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保健所の闇
日時: 2011/12/17 21:34
名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)



人間は光しか愛さない。光しか目を向きたがらない。だから、誰も〝闇〟に目を傾けようとしないの連鎖で、永遠と惨劇は繰り広げられる。毎日毎日、命が死んでいく日常。光に隠れ、一部の人間しか受け入れない〝現実〟

嗚呼、醜い人間共の表面だけしか現れない〝正義〟人間に問う。果たして〝殺処分〟を行う人間が悪いのか、〝捨てる〟人間が悪いのだろうか。はたまた両者が〝加害者〟なのか。両者が〝被害者〟なのか。

〝綺麗事〟を述べる奴は消え失せろ。




わんわんわんわんわんわん。きゃんきゃんきゃんきゃんきゃん。にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ。





啼く獣達の声。

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Re: 保健所の闇 ( No.5 )
日時: 2011/12/17 22:28
名前: Xatka (ID: eNPK8IuO)

はじめまして!

そちらも読ませていただきたいと思います(^O^)/

Re: 保健所の闇 ( No.6 )
日時: 2011/12/17 22:55
名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)

ボタン一つで死ぬ。人間なら殺人罪に問われるが、動物達は場合によって違う。絶滅危惧種なら人間は馬鹿みたいに騒ぐ。でも身近な、しかも雑種の犬猫は無視される。保健所はそういう〝地獄〟だ。俺はそのガス室で犬猫を殺すボタンを押す係。俺がボタンを押す前、良く皆は言う。

「おい、……気にするなよ」


でも、気にしたこともない。というか、犬猫が死んでも如何でも良い。最低と罵れば良い。実際そんな仕事をした所為で折り合いが普通だった両親と親子の縁を切っている。理由は〝生き物を殺した鬼〟だからだ。まあ、綺麗事を述べる奴等に俺も未練はない。この仕事を選んだのも、たまたま、というか適当が最もな理由。冷たい人間なんだよ、俺はな。だから、近所で〝犬殺し〟で嫌われ、避けられても悲しくない。
ボタンを押す。安楽死、と書かれているボタン。毒ガスで死ぬらしいけど本当に苦しくないのか、俺は知らない。たまに息がある奴とかいるが、それは獣医が確認し、生きてれば注射で殺す。だから、獣医の奴等は良心の呵責だとか喚いて、毒ガスで死んでることを望む奴等が、実は多かったりする。犬猫を見送るたび、胸の何処かが痛んだが、最近は痛まなくなった。〝慣れ〟は怖いな。





休憩時間。休んでると二日酔いに苦しむ先輩を見かけた。あんなに呑まなければ良かったのに。でも、普通の人間は保健所の殺処分の仕事に付くと性格が変わったり、精神を病む奴がいる。先輩はギリギリで保ってるけどあの人に向いてない。あの人は生活の為にしている人だから。良心の呵責に苦しんでいる。考えないようにしているのが常識。でも、犬猫の澄んで悲しい瞳を見るたび、息苦しい雰囲気が漂う。
保健所の片隅には犬猫達の慰霊碑がある。誰も引き取られず人間の所為で死んでしまった犬猫達を成仏し、その魂が安らかになることを願って建てられたのだ。先輩は必ず毎日あの慰霊碑に手を合わせる。他の人も良く手を合わせる。でも、俺は一度もしてない。その所為で上司にこんな嫌味を言われたことがあった。

「お前は人間じゃない。お前にぴったりの仕事だな」

事実だし、一応生物学上は人間だから、人間じゃないの言葉はムカつくけど胸に仕舞い込んで、そうですか、と返したのみ。結局その上司も犬猫を殺す罪悪感で精神を病んでしまい、精神科へ通勤しながら仕事を務めているくらいだ。
嗚呼、くだらない。たかが人間が作り出した〝尻拭い〟を同じ人間がしている程度で何でこんな苦しんでるんだよ。俺達、人間が悪いんだろうし、犬猫も殺処分される運命だったんだ。嗚呼、くだらない。馬鹿げてる。休息所で涙を流す人間ども。そいつらが馬鹿に見えて仕方ない。ふと視線を窓に遣る。窓から久しぶりの暖かい日差しが射し込んでいた。



