ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- エンジェルデザイア 久々更新
- 日時: 2012/02/16 22:13
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)
——Angel Desire。
それは叶うことのない、天使の願望。
【注意事項】(読む前に読んじゃって欲しい、犬からの注意事項)
・グロテスクな表現が少しばかり入っちゃいます。苦手な方はすみませぬ。
・自由気ままに書きます。更新する時間帯はまちまちで、更新しない日も勿論あります。連続更新とか書きたい時にしか出来ません;
・物語内容、描写共にまだまだ未熟なうえ、修行中でございます。見苦しい点がいくつも見られるかと思いますが、よろしくお願いしますっ。
・何か普通に他の物語に登場した人とか出てくる可能性あります。
・荒らし、中傷等の言葉をかける目当てで当スレに来るのはご勘弁ください。
・えー……少し、自分の書き方として描写いっぱい書いちゃう感じになったりして、とても長い文章が連続してくる可能性があります。配慮してキリのいい部分で一行開けたりはしますが、それでも見難い場合は言ってください。
・既にシリアスダークで連載している小説と共に更新することになります。申し訳ないですが、よろしくお願いします……。
・最後に、これは遮犬の書いた物語ですw何が注意なのか自分もよく分からないのですが(ぇ よろしくお願いしますっ。
〜目次〜
Prologue
【>>1】
第1話:close out
【♯1>>4 ♯2>>9 ♯3>>12 ♯4>>13 ♯5>>18】
第2話:No Logic
【♯1>>22
- Re: エンジェルデザイア ( No.8 )
- 日時: 2012/01/02 14:42
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: FMKR4.uV)
起きて見たらまともなコメントが……!何だろう、涙g(ぇ
明けましておめでとうございますっ。今年も駄作ながらも頑張りながら更新していきますので、よろしくお願いいたしますっ!
>>黎さん
あああ、明けましておめでとうございますっ!!
今年もよ、よろしくお願いします;
お久しぶりですっ、黎さん!
あの文才でスランプ……誰にでもやはりスランプはあるものなのか;
プロローグはちょっと格好つけたかったのです……描写……おうふ、長いだけで内容が分かるか怖い描写です;
あぁ、ファンタジーな所ありますー。題名からも何かファンタジックな感じで、反映しているかのようにファンタジックな一面があっちゃいます。
仕方が無いって言葉でどれほど僕は後悔したか……(ぁ
何だかその言葉をこれからいっぱい出してしまうかもしれません……
これから瞬君、そしてプロローグに出てきた男の人とかヤンキー娘とか、非日常と日常の交差を描いていきますっ。
わざわざコメントしていただき、ありがとうございます;
恐縮の極みですぉぉっ!本当、久々にまともなコメントが……。
>>風猫さん
明けましておめでとうございますーっ!
お久しぶりです!なかなか雑談の方のー……討論とか!いけなくてすみません;近場、勉強等の為に伺いますっ。
正月……課題をやるのを忘れて、今とんでもなく追われてる状態です(ぇ
昔と今とでは全然違いますからねー……公園とかもなくなったり、草野球とかやってたあの広場とか空き地とか、ゲームセンターとかではなくて、もっと健康的なスポーツとかやる場所が無くなっていっちゃうわけですねー。
とにかく一生懸命に書きました;そう言っていただけると、頑張ってよかったなぁと思います!ありがとうございました!
コメント、色々と忙しい中、ありがとうございました!コメントってこんなに嬉しいことだったんですね……(ぇ
>>清村さん
こんにちはぁー!明けましておめでとうございます!
そして、初めまして、ですねw
必死で書いた甲斐があった……っ!そう言っていただけると本当に嬉しいです!ありがとうございます!
これからも画が想像しやすい物語を作れるように頑張りたいと思いますーっ!
コメント、ありがとうございます!一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いしますー!
