ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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名も無き物語
日時: 2011/11/30 22:57
名前: rere (ID: d2sOH2lv)

プロローグ
夏の始まり、何処にでもある風景、何処にでもある普通の高校。少年は一人学校の教室の自席でうずくまっていた。体調が悪いわけではない。一人になりたいからだ。そんな様子を隣の席にいる一人の少女が優しく肩を叩き
「どうしたの具合でも悪い?」                     耳元で静かに声をかける。少女の特徴は黒い髪を背中まで伸ばし凛としている。目は黒い色で大きな瞳をしている。問いに対して
「眠い」
少年は答えた。少年の特徴は茶髪で少し長めだ。ストレートで寝癖のない髪だ。目の色はダークグレイで小さく開いている。少年は、また寝息を立てた。少女は少年の寝顔を見て気が付いた。左目には涙が流れていて、右目には涙が流れていなかった。それを見て少女は
「また、思い出しているのね」
少年の頭を撫でながら呟いた。


3年前

古い電車が動いている。ガタガタと物音を立てて、その音は線路を渡り電車が振動する音だ。車内に一人の少年が乗っていた。ほかにも人がたくさんいた。だが少年は、初めて乗る電車に不安を覚える。気を紛らわすために、音楽プレイヤーを使いイヤホンを耳につけて、音楽を聴いていた。曲のタイプからしてラヴソングだろう、景色を見る。見える景色はたくさんの木々と畑に大きな山が二つある。見るからにしてかなりの田舎だろう。少年は隣の座席に目を走らせた。黒の大きなボストンバックと手提げの黒い学生鞄だ。地図を取り出し、住所らしき文字が書かれている。彼は引っ越しの最中なのだ。確認を終えて、自分の首元にたらした黒い紐を手繰り寄せて鍵をみる。鍵の特徴は倉庫を開けるような鍵だが、少し幻想的な形をしている。鍵をまた、たらして、音楽プレイヤーをボストンバックにしまい込む。電車が止まり
『終点、大座村おおざむら、大座村、お荷物のお忘れにお気をつけてください』     
アナウンスが聞こえた。少年は荷物を持ち電車から降りた。電車から降りると、改めて荷物を持ち直した。ボストンバックを左肩にかけ、手提げのカバンを左手で持った。少年の特徴は、細い体型に白い肌。悲しそうなダークグレイの瞳。短めの茶色い髪はサラサラとしている。見た目は中学生だが表情は大人びている。少年の名は、高本・秀磨こうもと・しゅうま。そして、少年は歩き出した。数分経って、地図を見ながら村を歩いていた。途中で、小さな中学校を見つけた。ボロボロの古いお化け屋敷のような学校を見て                                
「これからこの学校に通うのか・・・・・・なんか、お化けとか出そうだな」
秀磨は唖然して呟いた。しばらく歩き続けると小さなスーパーらしき建物が見えた。周りを見渡すと、十メートぐらい離れた場所に大きな病院があり、隣には薬局もあった。それを確認して、ふと気が付くと夕日が見えた。
「ここの夕日と空はすごく綺麗だ」
感激のあまりそれしか言葉が出なかった。
スーパーの扉が開く音が聞こえて、首を傾けると、少女の姿があった。髪型は黒色のショートボブでもみあげの長く伸ばして、緑のカチューシャを付けている。服装は白に赤のラインが入ったセーラー服に黒のスカートだ。引き締まった体で、肌は少し焼けている。小悪魔のような大きな瞳に、細い眉毛、鼻は高く、口はニッコリとしている。黒い革靴のせいか、コツコツと足音が聞こえてくる。少女は秀磨の視線に気付き、近寄ってきた。
「何か用かな?」
和やかに聞かれて秀磨は、戸惑う
「あ、ごめん。初めて見る制服だからつい」
慌てて答える秀磨に謎の少女はくすくすと笑う。
「私は、水野・美禰みずの・みねあなた見たことないけど引っ越してきたの?」
少女の質問に、秀磨は曖昧に返事をして
「僕は高本・秀磨もしかして君はあの学校の生徒さん?」
学校を指さしながら聞いてみると
「そうだよ、ってことは明々後日の月曜日が転校初日になるね」
美禰はワクワクした表情で答える。
「そうだね」
秀磨は肯定した。
「それじゃあ、また今度」
少女に別れを告げると
「うん、またね」
と、返された。美禰と言う少女と別れしばらく地図を見ながら歩くと、白く四角いフォルムの一階建ての大きな建物が見える。
「ここが僕の新しい家なのか・・・」
言って、白い家を眺めた。秀磨は玄関を開けて中のようすを確認した。少し広めの玄関があるはゆとりがあり、ピンクの下駄箱がある。床に上がり、右側を見ると洗面所がある、バスルームもあった。バスルームを確認すると、大きな肌色の浴槽に、黄緑の床や壁が目に映る。仕組みは電気で沸かすお湯のようだ。左には洋式トイレが二つあり、どちらも丁寧に掃除された跡がある。奥に進むと居間がある。そこは広い空間がある。茶色いカーペットに白色の壁紙、居間の中心には大きな黒いテーブルがある。テーブルの後ろには、黒いソファーが壁側にあり三人は座れそうだ。ほかにも、ガスコンロのキッチンがあり、横にはシルバーの冷蔵庫がある。大きさは二メートルほどあり、空っぽだった。通路を出て右側に子部屋が三つあるそのうちの一つはほかの二つに比べると少しだけ狭いが床がフローリングでほかの部屋は少し広いが畳だ。共通点は押入れがあるくらいだ。小部屋を抜けると、ベランダに出る。そこには小さな屋根があり、秀磨の自転車がある。
「今日からここで一人暮らしか・・・なんか寂しいな」
一人で呟き秀磨は周りを見ながら、小部屋の中でも最も居間に近いフローリングの部屋に荷物を置いた。         
「少し小さいけど、この部屋のクローゼットで十分かな」
と、呟き。部屋の隅にあるクローゼットを見る。開けてみると、上の方に棒があり、そこにハンガーが吊るされていて、下の方には、収納スペースがある。制服と少ない制服をクローゼットにしまうと、ボストンバックが軽くなり、クローゼットの隣に置いた。しばらくすると、大体の整理が終わり、疲れてソファーに寝転がり、目をつぶった。

