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【二作目】噺屋 紅蜜【完成したよ】
日時: 2011/12/16 18:32
名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)

こんにちは、ここらで小説を書かせていただいております、さゑと申します。
別の書いてんのにネタが浮かばないので、その分のネタを投下していく、といことで。不定期に、自作の短編ストーリーを執筆しようかなと思っています。
「紅い蜜」という題に副う短編モノを書いていきますのでよろしくです。

では、どうぞごゆるりとm(__)m





紅い蜜 熟れた死の華 踏みしめて
   
      暗きに舞うは 紅の霧なり

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Re: 【自作】噺屋 紅蜜【短篇】 ( No.1 )
日時: 2011/12/09 23:35
名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)

曇りだった。その日は。
じめっとした、普段と色の違うコンクリートの地面。青がかかった灰色めの空。
小雨も、降りそうで降らない。そんなコンビニ前だった。
「……、傘持ってくりゃよかった」
俺は、ボソッと後悔の念を込め、しかし、周りに聞こえないように呟いた。
俺の小さな声は、空へ吸い込まれる事もなく、ただ音なく、しっとりと濡れたコンクリートの地面に落ちた。
コンビニの看板は、もうやわく光を発していて、紅いライトは気味悪く駐車場の白いラインを染めた。

帰ろう。軽い寒気を感じた俺は、開いていたダウンのファスナーを一気にしめた。
一歩踏みしめた瞬間、持っていたビニール袋のカップ麺が、ガサッと音を立てて動く。
そのリズムを楽しみながら、俺は年甲斐もなくスキップで家路をたどっていた。
結構な距離を歩いた。そろそろ家につくだろう。そう思い、調子の上がった俺は、さらに鼻歌まで歌っていた。
そんな時、目の前に奇妙な光景が広がった。
紅い花が咲いている。種類は分からないけど、真っ赤に熟れた美しい花が、あろう事かコンクリートの上に。
不気味だ、コンクリートに割れ目があるワケでもない。その場に土があるワケでもない。
しっかりと、一輪の紅い花は、絶対に根が下りるはずのない人工の地面にどっしりと根をはっている。
風にも耐え、微動だにしないその花は、見る者を不快にさせる。
「なんだよ……、これ……」
寒気がする、気持ち悪い。
しかし、驚くことに、辺りを見回すと、同じように紅く熟れた花が、コンクリートに根をはっている。
何本も、何十本も。
気づけば、その無数の花は、知らぬ間に増えていたようだ。
「ふざけんなよ……っ!」
俺は走り出した、アパートはすぐ目の前だ。
俺は、自分の足元に無防備に生えている紅い花をためらう事なく踏み散らし、走った。


ぶちっ  ぶちっ  ぶちっ  ばしゃっ


「んなッ……、うわぁあッ?!」

紅い花は、俺が踏んだとたん、どす黒く、しかし赤みのかかった鉄臭いどろりとした液体を爆弾のようにあふれさせた。

視界が赤く染まるような感覚に陥った。「こんなことない、こんなことない」自らの頭に、呪文のように言葉がかけめぐる。
遠くに見えるコンビニの看板は、爛々と光り始める。紅いライトは、俺の目の光を紅くした。
灰色の空は、すでに青みを帯びない雨雲になっていた、雲と雲の間から、一瞬の光が漏れる。そろそろ、雨が降る。

どすんと、その場にしりもちをついた。ハッハッと犬のように声を荒げてしまう。
こんな所で座り込んでいる暇はないんだ、一刻も早くこの気味悪いところから逃げなければならないんだ。
そう思うのに、足が動かない。怖い。怖いんだ。助けてくれ。

じわっと、下半身が湿る。急に尻が濡れてひやりとした湿気に包まれた俺は、急に飛びあがった。
さっきしりもちをついた所を見ると、なんと、花を潰していたらしく、辺りに赤黒い液体がコンクリートに染み出していた。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

「嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚!!!」

俺は、叫んだ。もうどうでもいい、これは夢だ、夢なんだ、俺は一心不乱に、這い出した。
ずりずりと膝で花を踏みしめ、膝を紅く染めた。
その感覚にゾッとし、一気に立ち上がり走り出した。
靴が紅く染まる、もういい、家に帰りたい、早く。早く。