- Re: エンジェルデザイア ( No.9 )
- 日時: 2012/01/03 01:29
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: FMKR4.uV)
後ろを振り返った。その方から聞こえたはずである声の主を確かめる為に。
「あれ……?」
けれど、そこには誰もいなかった。確かにそこから声が聞こえたのだが、声を発したであろう人物がいなかったのだ。
僕は辺りを見回し、他に人がいないかを確かめるが、田んぼと畑が所々にあり、すぐ近くにコインランドリーとコンビニがあるぐらいで、人気が全くと言っていいほどなかった。
そういえば、電車の中でも人気は少なかったように思える。それはこの町自体は発展しているのだが、それが人口増大に繋がるわけでもなく、特にこんな辺境に用事のある人間なんてそうそういないのだろう。
「おかしいな……」
知らず知らずの内にそう呟いていた。
今はまだ昼時より早い11時頃。畑仕事などをしている人がいてもおかしくはない。なのに、その仕事をしている人でさえもいないのだ。もしかすると、僕が来る前に終わらせてしまったのだろうか。
コンビニも人気がなく、車は一台か二台ほどしか止まっていない。コインランドリーに至っては一つも車は止まっていなかった。
隠れられる場所もなく、一面が見渡せるこの場所だ。声の主があの一瞬でどこかへ消えてしまえるわけがない。
「……空耳かな」
僕はそう、仕方なく思うことにした。
そうでなければ、どう説明するというのだろうか。その声を発した人物は、どこにもいないというのに。
いつの間にか僕の足取りは真っ直ぐ親戚の大家さんの一軒家へと歩みを進めていた。
チャイムを鳴らし、暫く待った。……だが、一向に出てくる気配はない。
留守なのだろうか? 僕はそう思いつつも、もう一度チャイムを鳴らした。それから数十秒待ったが、やはり出てくる気配は一度たりともなかった。
「やっぱり留守だな」
もう既に部屋の鍵はもらってあるし、挨拶は後にして荷物の整理などを先に終わらせてしまおう。
目的を決めた僕は、次にアパートへと向けて足の方向を変えたその時。
ガチャッ、と音が後方から聞こえた。ゆっくりと後ろを振り向くと、ドアが少しだけ開き、そこから覗いていたのは——小柄な少女だった。
白いワンピースを着て、僕をじっと見つめているように見える。その純粋無垢な瞳と、艶やかな長めの黒い髪はとても可愛らしく見えた。
親戚の人の娘か何かだろうか。その少女は怯えた様子も無く、ただ無表情で僕を見つめていた。
「あの……? 君は、この家の子……だよね?」
おそるおそる僕は尋ねてみた。しかし、少女は返事を返そうという気配がまるで無かった。それどころか、どこか冷たい目で僕を見ているような気さえもして、少し怖い感じがした。
「あの、さ。お父さんとか、出かけてるかな?」
聞こえないのだろうか。まるで反応を示してはくれない。少女はその場から一歩も動かず、何をするわけでもなく、ただ僕を見つめ続けている。それに対して僕も、だんだんと質問をする言葉を失くし、途端に不気味に思えてきた。
本当にこの子は、この家の子なのだろうか。親戚、と親は言ったけれど、本当に親戚の家なのだろうか。僕がただ住所を間違えているだけなのではないだろうか。
急に辺りが暗くなったと思えば、先ほどまで燦々とした太陽が辺り一面を照らしていたが、いつの間にか曇り空によってその光は無くなってしまっていた。今が何時で、どうなっているのか全く分からない。これは初めての感覚だった。
「ねえ、瞬」
その時、またしても誰かから呼ばれた気がした。声がハッキリと聞こえる。それも聞き覚えのある声だった。けれど、そんなはずはなかった。"聞き覚えのあるに決まっている声"なのだが、"僕以外から聞き覚えという認識をしてはならない声"だったからだ。
声のする方向。それは、後ろの方から。それも近かった。怖気が全身に来るように、僕の肌を貫いていく。だんだんと曇り空が晴れてくる。いや、晴れてきたとしてもこの暗さは変わらない寧ろ、汚れていっていた。汚れていく——こんな辺境では起こりえない、皆既現象によって。
僕はゆっくりと後ろを振り向く。振り向いた、その先には——
「やぁ、"君"」
正真正銘、どこからどう見ても
——僕が、目の前にいた。
「あの……」
ビクッ、と体が震えた。何だろう、今の感触は。突然夢から覚めたように、目の前が現実となる。
少女が、僕の目の前にいた。困った表情をしたドアにいたはずの少女の声は、とても可愛い歳相応の声だった。
空は燦々とした太陽が照り付けていた。先ほどの曇り空や皆既現象などは微塵も感じられず、太陽が機嫌良さそうに空に浮かんでいるのだ。