 気が付くと朝になり、雀の鳴き声と、セミの鳴き声で目を覚ます。     「もう、朝か・・・今日は土曜日。学校は明後日だな」
と、予定を呟き、体を起こす。今から自室を通りベランダに出ると、背伸びをして体をひねる。洗面所に行き顔を洗う。外に出ると家に鍵をかける庭にある自転車に乗り、ペダルを踏み込んだ。自転車で道を出て、昨日見かけたスーパーに向かう。店に入ると、中は涼しく冷房が付いているようだ。雑誌のコーナーに自分と同じくらいの歳の少年少女が八人ほどいる。三人ほど秀磨を見つめて目をそらした。それに気付いた秀磨は
(この人たちも同じ中学の人なのかな?)
心中で呟き、食品コーナーに足を運び、一週間分の食料をカゴに入れそしてソーイングセットと料理雑誌と洗面道具をカゴに入れてレジに出した。店員が不思議そうに買い物カゴを見ながらバーコードをスキャンする。店員が
「5800円になります」
と、言われ、秀磨は財布を取り出し6000円をレジに置くと、店員が
「200円のお釣りです」
と、言って、レシートと小銭を秀磨に渡した。秀磨は買ったものを袋に詰めて、店を出た。荷物を自転車の前カゴに入れ込み、自転車に乗り、自宅に向かう。秀磨は周りを見ながら自転車をこいで自宅に着いた。
家に着き自転車を庭に止める。玄関の鍵を開けて、扉を押して中に入る。そして、居間に入り買ってきた食料を冷凍庫にしまう。そして料理雑誌を読みながら、ソファーに座り、音楽プイレーヤをポケットからだし、イヤホンを耳に差し込む。音楽を再生して、時間をつぶした。気が付くと昼ごろになり、ソファーから立ち上がり、キッチンに向かい、しばらく調理すると豚肉の生姜焼きと、サラダとが出来上がる。炊きたての白米をテーブルに並べる。そしてソファーに座り、食事をとる。食事を終えると、食器を洗い、自室に戻り、部屋の端にあるダンボールを開けてみた。箱の中には、敷布団が入っていた、部屋の右側に押入れがあり、そこに入れた。押入れは二段になっていたので上の方に夏用の布団を敷いた。
「部屋を広く使いたいから押入を寝床にしよう」
などと呟き、手際よく、布団のシーツをかぶせて上布団を下布団に重ねる。そして押入れを閉めた。
 ボストンバックを取り出し、中のものを 確認する。中には小さな筆箱と黒いデジタル腕時計と四十センチくらいの十手がある。黒い光沢を放ち、グッリップあたりには紫色の紐が巻きつけてある。それを見て秀磨は十手を左手で弄び
「これって、道場の先生が餞別でくれた物だっけ・・・・」
思い出しながら、十手をその場に置いた。 
しばらく部屋の整理を進めると、夜になり、だいぶ疲れてきた。秀磨は、汗を拭い洗面所に向かう。
「大体は片付いたし今日は風呂に入って寝ようかな」
 一息ついて服を脱ぐ、秀磨の体つきは、ガリガリと言っていいほど細く、肌が白い。運動が苦手そうなイメージがある。秀磨は早めに風呂を済ませた。
風呂から上がり黒Tシャツに黒い半ズボンに着替えていた。歯を磨きながら、洗濯機を動かしている。微妙に機械の駆動音が聞こえてくる。歯を磨き終え、うがいをして、洗面所から出た。秀磨は別の部屋から、小さなちゃぶ台を取り、自分の部屋の中心に置いた。その上には先ほどの黒い十手がある。秀磨はあくびをしながら背伸びして、携帯電話を取り出しアラームの設定をして、腕時計のアラーム設定して、押入れに左足をかけて昇り、押入れを半開きにして蛍光灯のひもを引っ張り、電気を消した。


二日後、転校当日

 秀磨は職員室で自己紹介をしていた。職員室は古い本のような匂いがして、職員のほとんどが、秀磨を見ている。
「高本君、今日から私が担任の島川・絹江しまかわ・きぬえです。環境が変わって大変だけど、頑張りましょう!・・・それと何かあったらいつでも言ってね。できるだけあなたの力になるから」
と、自己紹介した島川・波江と言う教師は、髪を後頭部で結って、赤いフレームの眼鏡をかけている。左目の下にはホクロがあり眠そうな顔をしている。そして服装は、レディースの黒いスーツを着ている。
「はい、よろしくお願いします。」
秀磨は頭を下げた。秀磨の格好はありきたりの制服だ。白いカッターシャツに黒いズボン。秀磨はシャツを第二ボタンまであけて下には黒いTシャツが顔を出している。
「今から教室に案内するわ」
支持をだし、島本・絹江は秀磨を案内した。

 教室では生徒たちが転校生の噂で騒いでいた。
「今日うちのクラスに転校生が来るって知ってるか!?」
男子Aが話題を作り、
「知ってる知ってる!都会から来たんだろ!?」
「私も聞いた、どんな人か楽しみ〜」
男子Bと女子Aが騒ぎを大きくし始める。そんなな後ろの席で一人の少女は、本を読みながらため息をついた。そして窓を見て誰にも聞こえないように呟く。
「・・・退屈だわ、学校早く終わらないかな?」
と。
 教室の外から、足音が聞こえてきた。生徒たちは素早く自分たちの席に座り始める。教室の扉が開き担任と、新しい生徒が入るのを確認した生徒たちは、
「来た来た、転校生だぁ〜!」
男子Cが叫び生徒たちが騒ぎにぎやかな光景を見せる。
秀磨は教室を見渡す。使い込まれた木の机、机の横に吊るされた色々な鞄、古い木製の床、綺麗な黄緑のカーテン、シミのある天井、白いチョークの粉が付いた黒板、にぎわう生徒たち。秀磨チョークを左手に取り、黒板に自分の名前を書いて
「高本・秀磨です。よろしくお願いします。」
生徒たちの半分は拍手で、半分はそれぞれで会話して、中には眠っている生徒も見える。そんな中自己紹介が終わり、自分の席に案内された。席は左側にある最後尾の窓際の席だ。隣の席には少女が座っていた。特徴は、黒い髪を背中まで伸ばしている。目は黒い色で大きな瞳をして、眉毛は少し薄い、目つきは悪いが、清楚なイメージがある。体は、かなり細く引き締まっている。少女と目が合うが、すぐに目を逸らされた。そしてほかに目を向けると、腰にチェーンを垂らした生徒がいたチェーンの先は財布があり財布は、お尻のポケットに収まっている。ほかの生徒たちを見る。いろんな生徒たちと目が合ったり、教師の方をに注目している生徒もいる。第一印象は個性的なクラスだが、秀磨は来たばかりなので戸惑い気味に教師の話を聞くことにした

