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アイタイモノクローム 第一章①
日時: 2011/12/20 13:51
名前: 森谷リョウ (ID: 3iZuTr1t)

   —あの時、僕等は、一体何を夢見ていたのかな?







第一章「頭蓋骨を抱いた人魚」



Prologue

 人魚は存在する。

彼らは美しい姿をした、実体を持つ生き物である。けれどその多くは、尾を捨て、人間として生きている。

人魚は、とても賢い。

何年、何十年、何百年と生き続ける中で、記憶が途切れることは、まず無い。
だから、海の賢者と呼ばれる。

しかし彼らの中でも、時として愚かな者も居る。

一番有名なのが、人間に恋をした、哀れな人魚。彼女は、人間に近づいたばかりに、泡になってしまった。

そんな彼らにとって人間は食べ物である。

彼らはその美しい歌声と姿で人間を水の中に誘いこみ、真珠のような可愛らしい白い歯で、綺麗に肉を平らげてしまう。

そして人間にとって、人魚はクスリである。

不老不死の、特別な薬。人間はそれを手にする為なら、どんなことでもする。
人魚にはそれが理解できない。
彼らは、長く生き続けるのが、どれだけ苦痛で、孤独なのか知っているからである。故に、人魚は人間に強い嫌悪と侮蔑感を抱くと同時に、強く小さな憧れも持っているのである。



 そんな人魚の一匹が、とある村の、とある滝壺に住んでいた。

何百年も孤独な彼女は、ただひたすら死を願って生きていた。いつも胸に抱えている、白い頭蓋骨と共に。

暗い森の奥深く、誰の目にも触れる事がない、大きな岩の壁に囲まれた小さな滝で、
人魚は一人、死を夢に見続けていたのである。

そんな彼女の元に、ある日奇妙な少年がやって来た。

少年は、眉を思い切りしかめた人魚に向かって、こう言い放った。


「僕と友達になってくれる?」


 あの初夏の風は、まだ何も知らなかった少年に、何を告げたかったのだろうか…







柴崎高志の父親は、満州国から帰ってきたばかりの陸軍大尉で、立派な軍人として有名だった。
柴崎家には、子供が三人いる。一人はもう立派な兵隊の、父親に良く似た兄。二人目は士官学校に通っている、母親似のおっとりした弟と、三人目は、まだ幼い妹である。
 高志は十五歳で、母親に似た、明るい色の柔らかな髪と、優しそうな二重の目を持つ、整った顔立ちをした少年だ。線が兄よりもずっと細く、力も弱い。けれど高志は、父や兄の様に、立派な軍人になることを目標としていた。
高志は、大日本帝国が戦争に勝ち続け、清に露西亜と、大国を相手に勝利を収めていたことを、人生の喜びの一部としている。けれども高志は、戦場というものを見たことも、感じた事も無かった。
父は厳格そうに見えて、実は誰よりも優しく、面白い人だった。その包容力ときたら、女性である母が思わず負け惜しみを言う程である。高志はそんな父が大好きで、いつも戦争の話をねだるのだが、父は何故か、その話しをしたがらなかった。高志にはそれが、不思議でならなかった。父にとっても、名誉なはずなのに。
兄が父と入れ替わりに満州へ旅立ち、もう大分経った頃。
母方の祖父が急に倒れ、高志は母と一緒に、祖父の家へ向かった。妹はまだ五歳だが、父が面倒を見る、と自信ありげに宣言したので、二人きりの帰郷だった。
祖父の家は、とても山奥の小さな集落にあった。街は近代化していっているのに、ここだけ江戸時代に取り残されたかのようで、高志はそこがあまり好きでは無かった。

だから今こうして、暇つぶしの為の分厚い本を風呂敷に包んで、田んぼに囲まれたゆるい坂を登っている。
「ねぇ母上、おじい様の家って、こんなに遠かったですっけ…?」
軍人らしくきびきびと歩きながらも、高志が泣きごとを呟く。普段あまり外で走りまわったり、遊んだりしない高志にとって、これはかなりの重労働に感じられたのだが、母の方は着物なのにも関わらず高志よりもズンズン先に進んでいた。
「はぁ〜やぁ〜くぅ〜!日が暮れちゃうから〜!」
と大きな声で叫んで、ニコニコしながらまた歩き出すその背中を、高志はため息をつきながら見ていた。
 時は1943年、夏。
緑豊かな、小さな集落。街は西洋の空気に酔っているが、ここではそんな空気は一切感じられない。かやぶき屋根の古風な民家が建ち並び、青々とした田んぼと畑が民家よりも目立つ。平安時代から存在すると言われる、謎に包まれたこの集落には、暗黙のルールがあった。それは…
『北の森に入らない事』。
北の森。それは、この集落を囲む森林の中でも、もっとも広大で、もっとも豊かな森林。この集落の水源を担っている北の森には、ここの人間なら誰でも近づかない。そして、森の入口には、古びた鳥居が、忘れ去られたように建っている。その鳥居の意味を、誰も知らない。
知っているのは、北の森に行った人間は、絶対に帰って来ないという事だけだ。触らぬ神に祟りなし。母も昔からそう言われて育ってきた。
戦火も、自然災害も、なぜか滅多に振りかからないこの謎の地で。
 高志がまた歩き出した。太陽が南中してしばらく経つ。もう少しで夕方だ。重い風呂敷を背負い直して、シャツの袖をまくったまま、もう目の前に見える古い民家を目指す…


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Re: アイタイモノクローム 第一章① ( No.1 )
日時: 2011/12/20 20:39
名前: 風猫(元:風  ◆Z1iQc90X/A (ID: rR8PsEnv)

初めまして、風猫と申します。
カキコでは、珍しく凄く基本がしっかりした文章ですね!

人魚と言う存在と高志が、どのように関係していくのか気になります。
そして、父の存在も気になる所ですね。
では、更新頑張って下さい!

Re: アイタイモノクローム 第一章① ( No.2 )
日時: 2011/12/21 10:18
名前: 森谷リョウ (ID: 3iZuTr1t)

初めまして、風猫さん

あ、ありがとうございます!!
本当ですか?凄く嬉しかったです。

更新頑張ります!

というか出来ているんですが、一回3000文字とのことなので、時間を置かねばならないかと・・・
初めてなのでいろいろビクビクです…;


本当にありがとうございます!


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