいつも変わらずに空へと浮かんでいる。眼に映るのは、その青い青い、どこまでも青い空しかない。白いものは一切浮かんではおらず、そこには鳥さえも飛んでいない。
本当にここは一つの国なのだろうかと目を疑うほどの寂れた平野に、嫌でも目立つように聳え立つ要塞があった。所々傷がついていたり、砂やホコリが目に付いたりもする。人気も大勢というほどもないだろう。いても少人数ぐらいだと見た目からしても豪華でない寂れた平野に建つ要塞に、一人の若者が向かっていた。
寂れているだけあって、平野は幾分と広く、要塞に着くまででも反対側から来るともなれば、一日はあっという間に過ぎるだろう。そんな平野の中、馬も連れず、人も連れずに、たった一人、布のフードを被った若者は歩いていた。

「もう少し、かな……」

若者はポツリと呟き、腰に携えてあった水の入った大きな酒瓶を手に取り、一口飲む。ゴクリ、と喉に水が通る音がし、若者は一息吐いて、前方にある要塞を見つめた。

「あれかぁ……」

フードを片方の腕で押さえて、ゆっくりとそれを取る。その瞬間、どこからともなく風が若者と平野の砂へと舞い散り、砂がふわっと若者へと襲いかかるが、若者はそんなことなど気にもせずに、フードを脱いで露になった首の中間辺りまでで留めてある短髪を撫でるようにして押さえ、しっかりと要塞を見た。
歳は16、17ぐらいに見える。マントが揺れ、腰元が見えたその時、見えるのは鞘にしっかりと収まっている剣だった。
ゆっくり、けれどしっかりと足で砂を踏み、要塞へと向かって行く。
少しばかり歩いていくと、要塞の門が近くにあった。その傍には、どうやら衛兵のような格好をした中年の男が暇そうに座り込んでいた。しかし、若者の姿を見た瞬間、衛兵は慌てて立ち上がり、傍に置いてあった細身の槍を構え、前に突き出し始めた。

「な、何者だぁっ!」

衛兵は声を荒げて、若者へと告げる。衛兵から見ると、若者は相当怪しいものに見えるのか、疑わしい顔はそのままで、槍を今にも突き出しそうにしている。だが、その様子が慣れていないのか、不恰好で可笑しな感じもする。

「いえ、紹介で来た者なんですが……」
「なにぃ? 紹介ぃ?」

今にも番犬のように唸りそうな顔をしながら、疑わしく若者を舐めるようにして見る。その様子に、若者はただ笑いながら見守っていた。

「……名前は?」

暫く見てから、衛兵がようやく出した答えがこれだった。
しかし、それを聞くや否や、若者は右手を胸に添えて、ゆっくりとお辞儀をして言い放った。

「僕は、セオ・ノーヴェルと言います」
「セオ? ノーヴェル? それに、そのお辞儀……中央セントラルの……?」

若者、セオの言葉を聞いた衛兵は、ゆっくりと言葉を反復させた後、いきなり大きく笑い声をあげた。

「何を言っている! そんなことを言って誤魔化せるはずがないだろう! なぁーにがセオ・ノーヴェルだ! 貴様みたいな若造が、あの英雄とも言われたダーウィン・ノーヴェル様の養子なわけないだろう! 話は確かに聞いているが、どこでその話を聞いた!? 言い逃れは許さんぞッ!」

衛兵は怒った様子でセオを睨み、槍を構えて突き出そうとしている。その様子に慌てたセオは、両手をあげて「あのあの」と声をあげた。

「本当に、俺がセオ・ノーヴェルですって。信じて欲しいんですけど……」
「黙れぇっ! ひっ捕らえてくれるわっ!」

すると、衛兵は大きく槍を振り回し、それをセオの顔の横へと突き出した。その瞬間、フードが貫通し、それと同時に左髪に巻かれてあった石のネックレスがチリン、と音をたてた。