 しばらくして休み時間になり、生徒の群れが秀磨の方に押し寄せてきた。
「なぁなぁどこに住んでたの?」「彼女とかいる?」「何でこんな田舎に来たの?」
と、男子生徒AとBとCの質問攻め委が来て、
「ねぇねぇ、好きな女の子のタイプは?」「左利きなんだねぇ」
と、女子生徒AとBの質問が来た。秀磨はあやふやになり都市会えず質問に答えた。
「新宿から来て・・・・え〜と彼女はいない、ここに来たのは家の都合で・・・好きな女の子のタイプは考えたことない、左利きは元から・・・」
迷いながら早口で答えるが、次から次へと質問が来て口が回せなかった。
「おい、あまり困らせるな、質問は今度にしろ」
と前の席の金髪の少年の一喝が入り、ほかの少年少女たちが、秀磨から離れて行った。
「すまねぇな、アイツらはイイ奴ばっかりなんだけど、都会の育ちの環境が珍しくてな」
と、金髪の少年が振り返り秀磨の目を見つめる。少年の特徴は、ツンツンした短めの金髪をしており、目は鋭く、威圧感がある。服装はカッターシャツの下に赤いシャツを着て、ズボンにはチェーンをたらしている。チェーンの先には財布があり、財布はお尻のポケットに収まっている。見た目は不良の感じがするが、かなり温厚な性格らしい。
「俺は黒木・強矢くろき・きょうや、とりあえずここの学校はイイ奴ばかりだから、あと困ったことがあったらいつでも言ってくれ」
金髪の少年が語り
「うんありがとう、黒森でいいかな?」
秀磨が聞くと
「強矢でいいよ。自分の苗字が嫌いなんだ」
強矢が答え、しばらく話し込んだ。

 授業のチャイムが鳴り、みんなは席に着いた。隣の席の少女は静かに読んでいる本を閉じて教材を出し始める。秀磨は強矢に授業の内容を教えてもらった。秀磨たちも、教材を取り出す。一時間目は数学で、基本的な計算とXの計算式などが出てきた。秀磨はもう因数分解を習っていたので拍子抜けだった。授業は四十分授業で、すぐに終わり、休み時間に入る。
「田舎では、四十分授業なんだぁ、あっちでは1時間授業なのに、環境がここまで違うと逆に焦るなぁ」
秀磨がぼやくのを見て、強矢が秀磨の机に手を置き、
「都会じゃぁそんなに進んでるのか?」
不思議そうに聞かれ
「結構ね、向こうでは出席日数とか成績とか点数とかでしか人を見ないから」
秀磨は語り、ふと腰元にたれたチェーンに目を向ける。時代遅れのファッションを思い出す。強矢は視線に気付き、右手でチェーンと財布撫でながら答える。
「あ、・・・これは、誕生日に弟にもらったやつで、気に入っていつもこうして持ち歩いてんだ」
照れ臭そうに言う強矢に対して秀磨は、
「僕にもそういうのはよくあるよ」
言いながら、首元に吊るしたネックレスの鍵を握りしめる。そして秀磨がとても悲しそうな苦しそうな表情になり、強矢は秀磨に気を遣い話を中断した。そして悲しそうなあるいは苦しそうな表情を、秀磨の隣の席に座る少女はじっと見つめていた。
(なんだろうまるで無理をしているみたい)
少女は秀磨を可愛そうな目で見ていた。

 午前の授業が終わり昼休みになる。生徒たちは弁当箱を取り出したり購買に行ったりなどで賑わっている。秀磨は鞄から弁当箱を取り出すと
「なぁ、屋上に行かねぇか?風が来て結構涼しいぜ?」
強矢に聞かれ
「うん行ってみる」
秀磨はがそう言うと、二人は教室を出た。廊下を突き当りまで歩き、階段を見つけて最上階まで上がり、鉄製で出来た頑丈な扉を開けると、白い足場の空間が見える。奥にフェンスがあり、そこに、二メートくらいの長いベンチが一つあり、ほかのフェンス側にはベンチがなかった。広さは教室と同じくらいだ。屋上は秀磨と強矢の貸切のようだ、二人以外は誰もいなかった。
「あれ、今日は珍しくアイツが来てない」
と、強矢の呟く声が聞こえて
「アイツ?」
秀磨は聞き返した。
すると、出口から走って屋上に向かってくる足音が聞こえてきた。
「おっ、来た来た、うるさいのが・・・・・・」
強矢がため息をつきながら呟き、いきなり扉が開き、勢いよく屋上にダイブする少年が来た。
「きょ〜う〜や〜、見ろ!このジャンボ、ブボッグ」
強矢に足を引っかけられて無様に転び、変な悲鳴を上げた。
「ジャンボブボッグってなんだ?」
と、強矢が引き気味に聞くと
さっき転んだ少年が素早く立ち上がり
「ジャンボ焼きそばパンだよ!なんだよ、まるで変人が叫びそうな呪文は!?」
と、議論するが、強矢は親指を立てて満面のスマイルでこういった
「大丈夫だ。お前は、元から変人だ。」
「誰がじゃ!?」
強矢のセリフに、否定しながら、答える転んだ少年。転んだ少年は秀磨に気付き、秀磨に向き直る。
「あ、お前が転校生の高本・秀磨だな。俺は、宮藤・硬麻くどう・こうままぁよろしくな。」
となれなれしい自己紹介が飛んできた。秀磨も戸惑いながら
「よ、よろしく」
と答えた。硬麻の特徴は、日焼けした肌に、そばかすがある。目元に大きなクマがある。強矢と硬麻は仲がよさそうに見える。遠慮気のないような感じがした。三人は昼食を会話しながら食べることにした。ベンチに座り、お互いの事を話し始める。
「へぇ、新宿とは遠くから来たなぁ」
硬麻が、焼きそばパンを加えながらしゃべり、強矢は缶ジュースを飲み、缶をベンチの隅に置いて
「あっちは、空気が嫌いだ、俺は田舎の方いい」
強矢は否定した。
「僕もそう思う。田舎に来て間もないけどここは空気がとてもきれいだ。」
秀磨は納得した。
 時間がたち、三人は昼食を済ませると、屋上から降りて、硬麻は四組の教室に入って行った。秀磨と強矢は一組の教室に入って行った。

 職員室で教師がプリントのコピーをしている。一組の担任、島川・絹江が、秀磨の隣の席の黒い髪の少女に、茶封筒を渡していた。
黒瀬くろせさん、これを高本君に渡しといてくれる?」
と、渡された封筒を見て、小首を傾げて
「これは、なんですか?」
不思議そうに聞く少女の問いに対して、絹江は困ったように
「それは、学校の行事予定と彼の生徒手帳と、あと部活紹介のチラシよ。」
うんうんと頷く少女に対し絹江は
「お願いできる?」
絹江に聞かれると
「はい、わかりました。」
聖美は素早く答えて職員室から出て行った。廊下に出て階段で二階まで上がり通路を右に曲がりまっすぐ歩き一組の教室に入る。秀磨は強矢と何か話しているようだった。とりあえず、秀磨に近づき、肩を軽くトントンとたたく。
「何?えっと・・・」
名前が解らなく、秀磨は戸惑う
「黒瀬・聖美くろせ・きよみよ。」
静かに名乗り、秀磨を見つめる。秀磨はまだ戸惑いながら
「僕は、高本・秀磨よろしく黒瀬さん。」
秀磨は握手の手を差し伸べるが、聖美は手ではなく茶封筒を秀磨の右手に置いた。
「この封筒、先生に渡してって頼まれたの。用事はそれだけ・・・」
秀磨は封筒を受け取り
「あ、ありがとう」
ぎこちないお礼をしてしまった。聖美は素早く自席について、読書を始める。その様子を見て秀磨は思った
(黒瀬さんって、なんか女神のイメージがあるなぁ)
心中で妄想を暴露していた。チャイムが鳴って午後の授業が始まり。教室が静かになった。男性の教職員が入り、授業が始める。

