ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 彼岸花と甘い誘惑
- 日時: 2011/12/09 18:59
- 名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)
- 参照: 元美紗です。ギルフォード荘をよろしく
人間が作り出す世界は我々には、理解不能。
されども、生を受けたからには世を生き抜くと死が訪れる。
それを、逝くべき処へ迎える使者がいる。
死神。
死神が参る時、
人生に幕を閉じた時、
生命の炎が、消えた時、
逃げ惑っても、逃げられない。
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- Re: 彼岸花と甘い誘惑 ( No.1 )
- 日時: 2011/12/10 15:37
- 名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)
仄かな甘い香り。金木犀の滴るような甘い香りが鼻をつく。金木犀を好む閻魔大王の匂い。金木犀の木々が立ち並ぶ通り。息を吸い込むと、仄かな香りで肺が一杯になった。百合の宮の名前である裁判所へ向かう。薄暗くて夜霧が流れている処。死者が逝くべき場所、冥界。黒い蝶柄の振袖を身に纏う少女が歩く度、漆黒の下駄がからんと鳴ってテンポの良い音が響く。長い髪をシニヨンにし桜の髪飾りで纏めた髪が真面目な印象を与える。
懐に、はみ出した短刀。蔦で絡ませた洒落ている柄が覗く。細く長く不気味な廊下を歩く最中、獄卒鬼の牛頭馬頭の二人組とすれ違う。頭を少し下げ、過ぎた。部屋の扉の前に着く。扉を叩くと中から返事がした。中へ入る。初老の男性が書斎の机で書類を呼んでいる途中だった。
「良く来た。長い廊下で疲れただろう。さあ、椅子に座るが良い」
唐の官人服の裾の埃を払って言った。少女は机の前の椅子に座る。
机に分厚い書類を置く。揉み手にしてその男は告げた。
「えーと、そなたは死神の杏だったな?名字はあるか」
杏は首を横に振った。
「ないのか。まあ、良い。我が指名する人間を冥界へ誘う。即ち、我専用の死神。分かるか?……分かるな。それを、そなたに任命するのだ。引き受けるか、問おうと思う。そなたはどう思っている」
暫く目を伏せたが、見上げて暗黙と頷く。男は少し笑って。
「やれやれ、冥界の閻魔大王とは我の事だが面倒なものだ。そなたに本当にすまないと思う。だが、冥界の情勢をそなたも知っているに今不穏な空気が漂い始めておる。平等王と我が不仲なのが原因なのも。それで会議で決まったのじゃ。護身の為に専用の死神を一人選べ、と。これからはそなたが我の代わりに手足となってくれ。頼んだぞ」
長話を喋り終える。疲れたのか背もたれにもたれ、自身の癖毛気味の短い金髪を長い前髪を指に絡ませたら薄い緑色の瞳でぼんやりと眺める。背もたれないでじっと座ったままの杏を見据えると薄く微笑んだ。
「ああ、背もたれよ。疲れたろうに。我は疲れておる。暫く静かに本棚の本でも読むが良い。まだ指名を出すつもりはない。この役目は基本的に我の指名する人間を人間界に一時、紛れながら観察し、冥界へ送る。死神の仕事は人員不足の時に呼ばれる程度だ。まあ、気落ちるでない」
声に疲労が混じっていた。黙々と背もたれる。甘い金木犀の香りが室内を充満する。花瓶に白の金木犀が活けられていた。閻魔は指で突っついたり、葉を優しく撫でたりした。
数時間後、閻魔大王から直々に下された指名で薄暗く陰鬱な冥界から、下界へと出向く。もうすぐクリスマスと新年が間近の師走時。人々は、今年の弥生に起きた惨劇を忘れようとしているように。人は薄情だな、と知れず感じる閻魔。水晶玉に映る下界に降りた杏の姿。
「そなたは人間で何を学ぶだろう。平等王も学んでくれると良いが……」
低く疲労と不満の混じる声が、書斎に消え込んだ。
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