ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 桔梗の花束
- 日時: 2011/10/23 14:13
- 名前: 綾 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
私は綾と申します。
未熟者ですが、どうぞよろしく。
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- Re: 桔梗の花束 ( No.1 )
- 日時: 2011/10/23 19:20
- 名前: 綾 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
女はね、意外と純心なんだよ—————
昔、俺の女だった女が言った言葉だ。その女はな、生前その幼い娘に語ったらしい。娘の父親が早死にし、家を一人で切り盛りし娘を育てる為、毎晩夜遅く一生懸命、頑張って働き詰めで働いていたんだよ。
そしてその女は、近所で小さな茶屋を開いたんだ。元々ここは旅人が多く訊ね、宿などが多い処で有名だったから、絶好の儲け場所だ。茶屋は宿がある為、少なかったもんだ。
そこに眼をつけた女が、養う為で開いた訳よ。女の温かい接待と優しい人柄で評判の茶屋となって、俺もあいつはやるな、と思っていたぜ。
けどよ、今度は逆に忙しくて昼飯はいつも朝の内に作っておいたおにぎりを食べるのが、娘の昼飯となっていやがった。
可哀想なもんだろう。
だから、女も申し訳なかったんだろう。晩飯だけは一緒だったんだぜ。そうして娘も母親を慕って尊敬し、母娘仲は近所で評判の親子だった。でもな、運命とは残酷だね。
おっと、これ以上は金を払って聞きな。
うん?出会ったのも何かの運命だって、お客さん、うめぇな。よし、それじゃあ、特別に代金はいらねぇ。黙って聞いてろよ。
女はね、意外と純心なんだよ。
何が、純心だ。まあ、間違いはねぇけど、ちょっと違うだろうなぁ。でもよ、悲しいって言えば悲しいもんだ。今日はそんな浮世話をするから、お前らも用心しろよ?
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- Re: 桔梗の花束 ( No.2 )
- 日時: 2011/10/23 21:00
- 名前: 栗鼠隊長 ◆Q6yanCao8s (ID: aza868x/)
- 参照: 元:旬です。『りすたいちょー』と読みます。
期待できそうな作品ですね,ふむふむ……。
楽しみにしておきますか……。
では!
- Re: 桔梗の花束 ( No.3 )
- 日時: 2011/10/23 21:27
- 名前: 綾 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
亡き母が残した茶屋、〝桜沢〟を一人で切り盛りしてる。良く男性客から店の〝看板娘〟と呼ばれてるけど何だが恥ずかしいな。そんな訳で今日も忙しい中、一生懸命お母さんが残した店に泥を塗らぬよう、温かく接待して旅人達の疲れを癒すのが、茶屋の大切な心得だと母から教えられている。
今日は店は久しぶりに休店にした。たまに休まないと体が持たないから、久しぶりの休日を満喫しなきゃもったいないわ。外に出て大通りを散歩する。久しぶりの早朝の散歩は気持ちいいわね。
「本当に久しぶりだわ……」
それにしても、私と同い年の娘さん達は皆お洒落したり浮世話や世話話で喋ったり遊んだり、一緒に家事をして着飾ったり、お宮参りしたり。