「うわぁっ、や、やめましょう! 本当に俺、セオ・ノーヴェルですから!」
「黙れぇぇっ!」

衛兵は相当苛立っているのか、槍を再び繰り出そうと振りかぶったその時、セオは一息ため息を吐いた。

「仕方ない、かな」

少し後退し、槍の当たらない程度の場所でゆっくりと剣を引き抜いた。それを見た衛兵は「やはり、盗賊かっ!!」という言葉を漏らしながら、槍を振りかぶって声を荒げながらセオへと突っ込んできた。

「ごめんね」

セオがそう呟いた瞬間、剣を突っ込んでくる槍に目掛けて振り払った。
パキン、と金属音がその場で鳴った後、聞こえてくるのは衛兵の叫び声だけだった。

「うおぉぉりゃぁぁぁっ!! ……あ?」

一体何がどうなっているのか分からない衛兵は、持っている槍を見ると、槍は既にただの棒切れとなっており、肝心の鋭い刃を持つ槍の先端部分は無かった。

「こうでもしないと、信じてくれませんよね?」

セオがそう呟き、手に持っていた"刃物"を落とす。それはカランカラン、という音も無く、砂の上にゆっくりと落ちた。セオの持っていたのは、衛兵の持っていた槍の先端部分である刃であった。既に剣は鞘の中にいつの間にか納まっていた。

「え? ……んなぁっ!?」

そのことに気付き、衛兵は驚いた声を出したのと同時に、腰を抜かして砂の上へとへたりこんだ。
セオはゆっくりと衛兵へと近づくが、そのたびに衛兵は震え、怯えているように見える。その様子に苦笑しつつ、衛兵の前まで行くと、膝を曲げて目線を同じにしてから、左髪に付けられたネックレスを揺らした。チリン、と音がし、ネックレスは先ほどまでフードによって遮られていた太陽光を受け、反射し、綺麗に青色を輝かせた。

「これが証かな。早くこっちの方を見せてれば良かったかなぁ」
「こ、これは……! ……英雄の輝石ぃッ!?」

衛兵はその青色に輝くネックレス、いや、そのネックレスの先端にある輝石を見て、青ざめた表情で頭を地面につけ、土下座をした。

「申し訳ございませんでしたっ! セオ・ノーヴェル殿ッ!」
「あ、いえ。俺が、いや、僕がこんな顔してるから、分かりますよ。無駄に手間を取らせてしまい、すみませんでした。えっと、奥にここの隊長さんはいますか?」
「あ、は、はいっ! 案内いたしますっ!」
「すみません、お願いできますか?」
「勿論ですっ! ささっ! どうぞっ!」

急いで衛兵は立ち上がり、門を開く。鉄製の門で、頑丈そうに作られているようだ。
寂れた要塞の門が開く音は、軋むというものではなく、何かまた別の古い感覚を覚えさせるような音が響き、門は開かれた。

「それじゃあ、お邪魔します」

笑顔でそういうと、セオはゆっくりと中へと入って行った。




衛兵に連れられるがままに要塞の中を歩くセオは、辺りをゆっくりと見回していた。
古びた要塞のようで、大きな戦争が起きると持ちこたえられるか心配なほど古い感じがする。人気もあまり無く、まばらに兵士が所々いるのみであった。

「あの、門の守護は、誰が?」
「あ、大丈夫です。あの番は、どうせもうすぐ俺と交代する奴が来るんで。あいつ、今日はサボれないはずですから。隊長からお叱りを受けて、必ず今日は守護役を受けないといけないんですよ。へへ、ざまぁみろってな感じですね」

セオの質問に、衛兵はベラベラと歩きながら返す。時折表情にして表したりするので、何だか面白い様子にセオは少し笑いながらもその話を聞いていた。

「あ、ここですぜ!」

そうしている間に、衛兵の案内は終わりを告げた。一室の部屋のようで、中は寂れた要塞とは少し異なり、小洒落た感じの漂う部屋だった。
その中に一人、書物を手に取り、真剣な顔つきで読んでいる男がいた。軽いプレートメイルをつけ、腰元には剣を携えている。

