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シオンの瞳
日時: 2011/10/30 22:04
名前: 瑞希 (ID: l9EMFnR1)

第0話;そして、二人は


ざわつく朝の教室内。
いつもの風景、いつもの時間、いつもの場所。
俺の平穏な、日常。

「なあ一葉かずは!お前もう聞いたか?」
「・・・・何だよやすし、聞くって何を?くだらないことならやめてくれよ?眠くて仕方ないんだから・・・」

眠気と戦い机に突っ伏している俺に陽気に話しかけてくる男、康は席が隣同士の友人だ。
周りに気配りができて、クラスメイトからの評判も上場のいい奴。

「聞いて驚くなよ〜?今日、このクラスに転校生が来るらしいんだよ」
「・・・・は?転校生?もうすぐ夏休みのこの時期にか?」
「そう、この時期に!不思議だよな〜。お前も気になるだろ?」
「・・・・・別に・・・・・・・」

なんだよ〜ホントは気になるんだろ〜?
康の言葉が耳に入ってくるが、気に留めることはしない。
本当に、どうでもいいから。
なんでも、なんでもいいんだ。
俺の平穏な<日常>が守られれば、それで。
・・・ああ、眠い。


ざわつく朝の教室内。
いつもの風景、いつもの時間、いつもの場所。
俺の平穏な、日常。
・・・突然、その場所に静寂が訪れた。
担任教師が教室内に入ってきた。それが理由ではない。
その後ろの少女が、教室内に静寂をもたらしたのだ。
教師は、少し乾いた手でチョークを握り、黒板に文字を綴る。
教室中の人間が、そこに集中した。
無機質な音を立ててチョークを黒板で削っていた教師の手が、止まる。

「おはよう皆。今日もいい天気だぞ!さて、もう皆知っているだろうが、新しいクラスメイトが増えるぞ!!
 じゃあ自己紹介をしてもらおうか、緊張しなくていいからな」
「・・・・・・・・・・・・・」

教師の言葉に頷くことなく、少女は言葉を唇から溢れさせた。


「・・・・縁淵 紫苑(えんふち しおん)です・・・よろしく」

黒く美しい髪を風に靡かせ、紫紺の瞳を輝かせながら。
・・・・・一瞬目が合ったと思ったのは、気のせいだろうか。

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Re: シオンの瞳 ( No.1 )
日時: 2011/10/30 22:36
名前: 瑞希 (ID: l9EMFnR1)

第1話;そして彼女は、日常を壊した


「ねえ!縁淵さんは前はどこの学校に居たの?」
「縁淵さんこの学校広いから迷うでしょ?今度俺が案内しようか?」
「あのね!今日の放課後友達とカラオケ行くんだけどさ、良かったら一緒に行かない?」

転校生、縁淵の周りには人だかりができていた。
まあ、あれだけ綺麗な容姿をしているのだから当然といえば当然なのだが。
・・・・俺の<日常>には無かったことだ。

「前の学校は田舎の学校だから、多分皆知らないと思う。だから内緒!
 学校のことはこの前の土曜日に先生から教えてもらったから大丈夫だよ。
 今日の放課後は転校に必要な書類を出さなくちゃいけないの。
 誘ってくれたのに・・・ごめんね?」

縁淵は可愛らしく、笑顔で首を傾げて見せた。
その姿に、話しかけていた奴ら男女問わず、その顔に心奪われたかのように顔を赤面させていた。
・・・俺はなんとも思わないが。


それから、気がつけば放課後になっていた。
なぜ曖昧な表現なのかというと・・・朝からずっと眠っていたからだ。
教室には誰も居ない。オレンジ色に焼けた空の光だけが、そこに存在する。
・・・・静寂が、少しだけ心地いい。
そう思っていると、大きな音を立てて教室の扉を誰かが開いた。
静寂を破られた苛立ちから、眉間に皺を寄せてそちらを見やる。と。
たった一日で人気者になった転校生、縁淵が立っていた。

