ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 陸の上
- 日時: 2011/09/29 15:52
- 名前: 渡辺宰生 (ID: dZI9QaVT)
- 参照: http://www.a8.net/a8v2/asMemberAction.do
友は悪だった。
渡と声が聞こえた。
俺を呼ぶいつものこえだ。
神山正男。俺の親友だ。
俺は桜高校二年B組、高橋渡。正男とは同級生で同じクラス。やつは左目が見えない。今日体育だろ?また見れるぜ、あれが。と俺は言う。
榊さんのこと?と正男。
ああ。
好きだね、渡と正男の言葉。
まあね。
榊美幸。校内一の美人と言われる。陸上部のエース。すらっとした八頭身美人。朝一の授業でも、人気者だった。
今は体育の時間。体操着に着替えた榊。やはり他の女とは違う。
非のうちどころのない人気者だ。
その日の帰り道。正男と俺が言う。
帰り本屋いこうぜとおれ。いいよ、と正男。
店先で週刊漫画を読む。そのとき正男が俺を呼んだ。あ、榊の妹だ。と俺。彼女は足を引きずりながら歩いている。榊可菜。榊美幸と比較されるが、正直いって不細工だ。片足に障害を持ってる。
俺らの横を通り過ぎていく。もうちょっとかわいけりゃあなあと俺が言う。
そのあと正男と別れて、夕飯だ。飯を終え、榊姉妹のことを考える。身長は同じくらいだよな。両親はどんな人なんだろ。……
朝になってた。学校へ行く。ねむいなあ。
おや?榊が来てない。休みか?珍しい。どうしたんだろ。気になる。正男を呼んだ。なんか榊のことしってるか?とおれが正男に言う。いや、知らないねえ。心配だよねと正男。次の日の朝。学校で。鈴木先生。実はみんなにはなしがある。榊美幸のことだ。実は彼女のうちは火事にあって、親戚のうちに避難していたんだ。榊自身もまだ気持ちが落ち着いていなくて登校できないとのことなんだ。榊のうちは人里から離れた屋敷だから、火事にきづかれにかったらしい。そういうことなんでみんな榊に気を配ってやってくれ。ざわつく教室。先生。見舞に行ってもいいんですかとおれが言う。いや、いまは休みたいとのことなんで遠慮してほしいとのことだ。榊も妹さんもだ。
ショック。火事か。
でも見舞もいけないとはなあ。いつ学校にもどってくるんだろう。
それから三ヶ月経ち、やっと榊は登校して来た。 四月を過ぎ、高三B組に俺達はなっていた。榊もそのままB組へ。期末とか進級テストは一人で受けに来ていたらしい。
その間の俺の悩みはいつも榊のことだった。
榊は元気を取り戻していた。ただ、三ヶ月のうちに、陸上部は引退の季節を過ぎていた。うちは進学校で部活は高二の三月で引退。もう榊は以前の榊ではない。勉強の遅れは大丈夫なようだが、彼女の環境は変わっていた。以前の人気はうそのように静かになった。だが、おれは一人になった榊のほうが近寄りやすかった。だが、環境が変わったこと、火事のこと、それ以上に、榊が変わったような違和感が、ずっと続いていたのだ。正男、帰ろうぜ。おれがいう。うん。なんか元気ないね、渡。正男が言う。え、そうか。よく榊さんと話しててそのときは楽しそうだけど、話しが終わって別れるとなんかすごく疲れたような……、そんな感じが見ててする。と正男。そう、かもな。なんか、違和感を感じるんだ、榊に。以前の榊の延長線に今の榊がある、そのはずなんだけど、なんか、不自然なんだ。とおれがいう。……。ん、ん?正男?と俺。すると正男は笑顔をみせて、気にしすぎじゃないの。疲れてるんだよ。エッチなことしすぎなんじゃないの?あ、ぼく今日夕食作んなきゃいけないからス