「シューズ隊長! セオ・ノーヴェル殿をお連れしました!」

衛兵が声をあげて、書物に没頭する男に話しかけると、その男は書物から目線をセオと衛兵の方へと向けてじっと睨みつけるようにしている。
顔付きからして、どこか頭のキレそうな感じがする。だがしかし、その感じはすぐに取り払われることとなった。

「おぉっ! そうかぁっ! よぉくいらっしゃったな! セオ坊!」

シューズは頭のキレそうな顔をしていて、実はとんでもなくお気楽、ユーモア溢れる人柄だった。
笑いながらセオと衛兵に近づき、二人の肩をバンバンと大きな手で叩くと、また声を出して笑った。それもこれが、笑うととても嬉しそうで、歓喜に満ち溢れているような感じがするのだから不思議なものだった。
セオはそのあまりのギャップには所々慣れており、笑顔で「ご無沙汰しています」と返した。

「いやぁ、大きくなったねぇ。でも、顔はまだまだベビーフェイスだな! あっはははっ!」
「この顔のせいで、色々と困ったりもするのですが……もう20歳になるのに、恥ずかしい限りですよ、本当に」
「えぇっ! この顔でもう20歳かっ!? すげぇなぁ、おいおいっ!」

シューズは手を叩いて笑いながら言う。こういう、戦場でもなんでもない時に一番盛り上がるのはいつもシューズである。
衛兵はいつの間にかそのテンションについていけなかったのか、それとも空気を読んだのかは分からないが、その場を後にしていた。
暫くそうして二人で懐かしんだ後、不意に、突然シューズから、

「で……何の御用だった?」

と、セオへと聞いた。
その言葉に、少しピクッと体を反応させ、苦笑したセオは、その途端、シューズへと頭を下げ、こう言い放つのである。

「騎士にさせてください!」

そして、シューズは即答でこう答えるのであった。

「無理」

腕を組み、笑顔でシューズはセオの申し出を一発一撃で断ったのであった。

Re: アブセントアブソリュート ( No.2 )
日時: 2011/09/17 22:30
名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

——17年前。世界に大戦争が起こった。
その被害はとてつもないもので、人々の環境や文明など、様々なものを捻じ曲げていった。それも、皮肉なことにその大戦争には、同じ人間達が総力をあげて作り上げた科学の力などによって双方を破壊したのである。

そんな大戦争から、3年の月日が流れたある日、一つの国に新たな命が誕生した。
大戦争の爪痕から段々と復興してきた頃に誕生したその小さな命は、これから一国の王女として育てられるはずの命だった。
だがしかし、その国の発展は大戦争の爪痕からによる反乱テロや、その他の活動面々によって遮られ、次第に衰え始めることとなる。
そして現在、王女は早くも14歳となっていたのである。




ポタ、ポタ、と水音がどこからともなく聞こえ、水は弾けては混じるの繰り返しを続けている薄暗い建物の中に少女はいた。
DIVA(ディヴァ)と呼ばれる歌手が着るような綺麗な衣装を身に纏い、少女はその中で一人、時が来るのを待っていたのだ。
低い重低音が鳴り響き、段々とそれは強くなっていく。それと同時に、少女のいる場所も浮上していく。それに合わせて、周りからは人の歓声が聞こえ始めてくる。
そして——舞台は幕を開けた。

パァンッ! と大きな破裂音がそこら中から巻き起こり、人の歓声が先ほどよりも大きく、また轟音となって少女の耳に劈いてきた。
スポットライトが何個もビルの屋上のようなステージに立つ少女一人に向けられている。周りはスタジアムの観客席のようにぐるっと一周、ドーム状に人々がまるで蟻のように蠢きながらも歓声を出していた。
グッ、と少女は腕を、マイクを持った腕を空へと向ける。それと同時に観客の盛り上がりは増していく。
空は何も無い虚空の夜空。スポットライトの光や、その他の機械の街ならではの眩しい光が辺りを包み込んでいた。
真中にポツンと建つビルの屋上に少女が一人。その周りにはドーナツ状に深い谷。そのまた奥には観客席がまたドーム状にあるというわけだった。