お茶を楽しむ、そんな遊びを出来る子達が羨ましいなあ。
私も一度でも良いから、あんな風に遊んでみたいな。お母さんが私を養う為に開いて切り盛りした店を潰す訳にはいかない。
だけど……。
お父さんさえ生きていれば、こんな風になれたのかしら。
そう思うと頬に一粒、涙が流れちゃった。いけない、いけない。こんな事で悩んじゃ、ダメよね。お母さんの大切な大切な店なんだもの。我慢すればきっと良いことがある。皆みたいに遊べる日が来るわ、きっと。
橋の前まで散歩した後、家へ戻って久しぶりに本を読書した。
■
今日も理由があって休店だった。お客様に悪い事をしちゃったけれど、まあ、二日くらい休んでも罰は当たらないか。だけど、明日はちゃんとしなくちゃね。昨日と同じく外へ出た。大通りは、いつも賑やかよね。
そこへ、同い年で今はあんまり付き合わなくなったお露ちゃんを見かけた。隣に居る男は誰だったかしら。
「………ああ」
噂で聞いたお付き合いしている人が貫太郎さんだったっけ。お露ちゃん。もうそんな人が居るのね。私なんかお店が忙しくてちっとも作れやしなかったけど。
「良いなあ……私も」
あんな風に恋人を作ってみたい。お露ちゃんは店の隣近所の貫太郎さんと一緒に手を繋いで仲良く歩いていた。そして振り返ると視線が合う。お露ちゃんが笑顔でこちらへ向かってきた。
どうしましょう、ロクにお付き合いをしてなかったから、どう話せば良いのかしら。迷っている内、貫太郎さんを連れたお露ちゃんが誇らしげに話しかけた。
「お春ちゃん、久しぶりね。今日はお休みなの?真面目なお春ちゃんが?珍しいね、たまにはゆっくりしないとね。ほらほら、たまにはさ、お見合いでもしなさいよ。……でも一人で店を切り盛りしているから、お春ちゃんにはまだ早いかな?早くしないと20代になっちゃうわよ!」
馬鹿にする風に言ったお露ちゃん。貫太郎さんも釣られて笑っている。酷い。酷いわ、お露ちゃん。何で、そんな私を馬鹿にするのかしら。町人達、皆が私を馬鹿にしたりしてくるの。何で何でそんな風にするのよ。
私、何か悪い事をしたのかな。それとも……好い加減に結婚しろ、という意味。考える内、鐘の音がした。もう辰の正刻か。
「おや。早く家に戻らないとおっかさんに怒られちまう。じゃあな、お春さん。お春さんも一生懸命で偉いよ。お露も見習ったら、どうだい」
「まあ、アタシなりに頑張ってるのに?やあね」
「お春さんに比べようのないほど、頑張ってないよ、お前は」
などと喋りながら何処かへ行った。
姿が見えなくなった後もずっと見続ける。
——でも一人で店を切り盛りしているから、お春ちゃんには……
そんな事、ない。絶対に私も婿を取れるわ。大分前というか何時も色んな人から、お客さんにも私は〝美女〟と言われ続けているんですもの。だから、ずっと前から綺麗なのかな、と思い続けてた。
現に今も色んな人達から視線を感じる。……そうなの、かしら。
もしも、そうなら。私もすぐにお婿さんを取れるよね。今度お見合い話が来た時、考えてみようかな。
そういえば、今日も晴天で気持ちいい朝ね。
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- Re: 桔梗の花束 ( No.4 )
- 日時: 2011/10/23 21:31
- 名前: 綾 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
栗鼠隊長様
初めまして。期待が出来るとは特上の褒め言葉でございます!