「あ、丘木おかぎくん。起きたんだ!良かった〜、私もう帰るんだけど、教室の戸締り、どうしようか困ってたんだよね」

えへへ。と困ったように笑う縁淵に、吐き気がする。

「・・・そんな嘘の笑顔で、よく笑えるな。気持ち悪い、二度と俺にそんな顔見せるな」
「!・・・・・・・」

我慢できずに、暴言を浴びせた。
・・・・泣くんだろうか。女は簡単に泣く。
俺の<日常>では、大体そんな感じだからな。
俯いていた縁淵。しかし、その顔をゆっくりと上げた。
・・・・・そこには、先ほどまでの気持ちの悪い笑顔は無く、ただただ、まっすぐに俺を映す瞳を向けてきた。

「・・・・これは、やはりそういうことなのか・・・」
「・・・・・何が、だよ・・・」

いきなり口調が180度変わったことに少し驚きながらも、俺は縁淵に尋ねる。

「・・・・・違うな、<まだ>だ。・・・・わかった、お前の前でだけは<素>で居ることにするよ。人が居れば別だがな。
 あと、私のことを縁淵と呼ぶのはやめろ、気持ち悪い。じゃあな<一葉>。また明日」
「!ちょ、おい!!!!!!!!」

言いたいことだけ言って、縁淵、もとい紫苑は、カバンを徐に掴みあげると、教室を出ようとした。

「ああ、そうだ、言い忘れていた」

くるりと振り返り、紫苑は俺に言う。

「あまり寝すぎると、夢から覚められなくなるぞ」


・・・・・不思議な表情を残して、紫苑は教室から居なくなった。

Re: シオンの瞳 ( No.2 )
日時: 2011/11/04 17:32
名前: 瑞希 (ID: l9EMFnR1)

第2話;そして、クラスは波乱に呑まれる


「おはよう縁淵さん!」
「おはよう縁淵!!」
「おはよう」
「縁淵さん、おはよう」

次々とクラスの奴らがあいつ、紫苑に声をかける。
・・・まるでアイドルか何かのようだ。

「おはよう皆!今日も朝からいい天気だね!!」

にこり。と笑った顔に、誰もが魅了される。
一気に紫苑の周りに人だかりができ、姿が埋もれて見えなくなった。
そんな光景をボーっとしながら見ていると、康が声をかけてきた。

「おいおい一葉、朝からまた寝てるのかよ」
「・・・・わかっているなら察しろ、眠いんだ」
「ていうかやばくね?!縁淵さんの人気度!!可愛いし、優しいし!!こりゃもてるね〜!!」

話を聞かない。そんな<日常>に少し安堵する。
最近は<非日常>ばかりで、苛々していたから嬉しい。
・・・・・・・・・・・・・・なのに。
いきなり紫苑が立ち上がり、俺のほうに歩いてきたかと思うと。

「ねえ一葉!今日の帰りにデートしようよ!!」
「っ、ちょ、おい!!!!!!!」
「「「「「「「ええええええええええええええええええ!!!!!!!!!??????????」」」」」」」

クラス中が悲鳴に包まれ、俺の元へと詰め寄ってきた。

「おい一葉どういうことだ!!」
「いつから?!転校してきたの先週だよ?!」
「どうやって付き合い始めたの?!教えてよ!!」
「羨ましいぞ一葉!!!!!!!!!!!!!」
「ちょ、おい!!」

人ごみにもまれる中で、ちらりと紫苑の方を見る。
にやり、と笑い、口元がゆっくりと動いた。
声こそ出ていないものの、口の形で、何を言おうとしているのかがわかった。


ざ・ま・あ・み・ろ


「っ、おい紫苑!!!」

紫苑はそれだけ言うと、くるりと背中を向けて教室から出ていってしまった。
何がざまあみろだ!!意味がわからない!!






「・・・・・・・・・一葉・・・」
紫苑の声が、虚しく廊下で消えていった。


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