「皆ッ! 元気ぃ〜ッ!?」
「イェェェェッ!!」

もの凄い轟音が返ってくることに、少女は満面の笑みで手を振り返した。
彼女は、この機械の街であり、眠らない街とも呼ばれるトゥーセントタウンにおける、歌姫だった。

「それじゃーッ! いっくよーッ!」

彼女の後ろにあるスピーカーから大音量の音楽と共に、彼女は歌い始めた。綺麗な歌声が、彼女の破天荒さ、時には弱く、脆い彼女の様々な歌い様が観客を魅了していく。
弾け飛ぶ轟音は会場をヒートアップさせ、彼女もまた、それに応じて楽しそうに笑い、歌い続けた。
空には幾つもの花火が上がり、ビル群の中に光を反射させていった。




「今日も良かったよっ! メルトッ!」

彼女、メルトは歌い終わった後、プロデューサー達から賞賛の声が上がる。それらを笑顔でお礼を言いまわり、その後は自分の楽屋に戻った。
殺風景な真っ白な個室からは、先ほど上がっていた花火がまだ足りないというかのように上がり続けていた。それを少し眺めた後、メルトはゆっくりと服を着替え始めることにしたその時だった。
花火とはまた違う爆発音がし、ヒュルルルル、と音を鳴らしながらその火炎の弾は——メルトのいる方へと向かってきた。

「ッ!」

急いでメルトはその場から離れようと部屋のドアノブに手を掛けて開いたその時、後方より爆発音と共に熱気を加えた暴風が巻き起こった。その勢いに任されるがままに、メルトの小さな体は部屋の外へと投げ出された。
瓦礫が崩れる音や、熱気の籠もった熱い感覚が肌に張り付いて取れない。頭が真っ白になり、ゆっくりと目を開けたその時、

「おいッ、大丈夫か!」

そこには、肩当てを施し、手にはガントレットを付け、メイルも何も無い、身軽な剣士のような格好をした男が手を差し伸ばしていた。
少々髭が生えており、髪を一つにまとめたその筋肉質な男の手へと腕を伸ばし、メルトはしっかりと握った。大きく、頑丈でゴツゴツした手で、ガントレットのグローブごとだが、とても温かい感じがした。
その手に促されるままに立ち上がると、その男は「大丈夫か?」とメルトに向けて語りかけた。

「え、えぇ。大丈夫です。あの、これは……」
「とにかく、この場から離れよう。まだあの火の弾が来る」

男はそれだけ言うと、メルトの手を引いてその場から立ち去った。
その後、後方やもっと奥の前方から爆発音や轟音が響き渡り、耳が痛くなるような思いでメルトは男と共に走った。
丁度非常階段のような場所に着いた後、男はようやく手を離した。

「きっと君を狙っている可能性が高い。他の理由も勿論あるかもしれないが……俺は君を助ける為にここに来た」
「貴方は一体……?」

メルトが男の正体を知る為に、疑わしい目線を向けながら問う。すると、男は多少笑い混じりにこう答えた。

「俺は、単なるそこらの親父だと答えたい所だが……極秘な任務だ。名前を明かすのはあまりよろしくはないが、助けるのだから君には話しておこう。それに、これから色々と付き合っていかなくちゃならないからな」

そこまで言うと、男は真面目な顔で再び口を開いた。

「俺はダーウィン・ノーヴィル。よろしくな、メルト……ではなく、20代目、王女様」
「ダーウィン・ノーヴェル……? もしかして、あの大戦争の英雄の?」
「古い話だ、王女様」