Re: 保健所の闇 ( No.7 )
日時: 2011/12/17 22:58
名前: Xatka (ID: eNPK8IuO)

殺傷処分される動物も、
する人も、
かわいそうですよね・・・


「彼岸花と甘い誘惑」
読ませていただきました。
面白かったです。(^∀^)/

Re: 保健所の闇 ( No.8 )
日時: 2011/12/18 09:52
名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)

    Xatka様

わざわざ、ありがとうございます。
面白いだなんて、感激です!
たしかに、殺処分する犬猫もする人も哀れですよね。

Re: 保健所の闇 ( No.9 )
日時: 2011/12/18 10:30
名前: 柚 ◆LOO4aW5XfQ (ID: vWi0Ksv5)


今日は休日。マンションの一室で家賃はそれほど高くない、まあまあの部屋。家具とか必要最低分以外ない、殺風景な部屋だ。玄関へ入ればリビングに続く細長い一本道にそれぞれ洗面所やトイレ、寝室などのドアがあるだけ。洋風で全体的に白い。靴を脱いで奥に入った。耳元に残る犬猫の小さい鳴き声が囁く事もあるけど今は聞こえない。静寂で何の物音もしないはずのリビングで明かりが灯っている。それと何か作っている音も。部屋を間違えるはずない。入ったリビングで見たのは、母親だった。

「あ、母さん」
「怜。あんたに話があるのよ」

コーヒーの匂いが鼻孔に入り込む。独特の苦い味が俺の好みでブラックしか飲めない。ミルクはないけど砂糖はあった。母さんのコーヒーに砂糖を入れて手渡す。久しぶりに見る母は何処かやつれている。前より痩せてるかも。

「お父さんがね」

母が口に出した。

「お前がどうしているんだ、って良く独り言で言うのよ。お父さんもあんたの犬猫の殺処分する仕事は嫌だけどね、良く良く考えたらあの仕事も人間がしなくちゃいけないのよね。誰かがする仕事なのね。だから、あんたに罪があると言えないし、お父さんもあんたの事が心配なのよ」

黙ってコーヒーを啜る。アツアツで少し冷ましたほうが良かったかも。母さんはそう言うと、黙り込んでしまった。その痩せた顔がやつれも混じって寂しい感じ。コーヒーが熱い所為か飲んでない。

「それで俺にどうしろと」
「分かってるでしょ、たまには実家に帰りなさい」

一方的に絶縁を告げられ、今度は帰って来い。なかなか複雑な家庭だなと俺は他人事で見ていた。母さんが帰った後、母さんのコーヒーは一口も口につけられてなかった。





保健所で何百匹の犬猫が運ばれる。まるでゴミを処分する施設みたい。そう言ったら、先輩は顔を顰めてそうだな、と落ち込んだ。馬鹿だな、馬鹿。好い加減〝慣れる〟ころを過ぎても落ち込んでいる。俺には分からない。何で暖かいのか。俺はずっと冷たいまま。
殺処分される前、飼い主を探そうと犬猫の譲渡会が開催される。ほぼ無料で犬猫を譲り受けれてペットショップにいる〝高級な犬猫〟も、たまにいる。しかし、ほとんどが雑種なので同情した人や雑種でも構わない人が引き取る程度で、全体の約半分すら引き取られない犬猫が多い。何故なら、犬猫は〝雑種〟はゴミだから。雑種で良い人もいるけど、やっぱり〝ちゃんとした種類〟が好まれる。雑種は今の世で生き抜くには厳しい。現に犬好きの優しい女の子だと母親が自慢した母子。女の子は雑種に目もくれず、ちゃんとした犬種のミニチュア・ダックスフンドを抱きかかえ、母親に言った。

「この、わんちゃんが良い!」
「あらそう、可愛い子ね。ちゃんと世話するのよ」

命拾いした犬猫を死ぬ運命の犬猫たちは、寂しい瞳で見つめる。あの母子のように上辺だけの〝同情という名の卑劣〟さを出し、雑種に目もくれない人間が、馬鹿だ。そしてそんな人間に殺される犬猫も、哀れとしかいいようがない。もしも、お前達が人間だったらどうなってたんだろう。
俺には知らない、分からない。


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