 授業が終わり掃除を終え放課後になり帰宅するものや部活に参加するものに分かれる。秀磨はそのどちらでもない。秀磨は鞄を肩にかけて屋上に向かった。階段を上り扉を開けるとそこには誰もいなかった。風が吹き秀磨の頬を撫でる
「ここの風は涼しくて気もちいなぁ」
背伸びをしながら独り言を言い、ベンチに腰を掛ける。フェンス越しに見える村が夕日のおかげで絶景に見える。その光景は美術館で見る絵をそのまま現実にしたようだった。秀磨はベンチに寝転がり、目を閉じた。
(風の音が聞こえる、みんなの騒ぐ声も聞こえる、セミの鳴き声が聞こえる、鳥の羽ばたく音が聞こえる)
などと、心の中で呟く。ふと思い出したようにポケットに手を突っ込み音楽プレイヤーを取り出した。イヤホンを耳に差し込み、曲を選択する。いつものラヴソングの曲を再生した。和やかなメロディーに包まれて秀磨は、眠りについた。

 「何で、今日に限って図書室の手伝いしなきゃならないのよ?おかげで屋上に行く時間が無くなるところだったわ。」
一人でぶつぶつと言いながら屋上に向かう一人の少女の声が廊下に響き渡る。その少女は聖美のようだ。急ぎ足で屋上に向かい扉を開けた。周りを見渡して
「ん、・・・誰?」
と寝ている男子生徒に声をかけたが反応はない、もう一度周りを見直して男子生徒に近づく。そろりと起こさないように静かに、足音を消して接近して男子生徒の肩を軽くつつく。男子生徒が寝返りで聖美の方に向き、聖美は慌てて距離を取った
「わわわ、・・・もう、びっくりさせないでよ」
ため息をつきながら、少年の顔を見る。どこかで見覚えがあるが前髪で目元が隠れて誰だかわからない。聖美はそっと髪を撫でて、顔を確認した。
「高本・・・何でこんな時間に屋上で寝ているの?」
聖美は混乱しながら、とりあえず起こすことにした。肩をゆすり
「高本起きて!もう下校時間だわ!」
大きな声を耳元で言う。秀磨は
「う〜ん、鎌玉うどんが〜」
寝ぼけてながら小さく呟くやがて眼に光が戻り意識が戻った
「あれ、黒瀬さん!?・・・ヤバッ!!もうこんな時間だ!」
と素早く携帯電話を取り出し、フラフラしながら立ち上がる、転びそうになるが、なんとか堪えて立った状態を保つ。
「高本、大丈夫?」
と聖美が心配するが
「大丈夫、大丈夫」
言いながら、秀磨は慌ててその場を素早く立ち去った。
秀磨は急いで階段を下り下駄箱にまで走り手際よく靴に履き替える。何故か安心した表情になる。長い溜息をついて歩くスピードを落とす。だそして中庭まで急ぎ足で移動した。正門を抜けて、道路に出る。それを左に曲がり、まっすぐ歩く。こうして歩いているとんだんと悲しそうな表情になり、首元のネックレスに附いた鍵を握りしめる。そして数秒すると何もなかったかのように歩き始める。
「学校たのしかったな、いつまでこんな時間が続くのだろう?」
秀磨のその問いに対して答える者はいなかった。
 家に帰り荷物をソファーに置き、弁当箱を洗い、外に干しておいた洗濯物を取り込む、下着とTシャツだけですぐに終わり、風呂の掃除を始める。ブラシで擦り、ぬるいお湯を流す。ある程度綺麗になり掃除を中断してお湯を流してお湯の温度を上げて、浴槽に溜める。お湯を溜めている間に服を畳んで、自室のクローゼットにしまい込み、米を磨いで炊飯器のタイマーをセットした。洗面所に向かい、風呂場の扉を開けて浴槽を見るだいぶ溜まっていたのでの蛇口をひねりお湯を止めた。そして服を脱いで風呂に入る。
 二十分くらい時間が経ち、秀磨は風呂から上がりバスタオルで体を拭き、半袖の黒いTシャツと短パンに着替える。そしてリビングに向かいソファーに寝転がり、テーブルの上にある携帯を取り出し天気予報を見る
「明日は晴れか、え〜と、時間は七時半・・・か」
呟きながら秀磨は自室に入り、部屋の中心にあるちゃぶ台に置いてある黒い十手を左手でペンを回すように弄び、携帯をネットにアクセスしてニュースを見る最初はインテリアのサイト見て、次は調理のレシピのサイトにアクセスして、レシピをノートに書き写す。こうして時間が経ち九時半を過ぎて、秀磨は押入れの上の段に昇り布団に下半身を突っ込み、そして体のすべてが布団の中に入る。しばらくすると秀磨は眠りについた。