ダーウィンはメルトの言葉を茶化すようにして返す。その様子にメルトは何だか英雄と呼ばれるような雰囲気などではない、と思っていた。
信用できるのかは分からなかった。この男が本当に大戦争の英雄、ダーウィン・ノーヴェルなのかどうかすら証明されてもないのだから。
だが、最もメルトが驚くべきなのは、この男が誰にしろ、自分のことを王女だと知っているということだった。

「……国に帰るの?」

観念したようにため息を吐くと、メルトはそう言った。
返って来る言葉は国に帰る、という言葉だろうと思っていたメルトは睨みつけるようにしてダーウィンを見つめた。
だが、ダーウィンから返って来た言葉は予想だにしないものだった。

「いや、違う。言っただろ? 君を助ける為にここに来たんだ。誰も王国に戻れ、なんてことは言っていない。とりあえず、そうだな……。冒険しようか」
「え、え?」
「冒険、いいだろう。王女後継者として逃れ、歌姫となって活躍したり自由なことしてても、冒険はしたことないだろ? いいじゃないか、やろうか、冒険」

ダーウィンの発言はどれも意味が分からなかった。メルトにとって、その言葉はどれも魅力的なものであることは確かだったが。冗談なのか、果たしてそれが嘘で国に帰すつもりなのかは分からないが、この時のダーウィンの目は子供のように輝いていた。

「冒険、か。悪くは、ないかな」
「だろう? まあ、こんなおっさんと、ということが嫌だろうが、勘弁してくれ。若返りはいくらなんでも無理だ」
「別に、連れて行ってくれるなら何でもいい」
「そうか。ならよかった。とりあえず——君は殺し屋か何かに狙われているのは間違いない。ここから脱出することが、まず第一の冒険だ」

ダーウィンが向けた先には非常階段。そして空には、機関銃を構えたヘリの姿があった。

「ははっ、お出ましか」

ダーウィンはその様子を見て、すぐさまメルトの体ごと横へと大きく回避した。その後をヘリの機関銃が追い、無数の弾を繰り出していく。

「うぉぉっ!」「きゃぁぁっ!」

機関銃が乱射される音が後方から聞こえるのを聞こえないフリをするかのように、回避した後、立ち上がって二人して逃げ始めた。部屋をたびたび通り、そうして機関銃から逃れた後、銃や剣を構えた黒いアーマーを装備した者が数名待ち構えていた。

「お出迎えか」

ゆっくりとダーウィンはファイティングポーズを構える。その様子にメルトは驚いた顔で、

「剣持ってないのっ!?」
「仕方ないだろう。君の歌声を聞く為と、君に会う為に、武器なんて持ってここに入られなかったんだから」
「そうは言っても……!」

前方に対峙するのは、5名のどうやら殺すことが目的の兵士達。それに対してメルトを守りながらの何も武器を持たない老兵ともいえるダーウィンが一人。圧倒的に不利に思える戦況だった。
それを分かったように、兵士は素早くダーウィンに近いて来る。そして、武器を振りかぶり、それを思い切り振り落とそうとしたその瞬間、その兵士の体は大きく吹き飛ぶこととなる。
ダーウィンが武器を振り下ろされる前に、それよりも速く蹴りを繰り出していたのだ。その場に取り残された剣を手に取り、他の兵士が襲いかかってきた剣筋を捉え、交差させる。
金属がぶつかる音がし、その次には兵士の悲鳴が聞こえて来た。ダーウィンが剣で兵士を素早く切り裂いたのだ。
弾が何発もダーウィンに向けて撃たれようとしたが、その前に銃を剣で切り裂き、それ諸共、兵士の腕も斬り落とした。
どれもがまるでスローモーションのようでいて、とても素早く、華麗な動きばかりだった。

