ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ギプスな貴方。
- 日時: 2011/12/10 21:54
- 名前: ほたる (ID: yqB.sJMY)
登場人物
ナオ
奈桜
16歳 性格は極めて淡白 美少女のためよく狙われる
さくの彼女 ただいま同棲中
ソメオカ
染岡 さく
18歳 性格は極めて温厚だが腹黒い 美形のためよくモテる
奈桜の彼氏 ただいま同棲中
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- Re: ギプスな貴方。 ( No.1 )
- 日時: 2011/12/10 22:03
- 名前: ほたる (ID: yqB.sJMY)
『 焦燥と歓喜 』
ゆっくりと呼吸する。
彼が目を覚ましてしまわぬように。
白い首筋に手を伸ばすことには、もう慣れた。
あとは、力を込めるだけ。
それができないから、困る。
情けなんて無ければ、私は彼を殺せるだろうか。
「優しく殺してよ」
そう彼は言うけれど、私には難題だったらしい。
彼と出会って10年。 私は未だに、その答えを出せないでいる。
- Re: ギプスな貴方。 ( No.2 )
- 日時: 2011/12/10 22:57
- 名前: ほたる (ID: yqB.sJMY)
01
『 哀、してます 』
事の発端は、昔から知っている年上の彼の一言だった。
「同棲しようか、奈桜」
「……へ?」
どうせい。
同棲って、恋仲の男女がひとつ屋根の下で暮らすことだと記憶している。
けれど、私はコイツと恋仲になった覚えはまったくない。
「私ら付き合ってたの?」
「付き合ってなかったの?」
「………………」
驚いているけれど、私のほうが驚いている。 今まで大好きだとか愛しているだとか好きすぎて殺したいとか首締められたいとかいろいろ言われてきたし、無視もしてきたけど。
いきなり恋人宣言は、困る。
「ええっと……。 同棲……ですか」
「うん。 僕たち、同棲しよう」
大真面目に告白されているけど、いまここ、学校の教室だから。
授業中だし。 先生とか、みんな見てるから。
ていうか、なんで学校来てるのか分からない。
停学だったでしょう、コイツ。
染岡さく。
私とは2歳違いの昔馴染み。 顔が綺麗で昔からよく女の子からモテていた。
告白されるたびに逃げていたけど。
そのくせ自分は私にベタベタで、毎日必ず告白してくる。 容赦ない。 逃げ場ない。
「あの先生すごく嫌なやつだよねぇ。 奈桜に同棲申し込んでいる途中で怒鳴らないでほしかった」
「それはさくが悪いでしょ」
学校から私の住むアパートまで電車で30分。 揺られながら隣に座るさくを見る。
男子の割には伸びている髪が、少しだけ茶色くなっていた。
「だいたい同棲って……。 さくが私の家に住むの?」
「だって僕の家、叔母さんいるでしょ。 同棲じゃないじゃん」
「ちゃんと叔母さんに言ったんだよね」
「反対してるけど、認めさせるよ」
子供っぽい笑みを浮かべて、さくが私の腕に自分の腕をからませる。
彼氏というよりは、大型の犬といったほうが正解かも。 だって軽く髪の毛テンパだもん。
「……そういえばさくって、停学になってたじゃん。 学校来ちゃダメでしょ」
「ふふっ。 先生殴っちゃったしね。 でも奈桜と同棲したいって思ったから、停学だけど来たんだよ」
ああ、そうだそうだ。
前に私のスカート丈を注意した生徒指導の先生を、さくが殴ったんだ。
あれ、やっぱり停学になったんだ。 退学にならないだけマシだけど、進学はもうできないだろうな。
「明日は土曜日だから、一緒にいれるけど」
「優しいね、奈桜は」
土日は絶対に一緒にいないと怒るじゃん、さく。
- Re: ギプスな貴方。 ( No.3 )
- 日時: 2011/12/11 10:28
- 名前: ほたる (ID: yqB.sJMY)
家に着いて最初にやることはたくさんある。
電気を点けて、暖房も設定して、冷蔵庫の中を見て夕食の献立を決めて、そこに突っ立っているさくをソファに座らせて、私は制服に着替えて、それから、
「えっと……なにしてるの」
着替え終えてリビングに戻り、何故か台所で包丁を握っているさくに質問する。
「いまから夕飯作るんでしょう。 僕も手伝いたなって」
「──さくってご飯作れるの?」
「奈桜の好きなものは攻略済み。 オムライス、好きだろう」
小学生のときに言ったこと、まだ覚えてるんだ。 私に対しての記憶力はいいのに、どうして勉強となると話は別なんだろう。
「好き……だけど、よく覚えてるね」
「僕の頭の中、奈桜のことしか考えてないし」
「自分のこととか、考えないの」
「ない。 僕にとっては奈桜のほうが大事」
私はさくなんかよりも、何倍も何十杯も自分を優先させるけれど。
誰だって自分のほうが可愛いに決まってるし。 でも、さくの目は嘘をついているようには思えない。
だから自信がある。
コイツは絶対に私を裏切らないし、私を見捨てないし、私を傷つけたりもしない。
そしてそれは私がコイツといる唯一の理由だ。
「じゃあオムライス……お願いします」
「りょうかいです」
夕飯はさくに任せて、私はソファに座る。 テレビをつけて、特に見もしないニュース番組にチャンネルを回す。
時間は6時過ぎ。 さく曰く、美人なアナウンサーよりも奈桜のほうが絶対的に可愛いらしいけれど、私はこんなに美人じゃない。
「どんだけ美化してるんだろう、さく」
アイツの目に私はどう映ってるんだろう。 ていうか、私しか見えてないんだけど。
ときどき盲目的だな、と思ったり。
「さく」
「なに?」
すご。 こんな小さな声でも聞こえるんだ。
「また近所で殺人事件だよ」
「奈桜が殺されてないんだったら、いいじゃん」
ニュース番組の音量をあげる。
一ヶ月くらい前から近所で悲惨な殺人事件が起こっている。 内臓はバラバラで、遺体の損傷は激しくて、第一発見者が嘔吐どころじゃないトラウマを植え付けられる事件。
「さく」
「なに?」
覚えてないの?