ーパー寄ってくよ。遠いから、ここで別れようよ。じゃあね。悪いね、急に。と正男は去って行った。なんだ?一体。五月。そろそろ進路を考えないといけない。。
榊の妹はそのまま親戚の家のほうの学校に転校したらしい。
転校、ね。転校、か。
納得できないものを感じながら、榊と話す。他愛のない話。違和感はもう忘れていた。そう。忘れていただけだ。
つぎのひは休日だった。散歩。国道沿いの道。ラブホテルがある。よく先生にカップルが見つかって補導される。別段きにとめず通り過ぎようとすると、榊と正男の声が、二階の窓からかすかに聞こえた気がした。いつも聞いている声だから。だが、気のせいだろう。あの正男が、ね。なにか、自分に納得させようとしているようだった。
夏、八月。
突然、榊に呼び出された。家に来ないかって。
塾の夏期講習が休みの日に行った。
なぜだろう。どきどきはなかった。
ただ、何かが変わる。そんな予感がした。
榊のうち。マンション。火事になってから引っ越したところだ。
居間に座る。両親は海外勤務でいつもいないらしい。妹さんは親戚のところだ。俺と榊だけ。他にだれもいない。ねえ。榊が言う。ん。あたし変わった?榊が言う。変わったって何が?おれがいう。わかんない?見てわからない?え?榊をじっとみる。胸が大きい。榊はスレンダーだった。いれもの?ほんもの。触ればわかるわ。え、ほんもの?なにが起こってるかわからない?なら、これをみて。大きな傷痕。これ……。手術は大変だったわ。リハビリもね。え、え?まだわからないってかんじね。……、もういいわ。あとは正男に聞いて。わたし、もう疲れたのよ。なにもかも。そういって榊は出ていった。おれは一人残された。
混乱する頭の中で、ひとつだけわかったことがある。正男が変わったこと。俺が変わってないこと。
夏休みの登校日。昼休み。屋上。くもり。正男と俺。
正男。可菜がしゃべったか。ま、いいころあいだったな。わかるようにせつめいしてやるよ。そう、姉の美幸と妹の可菜を入れ換えたのさ。美幸を火事で殺し、足を移植し、あとは胸をさらしでごまかして、声帯、リハビリを三ヶ月で終わらせた。なぜかって?ひまつぶしだよ。おまえが大人になるのが見たかったのさ。おまえはぼんくらだからな。あんな優等生に気があるようなんじゃ、救いがない。おまえを救ってやったんだよ。衆愚から。……、いや、ひまつぶしだな。かんちがいするな。妹への同情じゃねえぜ。ひまつぶしだよ。ぼんくらの善人の一番大事な物を奪う、それが一番楽しい悪だろ。動機なんて邪推するな。無粋だ。でどうすんだおまえは。おれを警察につきだすか?証拠なんてないぜ。うまくやったからな。榊のうちに金めのもの盗難のついでに、暴力団に力を借りた。そこらへんはあっちはプロだ。そのかわり、高校を出たら暴力団に入らなくちゃならないだろうがな。ま、いいさ、どうせ人生はひまつぶしなんだ。さあ、ぼんくら。ぼーっとしてないで反応しろよ。おれを
楽しませろ。
俺が言えた言葉はひとつだけ。一蓮托生。
へえ?なんだって?俺とお前は一蓮托生だ。もう秘密をお互いに握っちまった。友だ。もう、切れることはできない仲だ。へえ。ふーん。友ね。先に言われちまうとはな。そうだな、可菜はおまえにやるよ。美幸だと思ってセックスすればいい。もう姉のふりも疲れたようだしな。友ね、友。悪友か。ふーん。
やるじゃないか。これからもよろしくたのむぜ、親友。
天気が急に晴れた。炎天下。昼休みはとっくに終わっている。おれは気が狂ったのか、いや、おれは変われたんだ、いいじゃないか。少なくとも今後は退屈じゃない。悪友とともに。
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