「ぐぁぁっ!」

メルトがようやくダーウィンの行動から目を離したのは、最後の兵士がダーウィンによって倒された断末魔によるものだった。
といっても、どの兵士も致死には至っておらず、刃向かうことのない程度の傷をつけている者ばかりだった。
メルトはこの時思った。
あぁ、この人は本当に英雄なのだ、と。

「よし、行こうか。プリンセス?」

ダーウィンは剣を二つ、鞘に納めた後、両腰に装着させ、メルトを促して先を駆け抜けた。
その後をメルトは慌てて追いかけていく。もはや瓦礫の崩れる音が連鎖し、壊れていく歌姫の会場を後にして。

Re: アブセントアブソリュート ( No.3 )
日時: 2011/09/18 15:02
名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

セミの鳴き声がこだまする。
夏の到来がその生き物の鳴き声だけで分かる。そして、この穏やかとは表し様のないこの暑さは真夏というそれであるだろう。
普通の何ら変わらない平凡な高等学校に通う、一人の少女がいた。
教室の窓際でぼんやりと外を眺めつつ、憂鬱そうな顔をそのままにしていた。

「はぁ……」

少女、鳩羽 佳苗(はとば かなえ)は退屈だった。
ため息を一つ吐き、佳苗は外を眺めるばかり。友達、家族、日常に何の困ったこともない。ただただ、平凡な毎日の過ぎるこの世界の中に生きていた。

「佳苗ー? また何してんのー?」
「え? あ、ううん。何でもないよー」

愛想笑いを浮かべ、声をかけてきた友達という赤の他人に返事をする。
こんなことが何度繰り返されてきたんだろうか。そう思うと、佳苗はますます憂鬱になった。
今日、残るは最後のSHRのみ。まだ来ていない担任はこの暑さのせいだろうが、汗を拭きながら来るのだろう。

「SHR、始めるぞー」

案の定、汗を拭きながら中年の男の担任が教室に入るや否や、SHRを始めることを示した。




いつからこんな風に捻じ曲がった考えをするようになったのか。
それは、この学校で一人の男子高校生に出会ってからだった。

「よぅ」

その男子高校生は、いつも校門付近で佳苗を待っていた。
名前は、河野崎 諒(こうのざき りょう)。佳苗と会話するようになったのは何時頃だったかは、佳苗自身覚えてはいなかった。
しかし、この河野崎 諒という男が初めて佳苗に向けて漏らした言葉。それは佳苗の心の中でしっかりと残されてあった。

「なぁ。この世って一つなんだろうかな」

不思議な言葉だった。普通に聞けば、何それと言って笑い、相手にもしなかっただろう。
しかし、佳苗はその言葉に対して、

「いっぱい、あるんじゃない?」

そんな返事を返してしまっていた。
それから、河野崎 諒という男は何かと佳苗の前によく姿を現すようになったのだ。
こうして今も、佳苗が友達らと校門前に歩いて出る時、目の前で河野崎は現れた。

「ごめん、先に帰ってて」

いつもそう言って友達を先に帰す。変に誤解をされてもらっても困るし、何よりこの河野崎という男の存在を広めたくなかったからだった。

「何?」

佳苗は暫く河野崎を見つめた後、そう呟いた。
普通に見ると、一般的にイケメンと呼ばれる部類なのだろう。すらっとした身長に、細身な割りに筋肉がついていそうな体型。顔もまるでテレビに出てくる俳優のように綺麗な顔立ちをしている。
佳苗自身、男にモテてはいたが、全てをことごとく断っていた。理想の男性、とかいうものが彼女には存在しなかった。それどころか、付き合おうという気持ちすらも湧かないという、彼女自身も到底意味の分からない感情に付き纏われていたのだ。

「いや、ただ何となく」

河野崎はいつもこうして答える。何、と聞けば、ただ何となく、と返して来る。これもまた、繰り返しだった。

「いい加減、付き纏うのやめてくれないかな?」
「何で?」

すっ呆けた様子もなく、無表情に近い、いや、少し笑みを含んだ嘲笑しているような表情で河野崎は佳苗に向けて言った。
嘆息し、河野崎という男はただのストーカーなのだろうか、と思いながら佳苗は腰に手をあて、呆れたようにして言葉を紡いだ。

