ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 雪が齎したモノ
- 日時: 2011/09/15 23:05
- 名前: 黒兎アリス (ID: er9VAvvW)
Ⅰ雪と私と佐藤さん。
雪が降った。
私が住んでいる地域は、あんまり雪が降らない。降ったとしても、積もらないのだ。雪の水分が多いのかな?でも今年は雪が降り、積もったのだ。朝、何か寒いなと思って窓を開けたら、真っ白の世界だった。雪なんて、経験したことのない私は感動しで・・・、て、まあ雪のことは、このくらいでいいや。
私は外に出た。雪が降った日に出かける物好きなんて、私か好奇心のある子供たちくらいだろう。私は今、膝まであるブーツを履き、グルグルにマフラーを巻いて、手袋と耳あてをした完全装備だ。
きゅ・・・
靴が雪を踏む音が響く。この近くには、好奇心のある子供が居ないのか、誰も居なく静かだった。何だか、世界に自分一人だけが置いて行かれたような錯覚に陥る。私は、ふぅ・・・と息をはいた。白かった。
「・・・何しよ・・・」
完全装備で出てきたものの、何もすることがない。コンビニ行こうにも、少し遠い。田舎にはよくあることだけど、結構不便だ。でも家に帰るのもな、と思う。
家には母がいる。昔は怒鳴り散らす程元気だった母は、今はほぼ寝ている。そんな中、私が上京できたのも、姉が母の世話をしてくれているおかげだ。父は一昨年に亡くなった。
きゅ、きゅ・・・
何もすることがなく、川沿いを歩いてみる。冬の川は何だが綺麗だ。真夏の川と違い、儚さが出てくる。ポケットからカメラを取り出し、川を撮ってみる。昔、てか高校生の時、写真部に入っていた私は、常にカメラを持ち歩いていた。今でもだ。
写真を撮ってると、ときどき大学の友人に驚かれる。まあ確かに、私にはカメラは似合わないよなぁ。茶髪に染めた長い毛に、ロック系の服(今は冬だからまだマシだ)というのが私の通常の服装だ。
パシャ
一枚、写真を撮る。うぅん・・・やっぱり微妙だ。久々にカメラを握ったから、あまり期待はしなかったが、やはり微妙だった。
高校のときも、微妙な物しか撮れなかった。顧問の先生や周りの大人達は絶賛してくれたけど、私はどうしても納得できなかったのだ。しかし何度も撮るうちに、私も大人になった。ようは諦めたのだ。
はぁ、と白いため息をついたとき、ふと懐かしい声が聞こえた。
「やあ、久しぶりだね、優香ちゃん」
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- Re: 雪が齎したモノ ( No.1 )
- 日時: 2011/09/18 10:52
- 名前: 黒兎 (ID: PZ90N.oj)
Ⅱ雪と私と佐藤さん
「新井さん?」
「そうだよ、久しぶりだね。戻ってきたの?」
新井さんだった。新井さんは、私が通ってていた高校の事務員の方だ。私が写真を撮っている時に、たまたま声をかけてくれたのが、そもそもの始まり。
「そりゃ、まぁ、正月だし・・・」
私はそのまま、新井さんから外方を向いた。別に新井さんが嫌いなわけではないが、今は自分の時間を邪魔されたくはなかったのだ。
パシャッ
「お母さんは元気?」
「えぇ、まぁ・・・」
パシャッ
「お父さんは?」
「・・・一昨年、亡くなりました」
ひゅ、と息を呑む音が聞こえた。知らなかったのだろうか。
いや、流石に父が亡くなっていたのは分かっていると思うけど。だってこんな小さな村だ。誰が死んで、誰が産まれたのか、すぐ分かる。そして誰が不倫して、誰が夜逃げしたかなんて、すぐ噂は広まる。
そんな振り返らずとも分かる私の怪訝な雰囲気を察したのだろう、新井さんは、
「いや、知っていたよ」
「じゃあ、何で聞いたんですか」
パシャッ
「君が、あまりにもつれないから、かな」
「・・・最悪ですね」
新井さんは、少し意味不明なところがある。ていうか、これが私じゃなかったら、やばかったんじゃなかったのだろうか。ていうか、私だから言ったのだろうけど。
私は新井さんを振り返る。
「別にいいですけど」
パシャッ
今度は新井さんを撮ってみた。新井さんは動じず、ゆっくりとした微笑みを浮かべる。・・・何かムカツク。
「まだ写真を撮っているのかい?」
「少しだけですけど」
カメラの再生フォルダを押してみる。先ほど撮った写真が出てきた。・・・やっぱ全部微妙だ。消そうとも思ったが、何だか妙に思い入れがあるのだ。消したくはない。
最後に、新井さんの写真だ。当たり前だが、高校時代から数年が経ったのだ。少し貫禄が出ている。あ、白髪。
「そういえばさ、友紀ちゃん、亡くなったんだって?」
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