ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 血が舞うころ君が泣く
- 日時: 2011/12/29 09:05
- 名前: 夕夏 ◆PQldS6ag9o (ID: PBJobJTc)
血が舞うころ君は泣く。
その訳を教えてくれないかい?
血が舞うころ君は泣く。
泣いても、もう遅いんだよ。
血が舞うころ君は泣く。
愛してる、愛してるからね。
血が舞うころ君は泣く。
泣かないで、の一言も言えずに。
どんどんと底へ落ちる僕と対照的に出口で君は泣く。
手を差し伸ばした先、
君は跳ね返すのだろうか、受け取って握り締めてくれるかな。
血が舞うころ君は泣く。
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- Re: 血が舞うころ君が泣く ( No.1 )
- 日時: 2011/12/29 14:38
- 名前: 夕夏 ◆PQldS6ag9o (ID: PBJobJTc)
登場人物
長谷川 陸(はせがわ りく)
無表情で冷静沈着な性格。謎めいた雰囲気が特徴。
妹の愛花が泣く理由が分からない。容姿端麗。
長谷川 愛花(はせがわ あいか)
陸の妹。弱虫で気弱な性格。繊細な雰囲気が特徴。
陸が怖く、常に泣いている。容姿は平凡。
黒木 葵沙(くろき きさ)
見た目は非常に可愛く癒し系。腹黒く不思議系な性格。
陸の同級生で同時にストーカー。左目に眼帯をつけている。二重人格。
美紗(みさ)
黒木葵沙の二つ目の人格。凶暴で狂気的な性格。
常に微笑を浮かべている。
- Re: 血が舞うころ君が泣く ( No.2 )
- 日時: 2011/12/29 15:22
- 名前: 夕夏 ◆PQldS6ag9o (ID: PBJobJTc)
君が泣く。今宵も君は人知れず泣く。何故君が泣くのか貴方は知らず、唯、無表情で人に冷たい印象を与える瞳で見つめてるから、君は泣く。泣いても無駄だよ。泣いても分からないよ。泣いちゃダメ。笑ってて。笑わないと君が苦しく、悲しくなるだけだからね。今宵も君が泣く。
朝。大晦日が間近に迫り、師走時でもっとも忙しない日だ。太陽の暖かい陽がなく。代わりに曇って寒々しい空が見回すかぎり広がっている。ある部屋の一室、年頃の娘らしい部屋で泣き腫らした瞳が赤く。鼻をすすりながら、愛花はホットミルクを啜っていた。窓をぼんやりと眺め、マグカップの手が小刻みに震えて。
「………お兄ちゃんに、逢いたくない」
目の前で道路にボール遊びする男児と女児。兄妹で仲良く遊んでいる。羨ましいな、と思いで見つめているとドアからノックする音を聞く。愛花の顔がさっと青くなって。
「愛花、母さんが呼んでるぞ」
ドアを隔てた向こう側で〝兄〟が呼ぶ。震える足でドアを開けた。
「愛花、どうした。……また泣いてるのか」
「お兄ちゃん………。窓の外に変な女の人が……怖いよっ!」
「女の人、誰かな」
部屋の中へ入り、窓の外を見遣る。電柱の影で優しい微笑を浮かべた、兄と同い年そうな娘が手を振ってこちらを見ている。長い茶髪に赤いカチューシャの髪飾り、黒革のベルトをした白いワンピースの服装。すらりとスリムな体格。兄の痩せて華奢な体格と対照的に可愛らしい子で、
「僕の同級生の黒木葵沙だ。不思議系な子で害はないよ」
度々〝兄〟と喋ったという兄の同級生。小さな体から力を抜いた。
「じゃあ、母さんが早く朝食を食べなさいってさ」
と兄が部屋を出て行く。もう一度、窓の外を見遣るが誰もいなかった。