「あのねぇ。誤解とかされたら、私の日常が壊れるの。変に噂とかたてられたりでもしたら——」
「何だ、そんなことか」

そんなことって、と声に表しかけた佳苗は、ギリギリの所でそれを飲み込んだ。そして、少し間を開けてから河野崎の方から口を開いた。

「君の日常は、偽りさ。君はこの日常に不満を持っている。そうだろう?」
「何、言ってんの?」

真面目な顔に豹変し、射止めるような視線で河野崎は佳苗を見つめながら言った。

「君の日常は、心配せずとももうすぐ壊れるよ」
「はぁ? アンタが、壊すって言いたいの?」
「違うね。俺じゃないよ」

河野崎はゆっくりと佳苗に近づき、後一歩で体が触れるという所まで来て、言った。

「この世界は、もうすぐ狂う。おかしくなる。この世界は、維持出来なくなるんだ。だから、君の日常は狂う。変わる。無くなる」
「何、言って——!」

その瞬間、佳苗の視線が地球が半回転したように、上下の感覚がおかしくなり、そして頭の働きが段々と薄れていく。目の前が、真っ白と真っ黒のモノクロで覆われ、次第に意識も消えかけていく。
もう、自分がどこにいるのか、何をしているのか、どういう状態なのか、河野崎はどこにいるのか。それすらも分からずに、世界は反転していく。


「君は、世界を救えるか」


最後に響いた声は、紛れもない、河野崎の声だった。




——Apend。

Re: アブセントアブソリュート ( No.4 )
日時: 2011/09/18 22:55
名前: 音無ノ犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: PUkG9IWJ)

始まりはいつも突然。
世界の狂うのは必然。
絶対なんて言葉は、絶対存在しない。
それが、世界の掟だから。
そして、世界は——始動する。



第1章:始動



セオ・ノーヴェルが騎士になれない理由。それは簡単な理由だった。
騎士にとって、それは致命的とも言えなくもない。守るということを成し得る為には避けては通れないだろう。"人を殺める"ということは。
セオは、人を殺すことが出来ない。体というより、心がそうさせる。人は殺さない。それはポリシーでもあり、セオの心の傷の証明ともいえた。
人を殺せない。それだけで騎士になることは出来ない。敵を殺さなければ、再び守るべき人を危険に晒すことになる。それは、騎士として当たり前のことであり、成せばならぬ絶対条件だった。
それだけ、騎士にとって敵を殺さないままにするというのは危ないことなのだ。

「分かってるんだけどなぁ……」

セオは嘆息しながらも要塞の中を歩いていた。今からまた都市に戻ろうとしても、夜を跨がなければならないのは確実だったので、要塞に泊まることとなった。
ノーヴィル、という名前は表向きで、実際の人を殺せないと分かると、周りの態度は一変する。

「あんさん、人を殺せねぇのか」

つい先ほどまでは怯えていた衛兵がニヤニヤと笑いながらセオに向けて言った。英雄の養子とはそんなものか。そういう風に言われる。それは落ち零れという烙印を押されるのと同じことだった。

「まあ、そうですね」

歩いている最中に会ったその衛兵に答えた。すると、衛兵は面白がるように笑う。

「おい、何してるんだ?」
「うっ、シューズ隊長……いらしてたんですか」

衛兵が笑っている後ろで、いつの間にかシューズが立っていた。笑顔ではなく、至極真面目な顔で衛兵を見下していた。

「早く持ち場に戻りやがれ」
「は、はぃっ!」

セオを面白がっていた衛兵達は急いで持ち場へと戻っていく。その様子を見て、シューズはため息を吐き、セオに向けて「悪かったな」と言葉を漏らした。

「いえ、慣れてます。騎士志願のクセに、人を殺せないなんて……そもそもが間違いですから」

セオの言葉に、暫く口元に手を置き、シューズは黙り込んだ。そして、ゆっくりと唸りながら口を開いた。

「うーん……是非、俺としてはお前を騎士にしてやりたい。いや、お前は騎士に向いているというか、騎士しか無いと思っている」
「はは、お世辞ですか? 気持ちは嬉しいですが、シューズさんも俺が人を殺せないと知っていたから断ったんでしょう?」