 朝の学校、教室に生徒がまだ半分くらいしか集まってないようだ。そんな中強矢は、外を眺めていた缶ジュースを飲みほして隅にあるごみ箱に空き缶を入れる。携帯を取り出す。メールの着信を確認する。内容を見て、ため息をつき空を眺めた。しばらくすると教室に戻り、自席に座り窓から外を眺め時間が経つと秀磨が後ろに座る
「あ、強矢おはよう結構学校に来るの早い方なんだぁ」
「ああ、家が嫌いでな、居心地が悪いんだ。」
挨拶を終えて、二人は会話に入る
「家族と仲悪いの?」
秀磨が聞くと
「そんなところだ。でも家族には感謝している」
強矢が語る。秀磨は感心したような感覚を覚えた。そしてあとから悲しい表情になり、頭に映像が入る。
 家族で買い物をした日の映像だ。秀磨は小さく、五歳のころだった。雪の積もる道を車で走る。秀磨は窓からクリスマスの飾りを見ていた。
 映像が止まり、気付いたら強矢が心配そうな目で自分を見ていた。
「大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
声をかけられて気付く。夏なのに全身から寒気が走っていたしかも全身が震えていた。
(今のビジョンはあの時の・・・)
心中で呟き、心配させないように話題を変えた。
「それより、あと一週間で夏休みだよね?」
秀磨は楽しそうに言い、強矢は
「そう言えば、もうそんな時期か、この中学校は宿題ないからなぁ」
思い出すように言うと
「それって部活に入ってない僕たちは遊び放題だね!」
秀磨は幼い子供のような喜び方をする。
それを見て強矢は何となく心配するような目で秀磨を見る
(コイツ、自分を偽ってやがる。よほど辛いことがあったんだろうな)
心の内で呟き、強矢は
「お前体調悪いなら保健室言ってこい!」
心配そうに秀磨に告げた。それでも秀磨はいつものように明るく
「はははは、心配しすぎだよ」
肩をくすめて見せる。教室の扉が乱暴に開く音がしてみんなが注目する。
「た、大変だ!強矢、別の中学の連中がお前に殴り込みに来た!」
と硬麻が息を荒げらがら言った。強矢はすぐに目つきが変わり、教室を飛び出した。秀磨もついていった。
「どこ中だ!?」
「多分隣町の白中だ!」
と走りながら、強矢と硬麻が急いで話す
「おい、高本、お前ついてこない方がいい、怪我するぞ!」
強矢が警告して
「先生に『悪いのはむこう』って説明したいから、ついていく」
秀磨は強矢に向けて言い、強矢も少し考え込む
(今の声は覚悟がある。ま、俺が何とかするしかないか・・・)
と心中で呟き
「わかった。教員に言う適当な理由ふぇも考えてくれ!」
強矢は秀磨に任せるように言い、硬麻は
「大丈夫なのかよ?」
などと問うが強矢は頷く。そのまま、三人は階段を下りて、体育館の裏にあるフェンスを越えて、学校の裏に出た。似たような制服の四人の生徒が強矢たちを睨み付ける。どうやら、長い茶髪の少年がリーダーのようだ。ほかの三人は後ろの方で待機していた。後ろに待機している左側の少年は顔に絆創膏やテーピングをしている。
「コイツです。金髪のツンツンに腰にチェーン垂らした野郎は!」
茶髪の少年に告げ口して茶髪の少年は
「お前かぁ、うちの後輩やったの・・・・・・」
「肩がぶつかったくらいで喧嘩売ったのはそっちだ、それに俺はどちらと言えば被害者の方なんだが・・・・」
「でも、ボコボコニしたんだろ?」
「確かにそうだけど・・・」
「ただで済むと思うなよ?」
茶髪の少年が言い、強矢はため息が出る
(四対一か面倒だな・・・・まぁ何とかなるか)
と、他人事みたいに考えていた。後ろに控えた三人が強矢に向かって分散しながら動く。
「硬麻、高本、下がってろ」
二人は支持に従い後ろに下がる。そして三人の少年達は囲むように接近する。
右か左足が飛んでくるのを見て強矢は右腕でガードした。強矢は右足を出して、体重移動しながら相手の顔に肘鉄を決め込み、胸ぐらをつかむ。絆創膏をした少年が、左から、拳を出すのが解り、さっきの少年を突き飛ばし、攻撃を無効にした。そしてもう一人の少年が、飛び蹴りをしてくる素早く少年に突っ込み蹴りを紙一重で避けて首元を肘で挟み込み、地面に叩きつける。そして、茶髪の少年が動き出す。
「プロレス技を喧嘩で使うとか、反則だろ・・・」
言いながら、地面に落ちた長さ一メートルくらいの鉄パイプを拾い強矢の喉元に向ける。
「喧嘩に武器を使う方が反則だろ、それにそっちは四対一だぜ・・・」
強矢は相手を睨み付け茶髪の少年は、じりじりと距離を取る。秀磨は周りを見渡す。倒れた三人のうち絆創膏の少年が立ち上がりながら強矢に近づいていくのが見えて、秀磨は気付かれないように、接近する。そして茶髪の少年が動き始めた。腕を大きく振り上げ頭を狙う、強矢は右足をあげて土踏まずのことろ鉄パイプを受け止める。笑みを見せながら力押しを試みるが。強矢は、足の力だけで押し返した。茶髪の少年が驚いたように後ろに下がる。そして、もう一度、茶髪の少年が鉄パイプを振り上げ叩きつけようとした。強矢は体を振り下される反対側にステップを刻み、右拳を入れようとするが、すぐに構えなして、その隙がなく、拳を引っ込めてしまう。
(あの構え方は剣道か・・・面倒だな、アイツかなりの有段者だ・・・)
強矢は、素早く、敵を分析するが、振り回す鉄パイプによって、考える思考を停止された。体制を立て直そうと、後ろに下がる、いきなり拳が飛んできた。茶髪の少年の拳ではなく、絆創膏の少年の拳だった。よけきれない攻撃に強矢は唖然と見つめていた。避けきれない拳が段々と迫ってくる。まるでスローモーションのようだ。そして人を殴りつける鈍い音が、その場に響き渡る。
(アレ、痛くねぇ、俺は殴れて気を失ったのか?)
強矢は考えて目を開けると自分は立っていたことに気付く、そして現実の出来事に目を見開いた。倒れていたのは強矢ではなく、絆創膏を貼った少年の方だった。倒したのは強矢ではない。強矢は慌てて周りを見ると、そこには、秀磨が息を整えながら、左手の拳を突き出していた。しかも、少年の右腕の肘から先は、逆方向に曲がっていた。
(コイツ、アレを倒して俺を助けたのか・・・・・でもいつの間に?)
強矢は、驚愕のあまり、思考が追い付けなかった。秀磨は近くにいたにもかかわらず、誰にも気づかれないように絆創膏の少年を倒して、今の状況を作っているのだ。
「ねぇ、お前、何様?」
茶髪の少年が問うと
「教える価値もないよ。君みたいなザコに」
秀磨の言葉に茶髪の少年が頭に血が上り、いきなり突っ込んできた。だが秀磨は微動だもせずにただ見つめていた。鉄パイプが振り上げる瞬間に秀磨は動いた。振り下ろす鉄パイプに対して秀磨は接近して左手に握られた十手で受け止める。
「武器を持ってるのは君だけじゃないよ」
秀磨がそう告げると、茶髪の少年は素早くバックステップを踏んだ。
「黒い十手とは珍しモンを持ってんなぁ」
茶髪の少年は睨むようにその十手を見つめる。
「強矢、コイツは僕がやる」
「わかった」
秀磨の問いかけに、強矢はおとなしく引き下がり、ある程度の距離を取った。茶髪の少年が突きの構えをする。秀磨は左手を下げてボクシングに似た構えをする。茶髪の少年が鉄パイプをで足元を狙う。秀磨は膝を曲げ、左手で握られた十手で鉄パイプの軌道を逸らす。茶髪の少年が突進してきた瞬間、秀磨が動いた。茶髪の少年が突進したと同時に、十手で茶髪の少年の右手を叩き、鉄パイプを落とす。それでも勢いが止らない。秀磨はそれを計算に入れていた。
「ごめんね」
秀磨が、ぼそりと言うと、突進してくる茶髪の少年の首を鷲掴みして、勢いを利用して、膝蹴りを腹部に抉りこませる。そして、十手を投げて、茶髪の少年の顔に左手の拳で殴りつける。茶髪の少年は苦悶の声とともに地面に倒れ込んだ。くるくると回りながら落ちてくる十手を秀磨はキャッチしてポケットにしまった。
「強い、俺とは次元が違う」
強矢は呟く。硬麻も同じことを考えていただろう。ただ違うのは硬麻はこの状況に頭がついていけなかったことくらいだ。四人は十分くらいすると逃げて行った。それを見送ると、秀磨は携帯電話を開き、現時刻を確認した
「まだ、ホームルームは始まってないみたいだそれに、先生にも見つかってないよ」
秀磨が言うと
「ああ、わかった。おい硬麻、行くぞ!」
「え、ああ」
強矢が声をかけると、硬麻は戸惑いながら秀磨と強矢に続いた。