「あれ、雪だわ……」
白い雪が閑静な住宅街の間をぬって舞う。
ダイニングで朝食を食べる。ふわふわのコショウが良く聞いてるスクランブルエッグを口へ放り込み、頬張る。卵の柔らかさが口の中でとろける感じでココアを口の中に流し込んでいく。そしてまた一口放り込む。
父が新聞を広げて読んで、母がブラックコーヒーを啜り、愛花はスクランブルエッグを美味しそうに頬張る。兄は無表情な顔でハニートーストを一口、齧って。紙パックのコーヒー牛乳をストローで吸う。
母は派手で都会な女の化粧が濃く。真面目で伊達眼鏡が冷たい印象で、趣味が仕事のような父。優等生風の運動勉強が平均的で容姿端麗の兄。全て平凡な妹。何ら変わりない四人家族。スクランブルエッグを食べていた手を止め、フォークを置く。
「どうしたのよ、愛花」
うっすらと涙を目に浮かべた。母は困惑した表情で夫を見据え、夫が兄を見つめる。
「陸。部屋で食べなさい」
「分かった」
頷くと陸はコーヒー牛乳を片手に、ダイニングを出た。室内には三人が残って、母が心配そうに愛花の頭を撫で様子を訊ねる。
「ねえ、愛花。お兄ちゃんの何処が怖いの?……たしかに、お兄ちゃんは無表情だけどね、お兄ちゃん。優しくて良い子じゃないの。愛花、何も怖がる事はないのよ。ねえ……」
優しく諭す母の言葉が、不気味な余韻で耳に響く。
- Re: 血が舞うころ君が泣く ( No.3 )
- 日時: 2011/12/29 20:27
- 名前: 夕夏 ◆PQldS6ag9o (ID: PBJobJTc)
- 参照: ストーカー被害の記述がありますが、間違ってたらすいません。
毎日きちんと長谷川家に手紙が送られる、陸宛てで。自分達の日常を礼儀正しさを窺える文章で事細かく綴る。所謂ストーカー被害に陸は受けてるけど手紙以外、目立った被害がなく。警察も調べようがないとお手上げ状態で家族も気味悪く思うだけで余り気にしなかった。しかし、冬休みに入ると一変。今では珍しい公衆電話からの無言電話や家族旅行で家を出る、車に乗る一家の写真。陸が買ったコンビニの商品や一家の晩御飯のレシピ入りの料理本とストーカーが作ったと思われる料理の写真が送られ、母は激怒と恐怖で身を凍らせる。
「まただわ!……全く。もう嫌よ、引越ししたいくらい!」
ストーカーから送られてきた料理本をフローリングの床に叩き捨てる。ダイニングで家族四人がストーカーからの贈り物を、恐怖と軽蔑が混沌する眼差しで見据え、愛花は母のエプロンを握り締める。父は腕を組み、厳しい視線でストーカーからの贈り物を見つめた。
「母さん。………ゴメン」
「……陸。あなたの所為じゃないわ。悪いのは全部ストーカーよ!」
遂に泣き崩れ、ソファに座らせた。両手で顔を覆い、泣き続ける。エプロンの端に涙の滲みが出来た。愛花は母の隣を座ってその背中を摩る。父は母に傍に行く。隣に座って母の名前を呼ぶ。
「百合華。泣いてても仕方ない。今すぐ警察に行くぞ」
腕を背中に回し、胸元に寄せる仕草で男らしさが醸し出してる。
「でも……っ。春彦さん。悔しくないの?警察に頼るしかないと見せつけられてるようだわ。それにご近所さんの噂にでもなったら!もう、耐えられない。逮捕した暁には多額の慰謝料をせしめてやるんだから!」
語尾でヒステリックに喚く。癇癪を起こし、薔薇の刺繍のハンカチを指先を抉りながら握って。その細面の顔で滲んだ涙を拭った。嗚咽を繰り返しつつ、鼻を啜る。そこへ、インターホンが室内に響き渡って、来客を知らせる。