セオがそういうと、シューズは途端に真面目な顔になり、

「いや、それは違う」

と、それだけ告げた。それから暫くシューズは少し困惑の表情を浮かべているセオに顔を向けていたが、すぐにいつもの陽気な笑顔に変わる。

「まあ、気にするなっ! お前はお前のやりたいことをやればいいんだからな!」
「いたっ、痛いですって、シューズさん!」

笑い、話しながらシューズはセオの背中をバンバンと大きな手で叩く。それを嫌がるセオを見て、シューズはただ笑い、

「よしっ! 今日は飲むか! 久々にあったことだしなぁ!」
「飲むって、お酒ですか?」
「当たり前だろう。ほらっ、行くぞっ!」
「って、ちょっと待ってください! 俺、酒飲めないんですよ!」
「ははは、そんなこと知るかぁ!」

シューズはセオの手首をしっかりと握り締めると、そのまま人攫いのようにして引っ張って行く。
セオが抵抗するのも虚しく、次第に諦めがついたセオはそのままシューズの部屋へと行こうとしたその時だった。

カン、カン、カン!

要塞内に鳴り響く鐘の音が聞こえてきた。この鐘の音は、敵が来たことを示すための鐘の音。暫く使われていなかったせいか、酷く聞こえにくい形となってしまっていた。

「て、敵ですっ! 何者か分かりませんが、こちらに敵意を示しています!」

奥の廊下からすっ飛んで来た衛兵がシューズに伝令を伝えに来た。
話しを聞くところによると、相手は突然平野の奥に現れたのだそうだ。もう既に薄暗くなっているこの闇夜の奥から発見するに時間を費やしたそうだ。そして、ハッキリと分かった頃には、敵は弓矢やら武器を飛ばし、衛兵に傷を負わせたのだそうだ。

「成る程な……。こんな要塞に何の御用があるんだろうなぁ、おい。……すまん、セオ。お前と酒を交わすのはまた今度だ」

そう言ってシューズは奥の方へと走り抜けてしまった。衛兵は慌てた様子でシューズの後を追いかけて行ってしまった。
取り残されたセオの手には、先ほどまで強く握られていたシューズの温もりが残っていた。

「成すことを成す。成せば、人は何にだって成れる……!」

拳を作り、セオはそう呟いた。この言葉は、家族から教えてもらったもの。記憶にある、家族から。何度これによって元気が出たことだろう。前向きに駆け抜けられる気がした。
その瞬間、ボンッ、と外から聞こえたかと思うと、セオの方向へと巨大な火の弾が飛んで来ていた。

「うわぁっ!」

前へジャンプし、前転をして何とか避ける動作を行った。その時、火の弾が近づいてくる音がし、一気に破裂した。
破裂したことにより、爆風が巻き起こる。瓦礫が砕ける音がする。あまりの衝撃により、セオの体は前転した場所よりまだ先へと転がるようにして吹き飛ばされた。

「くっ……!」

耳鳴りがして、それと同時に熱さが辺りから感じられた。火が瓦礫の上にぶち当たり、瓦礫が黒く焦げ、その煙もまた酷かった。

「下は一体どうなってるんだ……?」

シューズたちが向かったと思われる一階の方が気になった。この3階には既に誰もいないようだ。最上階でもある此処は、よく前方の光景が見える展望台がある。
とにかく状況を把握しなければと思ったセオは、立ち上がるとそのまま展望台に向けて走り出した。


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