ちなみに江戸時代をイメージ?していますね。……うん。
是非、まだまだ未熟者ですが、お楽しみにして頂けると嬉しいです。
- Re: 桔梗の花束 ( No.5 )
- 日時: 2011/10/30 12:35
- 名前: 綾 ◆eRcsbwzWZk (ID: /iUvxDbR)
草木も眠る丑三つ時。良く芝居に出てくる言葉の時間帯に、店を出た。店の前で人影を見かけたから、一体誰なのか気になったの。……別に、確かめるくらい良いでしょうし。私は急いでその人影を追った———。気付けば、知らない処にいた。ああ、どうしましょう。今まで真夜中で外に出た事がないから分からないですもの。此処は何処なのかしら…。
怖くなった。怖くて怖くて、私は人影が待ち侘びてる処の陰で佇む。誰か、誰か助けて。ぎゅ、と目をつぶった時、背後から気配を感じる。誰、誰、誰なの。
「……お春ちゃん?」
かけられた声の持ち主は、お露ちゃんだった。恐る恐る振り向いたら、不気味に微笑んだお露ちゃんがいた。昼間のお露ちゃんと全く違うわ。それじゃあ、誰なの。怖くて足が竦んでしまう。
急にけらけら、と笑いだした。逃げようと背を向いた時。肩を強く握られ、引っ張られた。
「きゃああ!………きゃ。な、何?」
「………お春ちゃん。実はね、アタシはお露の体を乗っ取った妖なの」
妖、と聞いた瞬間、全身が凍りついた。まるで金縛りにあったようで。体が言う事を聞いてくれない。ああ、どうしましょう。どうするべき。恐怖で声が思うように出ない。
「大丈夫、お露の魂は食べたけどアンタの魂も人格も全て奪わないよ。全て、じゃなくて単に体だけかな。まあ、普段はアンタは気付かないけどアタシがアンタの中に潜んでる。そんでもって時には体を乗っ取ってアンタの望みを叶えてやるのさ。………くくく」
耳元で囁かれた。吐息が耳をくすぐって痒い感じ。お露ちゃんとは違う魅惑と艶で私はどうすれば良いのか、頭の中はそれが一杯なので妖怪の言う事が全く聞いていなかった。聞いたとしても分からない筈。それよりも——。
「だ、誰か…!」
体を捩って助けを求めようとしたけど、びくともしない。
「無駄よ、だってアンタを招く為にこんな人気のない処に来たんだよ。さあ、潔く体を渡しな!まあ、例え死んでも魂だけは食らわないよ。妖の約束は人間だろうが何だろうが、妖の間では絶対。アンタ等人間みたいに色々と決まりごとがない分、その一つが鉄則、だからねぇ………」
お露ちゃん———妖が、私の首筋に、噛みついた。
■
目が覚めた。それにしても、どうしてこんなにも気怠いのかしらねぇ。とんとん、と肩を叩く。そうして店の準備をしなくてはいけなかった。いけないわ。三日も休んでられないもの……。茶売りの女将さんなら、きっと普通は一週間も休むもんだよ、と言うんだろう。でも、ダメ。私は仕事好きですもの。お母さんが私の為に開いたお店。
私を愛するが為、懸命に働いて寝る間も惜しんで働いた店なのに……。罪悪感で押し潰されかかったけど、すぐ気を持ち直し、準備を始めた。そういえば、先程から外が騒がしいわね。
何事だろう。準備の手を止めて外を出る。すると近所に住んでいるおかみさんと貫太郎さんが目を真っ赤に腫らし、泣いている。人々も集って何やら騒がしい。——何か、事件でもあったのかしら。
近くにいた旅人さんに訊ねると。
「ああ、何でも……女が路地裏で死んでたらしい。理由は見るからに、疲労でやつれきっているとか。だけどあそこに、親とお見合いでもうすぐ花婿になるはずだった奴がいるだろ?そいつ等によれば、疲労する事は有り得ないだってよ。一体何が原因やら。おお、恐ろしいねぇ……」
———ということは、お露ちゃんが死んだ事になる。
嫌だわ。昨日お露ちゃんと逢ったけどあんなに元気で若々しかったわ。なのに、疲労と言う言葉一つすら、思い浮かばないくらい。貫太郎さんと一緒で仲良く歩いていたはず。じゃあ、何で疲労しているのかしら。
おかみさんの声が聞こえた。近づくと喚いてるが、はっきりと聞こえる。おかみさんの悲痛の声が。
「違う!絶対にうちの子は疲労なんかしてないんだよぉ…!ほ、ほら!お春ちゃん。あんたも昨日お露にあったんだろう?お露は疲れ切った顔とかしていたかい?……ねね!そうだろ!お露は元気だったんだよぉ……。お露は妖怪に憑かれちまったんだよぉ!あああ、お露——!」
妖怪、で頭が一瞬痛くなった。込み上げる吐き気を抑えた後、頭の中が何となく腑に落ちない。私は何かを、忘れている気がする。何を忘れてるのかしら。腑に落ちないまま、現場で泣き崩れるお露ちゃんのおかみさんを見守った。
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