ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 麗しき、鏡屋
- 日時: 2011/11/03 17:35
- 名前: 知夏 ◆kcNJx0uKOM (ID: /iUvxDbR)
知夏と申します。
更新は遅いですが、よろしく。
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- Re: 麗しき、鏡屋 ( No.1 )
- 日時: 2011/11/03 18:02
- 名前: 知夏 ◆kcNJx0uKOM (ID: /iUvxDbR)
登場人物
巴
鏡を売る鏡屋を営む女主人。次々と来る客は全て一期一会の店。
無表情で無口、鋭く的確を指摘する毒舌家。
麗人。好物は、水飴。
愛
貧困の為、親に捨てられた捨て子。12歳。
世間では巴の養子だが事実上、巴の店の店番。
ちなみに学校に通っておらず、必要最低限の読み書きしか出来ない。
好物は、金平糖。
- Re: 麗しき、鏡屋 ( No.2 )
- 日時: 2011/11/03 18:19
- 名前: 知夏 ◆kcNJx0uKOM (ID: /iUvxDbR)
さあさあ、来なさい。来なさい。
一度だけの関係しか持てぬ店で御座います。
貴女様の、願望や羨望や欲望や嫉妬や恨みや何でもかんでも叶えます。
それには、鏡が必要で御座いますが。それと、女主人の監視もです。
ああ、ご心配なさらないでくださいませ。
貴女様の生活やその後の人生を十日間しか見ません。
そして、どのような結末になろうが、知った事では御座いませぬゆえ。
恨まないでくださいまし。
さあさあ、来ないんですか。来ないんですか。
そうですなあ、〝一期一会〟が相応しい店で御座います。
貴女様の〝願望〟を叶える〝鏡〟を売る鏡屋で御座いますゆえに……
- Re: 麗しき、鏡屋 ( No.3 )
- 日時: 2011/11/03 19:31
- 名前: 知夏 ◆kcNJx0uKOM (ID: /iUvxDbR)
涙を流し、ぽつんと佇む少女。見つめる先は夕焼けが紅く染める河原の水面。足元に雑草が、触れる。痒い感じに思わず眉を顰める。そうしている内に、秋は釣瓶落とし。なるほど、もう闇と河原の水面が同化し、何処から、空か水面か判別不能だ。
そして、河原を一瞥し再び歩き始めた。砂利が靴とぶつかり合って音を鳴らす。足場が悪いようで少女はきゃあ、と言った後、転んでしまう。膝から紅い血が流れた。砂と土と血が混じった膝を見て重苦しい溜息。頬が涙で濡れ、それと生乾きのままで気持ち悪い。
痛さで右足を引きずりながら、歩いた。
七時を過ぎたころ、辺りは暗く街路灯とあちこちの店の漏れた明かりでさほど歩き辛くない。けど町外れの道を選んだ。泣き腫らしたみっともない顔を人々に見られたくなかったのだ。しばらく歩いた後、蔦の這った白い壁が印象の古風な店が映った。看板は鏡屋、と書かれている。
気になった彼女は、立ち止まる。じっと見続けたら、好奇心で中へ入ってみると中に十代前半くらいの少女と麗人の女がいる。麗人の女は小紋柄の藍色の着物で灰色の袴を着ている。
少女は、優雅に着流した浅葱色の着物と黒色の帯が特徴だ。片方は無表情で片方はうっすらと淡い笑みを浮かべて、いらっしゃいと呟く。
「こんばんわ、何かお探しかしら。———ねぇ」
横で女を見た少女を女が見遣ると、一歩。泣き腫らした少女に近づく。
「こんばんわ。貴女様の願いは何で御座いましょうか。この店は鏡を売る、即ち鏡屋を営んでおります。しかし、ただの鏡を売るのでは御座いません。貴女様の願いを叶える鏡を売るので御座います。意味が分からぬようで御座いますね。つまり、貴方様の願いを叶えるに相応しい鏡を私共が売るので御座います。代金は千円台から一万円台で御座います」
鞄の中に代金は二千円あったと思い出した。女の言う事が信じられないが何処か本当の気がした。試しに、と彼女が女に訊ねる。
「あ、あの………。それじゃあ、何が叶うんですか」
女の冷めた声で言った。
「何でもで、御座います」
「そう、……ですか」
まるで動く機械、ロボットだ。先程から無表情で何を考えているのか、全く分からない。そもそも感情があるさえも掴めない。しかし、思い当たる願望があった。少女は好奇心と自棄で購入を決めた。
「それじゃあ、恋人を奪った親友を殺す事は……可能ですか。しかも、私は何もしなくても向こうが勝手に死んでくれる……鏡を。お願い出来ますか。それは値段はいくらですか。二千円台で買えますか」
女が、くるりと背を向いた。奥へと消えてしまう。しばらくすれば、手に手鏡を持った女が出てきた。薔薇と蔦の彫刻が素晴らしい。女は少女に手渡す。
「千四百円で御座います」
「え、あ……はい」
財布を取り出して細かい小銭が無いので二千円全額、払った。
「それでは二度とお目にかかりませぬが、良き人生を」
「はっ……」
気付くと外に放り出され、扉が既に仕舞っていた。
訳が分からぬ不気味さですっかり怯えた彼女は急いでその場を立ち去ったという。
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