俺は、全身血だるまのようになって、アパートの階段を上っていた。
一段一段を上るのだけで精一杯だ、紅い足跡を残しながら、上っていた。

「鍵……」
ポケットを探ると、チャリチャリと鈴の音がした、そして、その鍵を取り出した。
ぬるぬるとした冷たい手は、見ていて気分が悪いが、鍵が見つかった分、安堵感は増した。
ガチャッと扉を開けて、中に入ろうとした。早く風呂に入りたい。

その瞬間だった。ザアアと雨の音がした。俺は後ろを振り返った。

俺は見たんだ、その時確かに、血の雨が降っていたのを。






Re: 【一作】噺屋 紅蜜【完成したよ】 ( No.2 )
日時: 2011/12/16 18:26
名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)


親が嫌いになった。

別に、怒られた訳じゃない、口やかましいからじゃない。
ただ、なんとなく、普段の生活の中で溜まっていた嫌悪感。
「宿題やれば?」普段は母に対してやる返事もないまま、私は無視して家を出た。
家出をしたわけじゃない、ただなんとなく、窮屈だったから。
晩御飯までには帰ろう。
そう思った冷たい寒空の中に私は一人の少女を見つけた。
河川敷で、ただ黙々と、小学生ぐらいの女の子が、大きなシャベルを持ち、穴を掘っていた。
白のワンピースは、所々赤い斑点をつけていた。
「死体を埋める」
ふと、私の脳裏にそんな事が過ぎった。
そんなドラマみたいな事あるわけない。
頭で分かっていても、ついつい足はその女の子の所へと動く。

女の子は、近づいてくる私を不審にでも思ったのか、穴掘りを止め、シャベルを構えた。
私は、その格好に寒気すら覚えたが、自然と、口が動いた。
「おじょうちゃん、どうしたの?」
私が、そう尋ねると、女の子は無言で、手をグーにして私の顔へと差し出した。
「ん!ん!」と言いながら、女の子はグーにした手を私に突き出す。
私は、「何か握っているのかな」と思い、女の子に手を差し伸べた。
すると、女の子は、私の掌に、紅い包み紙でくるんだ飴玉を乗せた。
相当長い間握り締めていたのか、女の子の掌は赤みを帯びていた。
そして、私は察した「飴玉をやるから帰れ」多分、女の子はそう言いたいのだろう。
頑なに口を閉じ、私を睨む女の子をあとに、私はその場を去った。
帰り道、私は女の子の事を考えていた。
何をしているんだろう、何を掘っているんだろう、何を——

太陽は、すっかり沈んでいた、すこし、太陽の沈んだ場所から真っ赤な光が漏れる。
太陽の赤い光をうけ、月は真っ赤に、気味悪く輝いていた。




Re: 【一作】噺屋 紅蜜【完成したよ】 ( No.3 )
日時: 2011/12/16 18:31
名前: さゑ (ID: yyB0SOC8)

次の日。私は、学校の帰り道に、またあの場所に行ってみる事にした。
寒い中、上着も着ずに穴を掘り進める女の子に、私はとても不思議な魅力を感じていた。
私は、少し気分が良くなり、昨日女の子に貰った飴玉を食べてみた。
紅い包装紙で包んであった飴玉は、包装紙と同じように真っ赤な色をしていた。
とても甘い香りがし、口に放り込むと、今まで食べた事がないくらい甘いイチゴの味がした。
とても美味しい飴は、私の口の中で歩く振動でころころと舌の上を転がった。
そんな事をしていると、あの時の河川敷についた。
やはり、女の子は大きなシャベルを持ち、穴を掘っていた。
よく見ると、しろいワンピースについている紅い斑点が増えていた。
酷く汚れているようで、土まみれでもあった。
私が階段を使って河川敷の方へ降りると、女の子は気づいたのか、こっちを向いた。
女の子は、また私を睨みつけた。私はそれもお構いなしに、女の子に一つの袋を渡した。
「何。これ。」
女の子は、私の目の前で、初めて言葉を発した。
昨日までは決して開かないような口が、今は袋の中身を見たせいもあるのか、自然とゆるまっている。
「それは飴だよ。私の好きなパインアメ!昨日雨を貰ったから、お返しに……」
目つきが変わった女の子は、早速私の買ったパインアメの袋を破り、中から一粒とりだして口に入れた。
ごにょごにょと口を動かして、私に向かって小さい声で「ありがとう」と言うと、女の子はまた穴を掘り始めた。
周りには、ものすごい量の土がある。
「何で穴掘ってるの?」
私が一言そう聞くと、女の子は無言のまま、穴を掘り続けた。
私は、女の子があまりにも喋ってくれないので、穴をのぞこうとした。
「だめっ!」
女の子は急に、私を突き飛ばした。
女の子は、また私の足元に紅い包みの飴玉を置いて、シャベルを持ち、穴を掘り出した。
私は、紅い飴玉を持ち、家に帰ることにした。
何故中を見せてくれないんだろう。何か秘密があるんだろうか。
女の子に突き飛ばされて転び、すりむいた膝は、血こそ出ていないもの、赤くヒリヒリと冷たい風を受けた。
足は痛むけれど、私は頭の中で、色々な事を考えていた。
この日は、女の子に貰った飴をどうしても食べる気がしなくて、そのままポケットの奥にしまいこんだ。








