ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 心裏カタルシス
- 日時: 2011/12/07 17:21
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
あっかんべ。
振り向くとそこに、君はいなかった。
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- Re: 心裏カタルシス ( No.1 )
- 日時: 2011/12/07 18:21
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
◆
「ねえ、きみ、あの星の正体を知っている?」
くるくる、ぴょんぴょん。 楽しそうに跳ねて遊んでいるおとこのこに話しかけてみた。
おとこのこは少し驚いたような顔をしながら首を傾げて、星? と言った。
「あそこの、きらきらしたものだよ、ねえ、知ってる?」
「見えないよ、星なんて、どこにもないもん」
おとこのこは訝しげにこちらを見てきた。
わたしには見える。 この広い実験室のすみにある、あの小さいけれど爛々と輝く一番星が。
「おねえさん、お水の中でおめめ開けて、痛くないの?」
「……痛くなるものなの?」
「知らなぁい。 痛いって聞いたから、ぼく、開けた事ないよ。 痛いの嫌いだもん」
そっか。
そういうと、今度はほっぺを目一杯に膨らまして、ばかにしてるでしょ、と怒ってきた。
表情がころころ変わるなぁ、とわたしはそれを楽しそうに見た。
わたしの笑顔を見て、顔をそむけたのが楽しくなって、ふふ、と笑った。
「お星さま、きれい?」
おとこのこがこちらに顔を戻した時、おとこのこは首を横に倒して、扉を開いて外へ出た。
「おとうさぁん、おねえさん、消えてっちゃった! さっきまで、いたのに!」
「ここにいるよ」
少女の声は、泡となって消えていった。
- Re: 心裏カタルシス ( No.2 )
- 日時: 2011/12/09 21:00
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
明日から、夏休み。
そう担任から告げられて、宿題が山ほどある事も忘れ、クラスメイト達は騒いでいた。
友達と遊ぶ約束、花火大会、色々な約束事が仲間内で決められていく中、僕は既に大事な予定が入ってある事に対してため息を吐いた。
笑い声が交わされている中、僕は時間を気にしながらクラスメイト達の間を潜り抜けていっていた。
正門までつくと、サイズの大きいぶかぶかのセーターを着て、マフラーに顔を埋めている少女がその前に佇んでいた。
このくそ暑い中、あんな厚着でも一切汗をかいていなかった。
「暑くねぇの?」
「別に、どってことない」
素気なく返事を返される。
一応、僕は高校2年生であって、年齢的に彼女の2個上なのだが、一つも敬ってくれない。
反抗期なのか? 以前、そう問うた事があるが、彼女の冷めた視線がどうしても痛くて返事は遠慮しておいた。
「行こうよ、シグマ。 急がないと、トーヤ怒るから」
「あー、うん」
濁った返事を返す。 はっきり言って、今から僕たちが向かう場所はあんまり好きくない。
モノツキ管理特別施設本部"ユニゾンマークス"。
僕たちは一般人より少し特殊な能力を持っていて、その能力を持った人間を"モノツキ"というのだ。
いや、今の言い方には少し語弊があるかもしれない。
僕たちの能力は、"憑かれている"。
無機質、動植物、その他諸々。 それらのモノに憑かれている人間の事をモノツキと呼ぶのだ。
一部の地方では存在が気持ち悪いだのなんだのと言われ、差別が生まれていたり、
その反対にカミサマに認められた存在、などと言われ崇められる者もいるようだ。
まさに、十人十色、千差万別。
因みに僕は、炎に憑かれているから"ホノツキ"と呼ばれる種族である。 とは言っても同じモノに憑かれる仲間はいないから、種族ではないけれど。
そして、隣を歩く少女——白神 女(シラカミ イヴ)は"ネコツキ"。 そのまんま、猫に憑かれている。
「イヴってさ、ネコツキでもそうじゃなくても、性格とかあんま変わんないよね」
「そうだね、死ねば」
「なんでだよ」
「……なんとなく、うっとうしい」
「なんとなくで死ぬとか腑に落ちんから生きる」
そう言えば、そういうところがうっとうしいんだよ、と言われた。 ううん、分からぬ。
あー……っと、大事な説明を忘れてた。
僕たちが向かっている"ユニゾンマークス"とは、世の中の全てのモノツキの情報を管理している機関の名称だ。
そこで様々な研究が行われており、今日は定期検診と、重要なお知らせがあると言われてそこへ出向いているのだ。
僕もイヴも、あんまり気乗りしない。
空を仰いでいつもと変わらずふわふわと地道に動いていく雲を追いかける。
「シグマ、早く歩いて」
「はいはいおじょー様」
「…………死ねば」
