ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ひとこと
日時: 2011/11/05 19:08
名前: 文織 (ID: b5XL8ts8)

ママが死んだ。
でも、そのかわりにママぐらい大切な人を見つけた。
ママぐらい私を大切にしてくれる人を見つけた。
あの人と会ったのはママの四十九日が終わったころ。

Page:1



Re: ひとこと ( No.1 )
日時: 2011/11/05 19:09
名前: 文織 (ID: b5XL8ts8)

ママ。今日もお花もって来たよ。」
私は母の墓前に花を添えた。これが私の最近の日課だ。
しかし、夏休みが終わればこれなくなってしまう。
そして、今日は夏休み最後の日だ。
「ごめんね、これからしばらくこれなくなるよ。」
その時だった。

「ねぇ。」
後ろから声がした。
「ふぇっ!?」
私は尻餅をついた。いたいなまったく。
なによ!人の背後から声をかけるなんて!どんな礼儀知らずなヤツ!文句言ってやらなくちゃ!そう思い威勢よく振り向こうとしたときだった。

Re: ひとこと ( No.2 )
日時: 2011/11/05 19:11
名前: 文織 (ID: b5XL8ts8)

そのときだった。
「大丈夫?」
そういって声の主は私の顔を覗き込んできた。
「っ!」
息を呑む美しさ。
この言葉はこの人のためにあるのだと思った。
さらさらした真っ黒い髪、ぬれた黒真珠のような瞳、すらりとした肢体。きりっとした目鼻立ち。すべてが完璧だった。しかし。怖い。氷のような美しさだ。
ちょっといらっとくるなぁ、ここまで完璧だと。
「ねぇってば。」
美しさのあまり、少しの間意識が飛んでいたようだった。
目の前の彼が不機嫌そうに声をかけてきた。かなり怖い。
「はいぃ!」
私は恐怖のあまり、過剰な反応をしてしまった。正直かなり恥ずかしい。
「大丈夫?」
「だいじょうぶですぅぅぅ!」
「そんなに怯えないでよ。」
彼は少し困ったように言った。
「す、すいません…」
「だから…もういいや。君さ毎日来ているけれど、そんなにも大切な人なの?」
彼はあきれたようにいった。少し笑っている。ちょっと怖くないかもしれない。
「はい。ここに居るのは私の母なんです。ここに眠ってるの。」
「ふぅん、じゃあ僕と同じだね。」
さも興味ありませんみたいに答えた。自分が聞いたくせに!なんだよ!
しかし私は笑顔で話を続ける。
「あなたもお母さんいないんですか?」
私と同じというだけで、少し親近感を覚えた。
「そうだよ。三年ぐらい前だけどね。」
「あなたもお母さんの墓参りですか?」
それならば親近感とともに好意も持てる。
「ちがうよ。」
彼は無表情に答えた。
「誰があんな人の墓参りなんか。」
前言撤回。無表情ではなく、冷たい表情。そしてその前の言葉も撤回。
親近感も好意も感じるわけが無い。それどころか怒りを覚えた。
「なんでここにいるんですか?」
無意識に声のトーンが下がっていた。
こんな、親をあんな人呼ばわりする人とは居たくなかった。だから、遠まわしに他の所へ行けという意味を込めたつもりだった。
「掃除。」
しかし、こいつには通じず、そのまま質問の答えを返してきた。
「なんでですか?あなたの親はあんな人、なんでしょう?」
あんな人、を少し強調して言った。
「まあね、でも俺ここに住んでるから。」
確かに、箒を片手に着流しの着物を着ていた。隙間から見える肌は引き締まっていた。
かっこいい…はっいかんいかん。あんな男をかっこいいと思うなんて一生の不覚。しっかりするのよ!桜華!あなたはそんな軽い女じゃないわ!
「ここの方だったんですか。」
ママのお墓、パパに頼んで場所変えてもらおうかな。いや、本気で。
「まあね、それはさておき、」
さておかれたっ!私のショックなどいざ知らず、話を続ける。
「君さ、朱雀高校の人?」
「そうですけど。」
まさか…こいつ。やめてよ、そんな悪夢。
「何年生?」
だんだんといやな予感が確信に変わってきた。
「よかった。明日から、そこに通うんだ。」
ほらきた!なんて悲しい運命!
神様!なぜ敬虔な子羊の私(私仏教だけど)にこのような苦難をお与えになるのですか?ああ、なんと言う悲劇でしょう。この男が私と同じ学び舎で勉学をともに学ぶなど!一日の半分をこの者と一緒に過ごさなければならないなど!

Re: ひとこと ( No.3 )
日時: 2011/11/05 19:12
名前: 文織 (ID: b5XL8ts8)

私が神へ悲しい叫びを上げているときに彼は不思議そうに私を見つめていた。
そしてようやく私がショックから立ち直って、落ち着くと私は搾り出すように、
「そうだったんですか。よろしくお願いします。私は綾川桜華あやかわおうかです。」
「よろしく。同じクラスになれるといいな。」
こっちはなりたくないよ。こっちの気も知らないで!
「知り合いが居ると安心するから。僕は如月きさらぎきょうだよ。」
そういうと彼は笑った。
いままで無表情と呆れ顔で通してきた彼が笑ったのだ。
かっこよかった。きれいだった。大輪の華のようだった。
「よろしくね。綾川さん。」
笑顔で私を直視する。不覚にも一瞬でココロを奪われてしまった。
「さくらで…いい。仲のいい人はそうよぶから。」
気がつくと口から言葉が出ていた。
「さくら、でいいの?呼び捨て?」
彼は少し照れたように言った。
私は真っ赤になりながらコクリと小さくうなずいた。
「わかった。僕のことも恭でいいよ。」
私はまたコクリと小さくうなずいた。
「これからよろしく、さくら。」
「よろしく、き、恭。」

これが私たちの出会い。その日から、学校に行くのがとても、うれしくて恥ずかしくて、この感情が恋だと気がつくまでに、時間はかからなかった。


Page:1



この掲示板は過去ログ化されています。