 ホームルームが終わり、休み時間になり、強矢と秀磨が雑談をしていた。
「さっきはありがとな。おかげで助かった・・・」
「いいよ。別に困ったときはお互い様だし。」
「格闘技かなんか習ったのか?」
感謝しながら、強矢は秀磨の喧嘩の事を思い出す。
「小学生の時、僕が通って行った道場で色々覚えたんだ。そういう強矢も何かしてたの?」
今度は秀磨が聞いた。
「俺は、幼稚園のころから小学六年まで、空手をやってた。」
強矢は右手でペンを回しながら答える。秀磨は納得した容易な仕草を見せる。そんな様子を黒瀬・聖美が見ていた
「じーー」
秀磨は寒気が走った。
(なんだ、この人を焦がす視点は・・・寒気がして気持ち悪い・・・)
秀磨は青ざめて、段々とそれが表情に出ていた。それに気付いた強矢は
「やっぱり、お前保健室言った方がいいぞ。また顔が青ざめている」
心配そうに呟くが
「いや大丈夫・・・」
秀磨は引かなかった。
「病人は大概そう言って無理するよなぁ」
強矢は呆れながら言い、秀磨の肩を掴んで強引に保健室まで引きずった。
「失礼しまーす」
保健室の扉を足で開けながら強矢は、保健室に秀磨を引きずり込んだ。秀磨はまだ青ざめていた。だが青ざめていたのは強矢が強引に引っ張って首が締まったからだ。それに気付かず
「スイマセーン、コイツが体調不良です。ベッド空いてますか?」
強矢が言うと、長い茶髪に、死んだ魚のような目に、無表情。服装は水色のシャツに灰色のジーンズを着た若い女性の教師がちらりと見て
「黒木、またお前は生徒を生け捕りにしたのか?」
ため息とともに椅子に座る
「違います。体調不良です」
議論する強矢を見て教師は
「どこをどう見てもお前が殺した生徒にしか見えない」
ペンを握り書類を書き始める。
「俺は人を殺したことないですよ」
強矢は否定した。
「あの、・・・」
秀磨が何か言いかけて耳を傾ける
「強矢が僕を引きずったせで・・・制服が喉仏を締め付けて、息ができなかった。」
虫のような息で現状を説明する秀磨を見て、教師は
「ほら見ろ、お前が殺してるだろ?」
ニヤリと不敵な笑みを見せる。
「まだ息の根は止めてねぇよ!つか何だよその笑いは!?」
強矢が突っ込むが、教師はニヤけたままだ。
「まぁ、ベッッドは空いているから勝手に使え・・・あれ・・・?」
言いかけて、何やら探し物をしている様子だ。
「今度はなんだよ!?」
強矢も呆れて言うが、今度は教師の顔が真っ青になった。
「私のタバコがない・・・今日ゆっくり屋上で堪能しようと思ったのに・・・」
震えながら現状を説明する教師を見て
「アンタそれでも教師かよ!?」
「あなたそれで教師ですか!?」
強矢と秀磨がユニゾンで教師に叫んだ。だが、教師は
「黒木、タバコ買って来い。タ〇ポ貸してやるから」
言いながら小銭とカードを渡そうとした。
「自分で買え!!」
強矢は全力で叫んだ。教師は、黙り込んでそのまま保健室から出て行った。強矢は秀磨に肩を支えて、ベッドに寝かせる。正確には、ベッドに押し付けた。
「ありがとう、でも・・・」
秀磨が言いかけると
「気にすんな、どうせ中学の勉強なんざ、繰り返しと応用の連続だから、少しサボっても問題ねぇ」
秀磨は何も言えず呆れため息をついた。それを見て
「授業が終われば、教員が来ると思うから、おとなしくしてろよ」
まるで、子供に言い聞かせるように言い、保健室から出て行った。それを見送り、秀磨は、とても長い溜息が出る。そして悲しそうな表情になり、首元にたらした鍵を手に取る。今朝の事を思い出す。
(あの時のビジョンン・・・何で今になって・・・もう忘れたはずなのに・・・)
そして、左手をポケットに入れて何かを取り出す。さっき喧嘩で使った黒い十手だ。それを見て、何となくため息が出る。そして微妙にほほ笑む。
「やっぱり、僕には無理か・・・・」
十手をポケットにしまいながら自分自身に呟く
「何が無理なの?」
隣のカーテンから疑問形で返された。しかもどこかで聞き覚えのある少女の声だ。ふと体を起こすと、カーテンが開かれて一人の少女が秀磨に微笑みを向ける。
「君は確か・・・水野・美禰みずの・みね・・・」
驚いたように呟き、心の中では
(うわ〜この子ずっと保健室にいたパターンだだとしたら、すごく影が薄いだろうなぁ)
完全に、小馬鹿にしていた。
「なんか、今、失礼なこと考えたでしょう?」
美禰に言われて秀磨は慌てて目を逸らす。その様子を見て美禰はくすくすと笑い。秀磨に顔を向ける。
「そう言えば、何で保健室にいるの?」
秀磨が聞くと
「う〜ん、私は授業が苦手だからここで、二度寝してるの」
それを聞いて秀磨は
「それは二度寝のレベルをはるかに超えてるよ。と言うか、早く教室に戻りなさい。」
言いながら、秀磨は美禰の手を引っ張るが、美禰は動くどころかベッドに潜り込んで
「絶対に嫌だ!」
一瞬で拒否された。秀磨は宣戦布告されたような感じがした。
「学生のやることは勉強だよ。美禰、いいから布団から出てきて!」
秀磨が布団を引きはがすが全く動かない。
「私の今のやることは二度寝だもん!」
美禰のセリフに
「いやいや、それは二度寝じゃないし。って言うか、何でそんなに力強いの?」
言いながら、色々な方法を試すが動く様子がない
(仕方ない体重の力で・・・無理やりでも引きはがしてやる)
秀磨の目に火が灯り、体を傾けて、背負い投げの要領で布団を引きはがす。
どう見ても変態にしか見えない。だが少しずつ布団は動き、美禰の体からはがれようとしている。そして、ある程度、布団がはがれるのを見て、秀磨は十手を出し、美禰のわき腹を十手でつつく、美禰が体をビクビクと震わせ、力が抜けて、布団がベッドから離れた。そして美禰はあきらめたような表情を見せる。
「うわ〜女の子相手に武器を使いますかぁ?男としてソレはないよぉ〜」
嫌味たっぷりに言い放つが、秀磨も何か言いかけた時に、美禰が寝ていたベッドに目が映る。何なら教材があり、しかも専門医学のかなりレベルの高い分野だろう。
「これって、まさか保健室にこもるのは、この勉強で時間を使っているから・・・」
美禰は照れたような仕草を見せて
「実は私、この中学の三年までの教科書の内容丸暗記してるから、勉強が進んでてね。」
美禰のセリフに秀磨は黙り込み、美禰はまた口を開く
「でも、たまに授業には参加してるしテストも受けてるんだよ」
それを聞いて、秀磨は
「君はどうして医学の教科書をソレにこれは、中学にの僕たちには早すぎる内容だ。」
そう言うと、美禰は表情が曇り
「でも、これだけの勉強は、すごい努力だ自分を誇ってもいいと思うよ」
秀磨はノートを見ながら、言った。
「うん、ありがとう」
美禰は微笑んだ。だが秀磨の顔はまた、怒りの表情になる。ノートの途中から変なイラストが描いてあり、パラパラとめくると、絵が動く。内容は斧が飛んできて、頭に刺さり爆発して、変な格好をした、馬が出てきて、街を荒らしている。秀磨はそれを見て
「ちゃんと、勉強しろよ!!」
保健室に秀磨の叫び声が響き渡る。