- Re: 心裏カタルシス ( No.3 )
- 日時: 2011/12/10 18:59
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
都会の中央に重苦しく佇むその建物のドアの前に一歩踏み出す。
ドアは自動でウィン、と音を立てて開き、広く綺麗なロビーが姿を現す。
「お、うぇるかーむ、少年少女よ」
その声を聞いた瞬間、イヴの顔は酷く歪み、舌打ちさえ聞こえた。
白衣の男がロビーの椅子から立ち上がり此方へ進んでくる。
長い腰までの後ろ髪を一つにくくった長身の男。 そう、この男こそが。
「トーヤ、近づくと引っかかれるよ」
「おーっと。 姫さんこえーなぁ」
秋雨 桐夜(あきさめ とうや)。
"ユニゾンワークス"管理指揮最高責任者。 つまり、上層部へも顔が利く権力者。
トーヤは苦笑いでケラケラと笑う。 その視線の先には僕の後ろで今にもトーヤに飛びかかりそうなイヴの姿。
「姫さん連れてくんのお疲れさん、シグマ」
「僕はトーヤとは違ってイヴにそこまで嫌われてないから別に疲れてない」
「おーおー、最近の餓鬼どもってみんなこうなのかねぇ」
ヘラヘラと笑って僕の頭に手を置く。 僕はその手を払ってトーヤを睨む。
かわいくねー、とトーヤはまた笑って歩き出す。
「おら、検診行くぞー」
白衣をまとったその広い背中を見失いそうになるまで、僕たちはその場から動かなかった。
イヴと顔を見合わせて溜息を吐いて、ゆっくりと後に続いて行った。
コツコツと響くローファの音。
不機嫌そうにイヴがわざと大きく鳴らしている。
トーヤは幾度となく僕に「あれマジなんとかなんねーの?」と聞いてきたが、言うまでもなくトーヤが原因なので黙秘しておいた。
するとトーヤは諦めたらしくもう何も言わなくなった。
静かになったなぁ、なんて思っていると今度は無言だったイヴが口を開いた。
「重要なお知らせ、って何?」
「あー、それ説明すんの、俺じゃねーの。 俺だって知んねーもん」
「もんとか……死ねば」
「え? 何コイツ反抗期なの?」
首を竦めてさぁ、と言うと、ほんと姫さんは猫だな、と返された。
それには同意せざるを得ない。
「にぁ!」
突然、イヴが猫のような奇声を上げて、立ち止まったのかローファの音が止んだ。
何事かと後ろを振り向くと、イヴの首を蛇が這っていた。 眼を固く瞑って現実逃避している。 あ、怒ってる。
イヴが百面相している間、ケラケラと笑っていたトーヤは指を鳴らした。 すると、蛇は床を這い、トーヤの方へ移動していく。
蛇はトーヤの体に巻きついて、本人は何事もなかったようにまた進みだした。
「あーあ、またイヴに嫌われんじゃねぇの、トーマ」
「まじでか。 害はねーのになー」
「害は無くてもきっしょいッ!」
「あ、復活した」
トーヤも、というか、"ユニゾンワークス"の構成員全員がモノツキで、彼は先程の蛇で分かるように、ヘビツキだ。
なんつーか、合いすぎて逆に気色悪い。
「シグマ! アイツ、蛇もろとも燃やせっ」
「無茶言うなや」
ぎゃあぎゃあ、やかましく廊下を進んでいく。
「着いたから静かにしてろよ、すぐ終わっから」
診察室のドアを開け、僕らを先に入らせる。
トーヤの紳士的な行動に反して、蛇は舌を出して挑発的に嗤うもんだからイヴは暴れに暴れた。
それを止めるのに徹した結果、僕とトーヤには引っ掻き傷がいくつも出来た。
診察の意味なさないと思うんだけれど、まぁいっか。 健康的って言う事で。
- Re: 心裏カタルシス ( No.4 )
- 日時: 2011/12/24 12:08
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
ぶつぶつ。
診察が終わって、ヘビも隠したのに、イヴは未だにトーヤに向かって呪いの言葉を吐き続けている。
トーヤは楽しそうにケラケラと緊張感の欠片もなく笑ってて、僕は僕で、家まで送り届ける時が大変そうだな、とため息を吐いた。
「……重要なお知らせ、のことだけどな、」
トーヤが不意に、笑いを止め真剣みを帯びて呟いた。
「多分、学生のお前らにゃ受け入れがてー任務だと思う。 ……降りてもいい」
「さっき、知らないって言ってなかった?」
「予想だばーか。 お偉いさんはただ何か知らせるだけの為にてめーらみてーなガキンチョなんて集めねーよ」
気怠そうに首を鳴らして、取り出した煙草を口に咥えると僕の方を向いて煙草の先をとんとんと指で叩いた。
僕は意図を理解し、立てた人差し指の上で発火させて妃を煙草の先端に飛ばす。
吐き出された煙は天井へ吸い込まれるように消えていき、あの不快な臭いも残らない。
文化が進んだなぁと関心を呼ぶ機能である。 僕が生まれた前後の年くらいまでは、こんなハイテクな感じのは無かった。
「ま、降りるならそれ相応のアレがあるんだけどな」
「打ち首拷問とか?」
「ちげーわ。 憑き物が離されるっていうこと」
つまり、お前だったら自由に炎が使えねーってこった。