「何……、これ……!」

家で一人留守番をしている時、私は恐ろしいモノを目にしてしまった。
窓ガラスに、ベランダに、紅い液体が空から打ち付けられている。
窓ガラス越しに外を見ると、血のような赤い雨がざあざあと降っている。
ダンダンとやかましく、アパートの階段の音がした、誰かが急いで登っているんだろうか。
私は、突然降りだした紅い雨を見、呆然と立ち尽くしていた。
紅く染まる植木鉢を、私はぼうっと眺めていた。





私は、紅い雨が降った次の日に、あの女の子に再び会いに河川敷へと足を運んだ。

何故か、女の子の姿が見えない。
私は、河川敷へ下りる階段を一気に下りた。
すると、目の前には、見たこともない紅い花が大量に咲いていた。
彼岸花のようで、そうではない。それは、河川敷の穴を中心に、咲き乱れていた。私は、女の子を捜そうと、その花を踏んで歩いた。
すると、おかしな事に、花が潰れた瞬間、紅い蜜のようなものがドプッと音を立てて溢れた。
「きゃあああああああぁぁあ?!!」
私は、足首にまとわりつくような紅い液体にゾクリとし、悲鳴を上げた。
「どこにいるの?!ねぇ!」
私は、ここから先に歩き出すのが怖くなり、ありったけの大声で叫んだ。
じわじわと土にしみこむ紅い液体は、まるで女の子のくれた飴玉のような色をしていた。
考え出すとキリがない。私は、問答無用で花を蹴散らした。
踏む度溢れる紅い液体は、足首から膝にまで飛び散る。
恐怖で涙が溢れるのをぐっと堪えて、穴へと走った。
あたりに生えていた緑色の雑草は無く、ただただ、紅い花が邪魔をする。
すると、女の子が掘っていた謎の穴が姿を露にした。

私は、どろどろになった靴を靴下ごと脱ぎ捨てた。
脱いでもおさまらない気持ち悪さは、私の頭に恐怖を教える。
私は、ついにその穴を覗き込んだ。
女の子はこの穴で何をしていたのか、何を掘っていたのか。何かを埋めようとしていたのか。


穴の中には、溢れんばかりの飴玉が入っていた。
女の子が私にくれた紅い包み紙の飴がぎっしりと、まるで私の進んできた紅い花の群れのように入っている。
その中に、てんてんと黄色い飴が入っている。
よく見ると、私のあげたパインアメだった。
女の子はこの穴で何をしていたのか、何も分からなかった。
私は、血まみれの足を見て、気味悪さを感じ、家に帰ろうとどろどろの足で立ち上がった。
私は、女の子に貰って食べずにいた飴玉を、思い切り向こうへと投げ捨てた。
もう。忘れよう。そう思い、私は帰ろうと後ろを振り向いた。


私は、その瞬間、あるものを見た。

紅くそまる土の地面、鉄臭く臭う紅い液体。

白いワンピースを紅く染めた女の子の屍を、私は、この目で見た。


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