 午後の休み時間になり、秀磨は保健室で熟睡していた。美禰は保健室にはいないようだ。代わりに死んだ魚の目の持ち主が帰ってきていた。死んだ魚の目の持ち主もとい、谷川・樹奈たにかわ・きなは書類をかたずけていた。結構な時間が経ったと思い、谷川は秀磨に近づき、右手を握り、脈をはかる。
(コイツ、38℃の熱はあるな・・・)
心中で呟き、秀磨の表情を見る。さっきまで気持ちよさそうに寝ていたが、いやな夢を見た子供のようにうなされている。額に熱さまシートを張り付けて、病院に電話した。
「もしもし、はい私ですけど・・・ちょっと見てもらいたい患者が居るんですが・・・・ありがとうございます・・・・・わかりました・・・・失礼します」
受話器を置いて、秀磨を、担いで車に乗せて、病院に運んだ。

一方教室では、放送のチャイムが鳴り、「一年一組の黒木君、黒瀬さん、は直ちに職員室に来なさい繰り返します。一年一組の黒木君、黒瀬さん、は直ちに職員室に来なさい。」
二人は固まっていた。取りあえず、職員室に向かった。二人は職員室に入り、担任の、島川が待っていた。
「いきなり、なんすか?」
先に口を開いたのは強矢だ。聖美は頭に『?』を浮かべて島川を見つめていた。
「あの、谷川のババアからじゃなくて谷川先生から連絡はあったけど、高本君がさっき相対することになったの、すごい熱が出てたらしくて・・・二人とも何か心当たりない?」
島川に言われて、強矢は
「今朝はいきなり顔を青ざめて震えたりしました。あと、すごいボーっとしてました。」
強矢が言い
「私は心当たりが全くありません。」
聖美も続く。
「わかった。いきなり呼び込んでごめんなさい。病院には連絡があり次第、あなた達にも連絡します」
島川が言うと
「「はい」」
二人は同時に、返事をして、教室に戻った。

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Re: 名も無き物語 ( No.1 )
日時: 2011/11/30 22:49
名前: rere (ID: d2sOH2lv)

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Re: 名も無き物語 ( No.2 )
日時: 2011/12/15 15:58
名前: rere (ID: d2sOH2lv)

強矢は、走って2組の教室に行って、硬麻と屋上で秀磨の事を放した。
「そうか・・・大座ノ病院かな?」
強矢はうつむいて
「あぁ、教員がそう言ってた。」
反省のせいか声に力が入っていない。強矢は自分のせいで秀磨が倒れたと思い込んでいるようだ。
「別に気にするなお前のせいじゃないし、俺にも気づかなかった。自分をあまり責めずに、今できることを考えろ」
肩をくすめて硬麻が余裕の表情を作るが、強矢には何の効果もなく、ただ時間が流れるような気がした。それは硬麻でも理解ができたため、とりあえず二人は教室に戻ることにした。

一方その頃、小さな車の後部座席に秀磨を乗せて、谷川は病院に行く途中だ。幸い車が少ない時間で、スピード制限も破っている。ミラー越しに秀磨がうなされているのが解る。病院が見えて生きたら、スピードを落とし、適当なところに、車を止めて秀磨を抱えようとしたとき、美禰が秀磨を心配そうに見ていた。
「先生、大丈夫かな?すごい熱だけど、しかも、昼前からすごい汗流してたし」
美禰が秀磨を心配そうに見ている。
(保健室でじゃれていたの知ってたが・・・)
谷川は、思考を停止して
「おい、水野は高本を背負って、そのまま診察室まで運べ。私は、ちょっと病院の先生と話をしてくる」
支持をだし、美禰は頷き、秀磨を背負って病院の中に入り奥に進む。谷川は窓口に行って
「申し訳ありませんが、診察室を一つ開けてください。生徒がいきなり高熱を出しているんです」
言いながら、何かカードを見せる。周りにいる看護師は慌てて了承して、診察室の許可が降りた。美禰は特別診察室の目のベンチで谷川を待っていた。しばらくすると、看護師と谷川が来て、特別診察室にの扉が開き、美禰は中に入り、そっと秀磨をベッドに寝かせた。秀磨の汗がひどく、呼吸が乱れている。それに、熱を測ると39℃以上の熱がある。看護師は心音を確かめ喉や目や脈を調べて、秀磨の鼻に何かを突っ込み、抜きとって、それを機械にいれた。何かを検査する道具らしい。美禰と谷川は、外で待機して二十分くらい待って、結果が出た。
「過労と精神的なストレスです。ですが・・・」
看護師が何かを言いかける、どうやら言いにくい事情らしい。
「何か、あるんですか?」
谷川は美禰に聞こえない程度の距離を取って話す。
「過労は、大したことないです。精神的ストレス影響して、熱が出たり、いきなり震えだしたり、下痢になったりします。それにそのストレスは過労にも影響が出て彼の体が弱ってます。しばらくはウチ入院です。」
看護師が言い終えると
「わかりました。あと、申し訳ありません。いきなり生徒を連れてきて・・・それと、彼の事をよろしくお願いします」
頭を下げて看護師に告げ、病院を出た。気付くともう夕日が出ている時間だ。谷川は美禰を自宅に送り届けて、学校に戻り書類の山をかたずけていた。美禰は家の自室で一人秀磨の事を考えていた。
「明日は、お見舞いに行こうかな」
言いながら、緑のカチューシャを外して部屋の鏡に向き直り、髪をいじり、本棚から、『恋のまじない必勝法!第参』と言う本を読み始める。そして間違った知識で埋め尽くされていく。