そう言ったすぐ後に、「シグマからホノツキ離れたら俺ライターまめに買わねーとだめじゃん、うわー」なんて呑気に呟いている。
そりゃぁ、僕のこの能力のお陰で多少光熱費なんかは浮くけれど、あって良かった事なんかそうそうない。
むしろ夏休みなんかは検診やら宿題やらで追われて友達と遊ぶ機会なんかは失われてきた。
しかし、コレのお陰でトーヤに会えたことで家は見つかったしイヴという疑似的な家族のようなものまで得られた。
所詮、それまでだけれど。
考えれば、僕のこの能力はなくても、もうトーヤも失わないだろうし、イヴもなんだかんだ言って僕の所に夕飯食べにきたりするんじゃないだろうか。
「どーするよ、悩める少年」
「……それって任務承諾してから離すことって出来んの?」
「さーね、俺ぁ詳しいこと知らねーから」
役に立たないなぁ。 と再度溜息をついた。
「あたしには、その必要全くない」
「お? 姫さんはその年にして人生決まっちゃってるとかそーゆー感じですか?」
「死ねば」
ただ、そう続けるイヴの方を思わず足を止めて見る。
「大切な人を守りたいだけだよ」
自分より2つも下のこんなに小さな女の子が、自分よりも意識がはっきりしていて、目的があって。
情けない、瞬間的に、そう思った。
過ごしてきた時の使い方は、各々が違う事をしていて。
でも、過ごしてきた時間は、確実に同じであると。
分け与えられたものは同じなのに、前に進む人達の背中を見て生きる僕が、
何故かとても惨めに思えた。
「シグマはシグマの人生を歩めばいい」
母親にもらったその台詞が、まるで何の役にも立たなかった。
自分の脆さを把握してしまった。 その先は絶望だった。
- Re: 心裏カタルシス ( No.5 )
- 日時: 2012/01/09 18:02
- 名前: 禊 ◆fzpLpgOYbk (ID: 8hgpVngW)
この足で踏みしめているものは、人である。
僕はそう思う。
今僕らが歩いている床だって人によって作られていて、床を作る道具だって人が作ったものだ。
そんな考え方をしているのに感謝もなく普段通り歩いている僕は非常だろうか。 深く考えていくと頭が痛くなって吐き気がしてきた。
トーヤに連れて行かれた部屋に入ると、浅黒い肌に眼鏡をかけている男性がデスクに座っていた。 垂れ目で何考えてるか分からない不気味な笑顔に不快な印象を覚えた。
「お疲れさんやな、座っとき。 あっついお茶とコーヒーと、どっちがええ?」
椅子から立ち上がり白衣の裾が翻る。 トーヤが確認もとらず、全員コーヒーと言い、イヴに睨まれていた。 僕は喋らない。
手をグーパーと交互に開いて閉じる、その行為には意味はないけれど、自分の無力さを思い知るにはいいのかもしれない。 ……何故かは分からないけれど。
目の前に置かれたコーヒーの水面は揺らぎ、窓から眩しさを主張するようにそれを利用して反射し僕の瞳に訴えた。
取っ手を握り口へ運ぶ。 熱い。
「まずは自己紹介やな、ウチは妹尾 菖蒲や。 菖蒲ちゃん呼んでもええで! ちなみに男や! でも男でも女でもオールおっけーやで!」
「倫道 総和です」
「白神 女」
なかなか変質的な人のようだ。
まぁ機関が機関だし、真面な人は少ないだろうけど。
「まぁキミら若いし難儀な話なんやけどな、簡単に言えば"とある組織の捕縛"っちゅーやつや」
「反抗組織とか言うやつですね」
「せや。 ほんまは悪い事しよんのウチらなんやけどなぁ……、お偉いさんらはこれ以上そーゆー組織が出ばんのをよしとせんらしいねん」
モノツキである限り国の診察やら研究やらを優先しなければいけない訳で、日常の何時何処で発見されるかも分からないのに急に我が子や妻や夫やらを取られてしまうのは怒りを買うに十分な理由だ。
中には取られたまま一生……なんていうケースだってある。
「しかも一つではなく複数や、中には厄介なんもおったりするんや。 悪さする奴には頭キレんのおるんなんか常識みたいなもんやしな」
「場合によっちゃ死人もっつーことか」
「トーヤの言う事当たっちゃったね、受け入れ難い任務だ」
「あんたむしろ反抗組織入ってきたら? 大歓迎かもよ」
「……ほんと姫さん可愛くねーなオイ」
トーヤは苦笑してそれは御免だと手をぶらぶらと振る。
「桐夜おらんなったら此処も大騒ぎやろなぁ。 そーゆー意味やったらウチもそっちついたったるで?」
「……はぁ?」
「お前さんはもはやユニゾンワークスにとっちゃ失くしちゃいかん人材なんや。 頭もよう回る、餓鬼相手も得意。 ……抜けるとなると修復にも時間がかかる、そこを内側からも外側からも攻撃すりゃなんとかなるやろ」
眼鏡の奥を闘争心ギラギラに輝かせながら饒舌に語っていく彼は、急におどけてリスクの重さ半端ないけどな、とケラケラ笑う。
イヴもトーヤも目を見開いてアヤメを見る。
「どないする?」
口が怪しく開いた。
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