春彦がストーカーを意識し、用心深くインターホンの訊ねてきた人を映像で見られる機械を覗く。左目に眼帯をした愛らしい容姿で陸の同級生の少女が映っている。記憶にうっすらと残って何度か妻の噂で聞く。不思議系な少女だと。体中の力が抜ける。とてもストーカーをやるような子でないと知っているからだ。玄関へ向かい、チェーンを外しドアを開ける。
「はい」
愛らしい少女の澄んだ瞳がぱっちりと合う。その赤い林檎のような頬が一際目に引く。明るい笑顔と大人しげな声がミスマッチな言葉を告げた。
「こんにちわ、送り物はお気に召しましたか?」
その瞬間、目の前が暗く。体中が別の意味で重くなり、その場で崩れ落ちた。がくがくと膝が笑い出し、少女を見つめる目に軽蔑の色を滲む。そうしている間に少女は首を傾げる。
「あら、演技の練習ですか?黒蝶のキーホルダー、長谷川さんに届いていませんでした?可笑しいなあ……。あ、そうだわ。送るのを忘れて直接お届けに来たんでした!えへ、ごめんなさい」
人差し指を右頬にくっつけ、甘い笑みを浮かべ、ピンク色の舌を唇から少し出す。途端、今までの緊張が解れると同時に気力も体中から抜け、ふらふらとふらめく。立ち上がって疲労した顔を無理に笑顔を作り。
「そ、そうだったのかい………。あ、ありがとうね」
「いいえ、ご迷惑おかけしました」
「黒木。………何の用だよ」
陸が顔を覗かせた。笑いながら葵沙はポケットの中から黒蝶のキーホルダーを取り出し、陸の掌に乗せる。黒蝶と薔薇の花が飾られ、女性的なキーホルダー。葵沙が甘い澄んだ声でひとつひとつ、説明する。
「白薔薇でしょ?花言葉は〝私はあなたを尊敬〟ってね!じゃあね、また来年でお会いしましょうね、長谷川さん。良いお年を。さよなら」
一方的に述べた後、玄関の門を潜って。外へ出て見たら、もう彼女の姿は何処にもない。遠い道を眺めながら、陸は黒蝶のキーホルダーを持ち、吊り下げて。
「私はあなたを尊敬、ねぇ………」
鈴の付いたキーホルダーが鳴った。
- Re: 血が舞うころ君が泣く ( No.4 )
- 日時: 2011/12/29 20:56
- 名前: 夕夏 ◆PQldS6ag9o (ID: PBJobJTc)
どっぷりと夜に沈んだ住宅街。帰宅時間帯から遅く。人通りも殆どないので夜道を歩んでいるのが、葵沙ぐらいだ。少しながら積もった雪でブーツの底が踏みしめると音が鳴る。女子高校生が出歩いて好ましくない時間帯で両親が心配しているころだ。でも、気にしないで住宅街を歩く。
「長谷川さん。喜んでくれたわね。さてと盗聴器で長谷川さん一家の会話でも聞こう。今日は何の晩御飯を食べるのかな?いつも、美味しそうな食事で家族四人で仲良く食べてる。良いなあ、羨ましいわ………」
意味ありげな言葉で呟く。独り言が悲しく聞こえる口調。屋根の上で物音が、上を仰ぐ。寒い時期なのに黒猫が屋根から屋根へと乗り移って、闇の中に沈んでいく。黒猫さん、ばいばいと葵沙は声音で言う。耳にイヤホンをつけ、雑音に混じった家族の会話を聞く。
「愛花、今日はお前の誕生日だ。ほら、プレゼントだよ」
「来年で小学4年生だわ。9歳の誕生日、おめでとう」
「愛花。僕からはクマのぬいぐるみだよ。お気に召した?」
普通で幸せな家庭。イヤホンの長い線をきつく握り締め、手に力が籠る。顔に作り物の笑顔を浮かべて。
「良いな、長谷川さんの家。うふふ、嫉妬しちゃうくらい」
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