聖美は、その頃自宅の自室で、勉強していた。そして机の端にある携帯電話を見る。島川に渡されたものだ。隣の席という理由だけで預けられている。
「別に明日はお見舞いじゃなくて・・・この携帯を届けに行くだけ。・・・私がお見舞いに来ると喜ぶかな?」
考えたが首を左右に振り勉強に集中した。ペンを握りなおして、ノートの計算式を解き始める。本棚から、教科書を取り、別の内容も書き始める。そして、ある程度ノートを取ると、ベッドに寝転がり、頬を染めながら考えた。
(高本は私がお見舞いに来ると、どんな反応をするのかな?)
想像すると、なんだか恥ずかしくなり、暴走のあまり頭から湯?のようなものが流れ出た。そんなこんなで、その日のるは過ぎて行った。


現在学校で生徒たちが登校している。その中には強矢も登校していた。鞄を担ぎ、正門に入る。下駄箱で上履きに履き替えて教室に向かった。自席に座り鞄から缶コーヒーを取り出して、窓から見える景色を見ながら缶の中身を口に含み、飲み込んだ。苦みのある味が口の中で広がる感触を味わい、のんびりとして外を眺める。これが強矢の日課で、いつも缶コーヒーを持参している。飲み終えて缶をゴミ箱に捨てるとチャイムが鳴り生徒たちはそれぞれの自席につき始める。担任の島川が夏休みについて、話し始める。
「えぇ、みなさん、明後日から夏休みです。」
その言葉に教室に騒ぐ声が響き渡り島川はまた口を開く
「夏休みが終わるとテスト週刊だから勉強に手を抜かず、規則正しい生活習慣を送ってください。事故などに気を付けてください。あと喧嘩は駄目よ!暴力を使うときは誰かを守る時だけですからねぇ!」
そう言うと、周りにいる生徒たちがすくすくと笑い始める。ちょっとしたギャグのようだ。強矢はそんな話を無視して窓の外を見る。退屈そうに。授業もこんな感じで、ずっと窓を見ていた。吸い込まれるような感じだった。教師がたまに、体調不良の勘違いで強矢に尋ねるが、強矢は無視して窓を見ていた。何となくだが外を見ていると落ち着いて感じるのだろうと周りは判断して誰も強矢に話をかけなかった。聖美は下を向いて、秀磨の事を考えていた。
(高本、どうしたんだろう?そんなにひどい病気なのかな・・・私が病院に行ったら元気が出るのかな・・・って何を関げてるのよ私わ!?・・・携帯を消しに行くために病院に行くんだからお見舞いじゃなくて)
首を左右に振りながら自分に言い聞かせて、秀磨の事を考えていた。聖美はため息をついて、上を見上げてぼんやりとした時間を昼まで過ごし、学校にいるのが馬鹿馬鹿しくなって、職員室に行って早退届を出して、学校から自宅へ帰って行った。窓から見える聖美を見て
(俺も早退して、帰ろうかな)
考えてみたが、やっぱり学校に残ることにした。

放課後になり、下校する生徒と部活をする生徒に分かれる。強矢は下校する生徒だ。鞄を担ぎ、階段を下りて下駄箱で靴を履きかえる。
「ねぇ強矢君!」
後ろから女子の声がして、振り向く。声をかけた少女は強矢に手を振っている。強矢も手を振りかえした。少女の特徴は宝石のように光る真っ白な髪を背中まで伸ばし、幼さを残した小さな瞳とは裏腹に少し身長が高く中学生にしては少し大人びた体をしている。制服の上からでもわかるほど、胸は膨らんでいる。彼女の名前は浅田・小夏あさだ・こなつ
「下校ですかな?それともぉ今からデゥエェェト?」
微妙に巻き舌で聞いてきた。
「デートしたことねぇし、別に予定はねぇ・・・小夏は俺に何か用か?」
取りあえず強矢は話をを進めてみた。どうやら小夏は退屈らしい。とりあえず、一緒に帰ることになった。
「ねぇ、強はなんだか元気ないね」
小夏が問うと
「お前には関係ねぇ、ちょっとダルいだけだ」
強矢が逃げるように言うと、足を止めて大きな病院が目に入る。入口付近で、聖美を見かけた。どうやら何か難しい顔をしながら病院に入って行った。
(アイツ確か、同じクラスの・・・)
強矢が考え込むと
「あの女の子が気になるの?」
突然小夏に質問されて思考が停止した。
「別に、同じ中学の制服だから気になっただけだ。」
小夏は強矢の顔を見て、何となく悩んでいるのが解り、何も言わずに黙り込んで、また足を進めた。しばらく歩くと、黄色い屋根の小さな家が見える。二人は立ち止まる。
「ありがとう家まで送ってくれて。」
どうやら小夏の自宅のようだ。
「気にすんな」
強矢が続いて言い
「じゃな」
言いながらまた歩き続ける。
5分くらい歩いたところで、茶色の大きな家が見える。強矢の自宅だ。玄関を開けて、大きな通路を抜けて、階段で二階に上がり、自室に入る。部屋の特徴は、扉を開けて直ぐに棚があり左上の方にコンポと右上の方に薄型のテレビがある。部屋の奥にはベッドがあり、壁の中心に窓がある。ベットの横には勉強机がある。床はフローリングだ。綺麗に片付いて、結構広いスペースの部屋だ。強矢は、鞄を机の手前にある椅子に放り投げ、ベッドに寝転んだ。そして、起き上がり、窓を開けて外を眺める。風が頬を撫で髪を揺らす。夏には涼しく気持ちのいい風邪だ。だが強矢の表情は、少し不安げだった。

 一方その頃、少し時間が遡るが聖美は病院の通路を歩き、受付で病室を聞て、通路を静かに歩く。通路には誰も居なくただ聖美の足を戸が響き渡る。エレベーターで三階にあがり、また通路を歩き、個室の883号室に足を止める。聖美は、数回深呼吸した。ノックを三回して、数秒待つと
「どうぞ」
声が聞こえて、病室の扉を開けて中に入った。美禰が病室のソファーで秀磨を見ていた。聖美はそれに少し戸惑い、秀磨に近寄る。秀磨は点滴をしていて、眠っている。どうやら意識がまだ戻ってないようだ。それでもベッドの近くにある椅子に座る。
「看護婦さんから聞いたんだけど・・・意識は戻ってないみたいだよ」
美禰がいい、聖美は美禰にちらりと視線を向けて聞き返す
「何かあったの?」
美禰は
「過労だって聞いたよ」
寂しそうに呟く。
「そう、やっぱり無理をしていたのね・・・」
聖美が言うと
「心当たりあるの?」
美禰が質問した。
「少しね。この子はクラスの子と話すとき、すごく辛そう。無理やり笑顔を作って。自分を隠しているような感じ。それで疲れたのかも・・・高本は都会の育ちの子だし、慣れない環境でストレスがたまったのかも」
聖美は事情を説明して、棚に目が入り携帯を棚の中に入れた。入れるときに黒い十手と、変わった首飾りがあったが、気にしないことにした。
「水野、今日は帰りましょ・・・明日は夏休み一日前で学校は二時間授業だし」
聖美が美禰に言うと
「うん・・・わかった」
美禰もしぶしぶ返事を返し二人は病院を出て、自宅に帰った。


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