「忘れちゃったの?」
さくからの返事はない。 今度のは聞こえてないのかと思ったら、背後から人の気配がして、それで、
「さ、 「僕ってなんか忘れごとしてた? 奈桜とのことで何か忘れてる? 思い出させてよなんかすっごく不安になってきた! 奈桜、奈桜との約束を僕が忘れてるの? そんなこと絶対に許されないだろ! 何を忘れたの? ねえっ」
とりあえず耳の鼓膜が痛いから離れてほしい。
「なんでもないよ」 「本当に?」 「うん」 「……そう」
納得いかないといった顔で私から離れる。 そのまましゅんとした様子で台所から戻っていくのを見送って、
「……好きだばーか」
嘘を言ってみた。 意味もなく。
好意を口にすると、微かに頭痛がする。 歯ぎしりをして歯がかけてもいいから、この頭痛を抑えようと努力する。
汚い。
好きだのなんだの、汚い言葉だよ。
- Re: ギプスな貴方。 ( No.4 )
- 日時: 2011/12/11 23:10
- 名前: ほたる (ID: yqB.sJMY)
さくの作ったオムライスは、とてもとても美味しかった。 満点。
いつ、誰に、どこで作り方を習ったんだろう。 さくの叔母さんは、あまり料理をしない人だし……。 自分でレシピを見たのか。
食後、まだ小学生が寝る時間にもなっていないというのに、私たちはお風呂に入終わって、ふたりでひとつのベッドを使用していた。
「ここは暖房つけないんだね」
「今日はさくがいるから。 あったかいでしょう」
「奈桜……大好き……」
力強く抱き寄せられる。
自称付き合っているらしいのに、さくは私にいかがわしいことをしてこない。
別に期待しているわけではないけど、なんだか不思議だった。
「さくは優しいね」
「ん……そう?」
「私の嫌がること、絶対にしないもの」
そう言うと、私の肩を抱き寄せて、耳元でさくが囁く。
「アイツらのこと、思い出したの?」
あ、頭が痛む。
どうしよう。
すごく怖い。
怖くて、怖くて、叫びたい、いいいいい、
「奈桜?」
男の匂い。 吐き気がする。
胃液を飲み込むのは慣れているけど、青臭いのは嫌い。 大嫌い。
うあー吐きそう。 ていうか、吐いていいかな。
「奈桜、僕の顔を見て。 僕はさくだよ。 ねえ、奈桜」
「触らないでよっ」
彼から離れて、ベッドから逃げるようにして落ちる。 床を這い、震える体を必死で抑えた。
けど無理だった。
後ろから、さくに腕を引っ張られる。 少しだけ痛かった。
「奈桜が怖いのはアイツらだろ? 僕を否定しないでよっ」
「やだ……っ、さく、おねが……」
「震えてる……かわいそうに……」
記憶のフラッシュバック中に、トラウマになることをしないでほしい。
あーチクショウ。 男はいつになっても嫌いだ。 気味が悪い。
ときどきさくも嫌いになる。
「さく、さく……ねえ、さく……」
「どうしたの」
「私は……汚いよ……」
こう言うと、さくはいつも笑う。 笑って、私を受け入れようとしない。
「奈桜は、綺麗だよ」
そんなこと言わないで欲しい。 よけい、恐ろしくなる。
優しく頬に唇を押し当てられたけれど、いまの私では鳥肌にしかならなかった。
「奈桜、よく聞いて」
聞かない。
「奈桜を犯した奴らは全員僕が殺した。 だから大丈夫だよ。 奈桜はずっと僕のだし、僕は奈桜の嫌がることはしないから、絶対に変なこともしない。 奈桜との子どもは欲しいけれど、僕は子どもを奈桜にとられたくないから、きっと拗ねるだろうなぁ。 奈桜は怖がる必要なんてないんだよ。 僕がずっと傍にいるし、奈桜が嫌うもの、みーんなみーんなみーんなみーんな、殺してあげる。 だから安心してよ。 僕まで奈桜を犯した奴らと一緒にしないで。 僕はあのとき、奈桜のために何をしたと思う? 人をたくさん殺したんだよ。 奈桜、だから、奈桜。 僕まで怖がらないでよ。 傷つくじゃないか。 きみがどういう経緯で男性恐怖症になったのか、僕は知っている。 それに、僕がどうして性行為を穢らわしいと思っているかも、奈桜は知っているよね。 僕ら、似た者同士なんだよ。 だから、お互いの気持ちもお互いにしか分からない。 どっちか片方でも除けたら終わりなんだ。 ねえ、ねえ、奈桜。 分かったら返事してよ。 その声はなんのためにあるの? 僕に綺麗な声を聞かせてくれるんでしょう。 昔、暗い部屋で歌を歌ってたじゃん。 覚えているんだよ、僕。 奈桜のことは全部、ぜーんぶぜーんぶぜーんぶぜーんぶ覚えてる。 愛してるんだ、奈桜のこと」
囁かれている愛は、きっとどれも本当のこと。
だからこそ、私は酷くさくのことが恐ろしい。
「ありがと……」
「ううん。 どういたしまして」
「愛してるよ、さく」
「僕もだよ」
この愛が幻想だと知ったのなら、きっと彼は離れてしまうだろうから。
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