一体先ほどの出来事は何だったのだろうか。ただの夢で片付けられるようなものなのだろうか。
ゾクッ、と迫り来る恐怖を感じたあの時の背筋の感じが体に染み付いているようで、全くその感触を忘れさせてはくれない。
(それよりも……)
この天気の違いもそうだが、あの時に見た"あの人物"。あれは、紛れもない僕だった。
もう一人の僕が、目の前にいた。
「あのっ」
その時、少女が声を少々張り上げて言った。僕はその間、先ほどの出来事のことを考えており、全く少女のことは考えていなかった。
「あぁ、ごめんね。えっと……」
僕は少女の返事を待ちながら思う。そういえば、先ほどもこの少女はあそこにいたはずだ。僕が後ろに振り返るまでは。もしかしたら、この少女は僕が"二人いた"という事実を目の前で見たのかもしれない。もしそうだとしたら……先ほどのことは、現実のものとなる。夢じゃない。あれは、現実的に起こった出来事になってしまうのだ。
「——これ」
「え?」
しかし、少女の行動は意外なものだった。何故かは分からないが、少女は僕に向けて右手の拳を伸ばしていた。何を示しているのか分からず、僕はそのまま黙ってそれを見ていると、
「手を、開いてください」
「手を?」
少女はポツリポツリと、言い放つ。僕がそれを確かめるように聞き返すと、黙って首を縦に振った。
どういうわけだか分からないが、とりあえず手のひらを見せろということなのだろうか。僕は手を開き、それを少女と同様に伸ばした。
すると、少女の握り拳が僕の手のひらの上へと来て、ゆっくりと開いた。その中からは、一つの小さな物が手のひらへと転がっていった。
「これ……飴玉?」
僕がそう尋ねると、少女は今度はゆっくりと頷いた。そして、少女は途端に寂しそうな表情を浮かばせる。
一体どうしたのだろうかと思い、少女に尋ねようとした時だった。
「その飴玉、食べたらダメです」
「え? 食べたらダメなの?」
「はい。それは、魔法の飴玉なんです」
魔法の飴玉。何だか幼い頃、よくこの街で、朔達とそんなことを言い合った気がする。
そうだ、そういえば朔達はどこに今住んでいるのだろう。昔と変わらないまま、この街にいるのだろうか。ただ僕は、この街の思い出に惹かれるがままにこの場所へと戻った来たが、皆のその後の行方は知らないままだった。
「へぇ、魔法の飴玉か。なら、大事にとっておかないとね」
魔法の飴玉という言葉を、軽く解釈し、それはちゃんと味わって食べてあげようと思った程度だった。——しかし、
「……魔法という言葉は、時に呪術ともなり、魔術にもなる。その魔法の飴玉は、別名があるんです」
突然少女はわけの分からないことを喋りだした。歳は小学生の高学年辺りに見えるその少女の外見からは話すことの内容なのだろうか。僕はその少女を暫く黙って見つめてしまっていた。
「別名は——エンジェルデザイア」
「エンジェル……デザイア?」
何故か、少女は普通の女の子でない気がした。声色といい、先ほどの純粋無垢な瞳とは思えないほどの冷たい瞳。それら全てが、どこかおかしい感じがした。
いつの間にか、僕はその場から動けずにいて、冷や汗さえも掻いてしまっていた。先ほどのもう一人の僕を見たことといい、一体どうしてしまったんだろうか。
「……なんて、冗談ですっ!」
「……へ?」
拍子抜けしてしまうほどの少女の満面の笑顔が目の前に現れた。何だ、冗談だったのか。心の奥底で安堵のため息を吐く僕がいた。
まあ、そうだろうな。何かのアニメか何かで覚えたものだろう。何を本気で冷や汗を掻いていたのだろう、と僕は心底恥ずかしく思えてきた。
「……あ、そ、そういえばさ、お父さんとかって、今家にいるの?」
落ち着くと、ゆっくりと少女に向けて尋ねた。すると、少女は本当に一瞬だったが、少し驚いたような、慌てたような、呆然としたかのような、よく分からない表情をすると、すぐに笑顔へと切り替えて、
「今、留守なんです」
と、答えた。やっぱり留守だったのだ。そして、この子はやはり親戚の人の娘だ。
謎が解けたような爽快な気分になった僕は、留守ということは仕方ないと思い、アパートへと向かうことにした。
「それじゃあ、僕はアパートに戻るから。お邪魔しちゃって、ごめんね?」
「いえ、大丈夫です」
少女は笑顔でそう答えた。僕はその少女の笑顔を少しの間見つめ、自分も笑顔で返した。そうして踵を返すと、僕は歩き出した。そうしてアパートに向かっている途中、そういえば聞いておきたかったことがあるのを思い出したのだ。その為、僕はもう一度振り返って伝えようとまた後ろを振り返った。
「あ、そういえば名前——って、あれ?」
しかし、既に後ろに少女の姿はどこにもなかった。もう家の中に入ってしまったのだろうか。いや、そうに違いない。
「……また今度聞けばいいか」
そう呟き、僕はその場を後にした。
しかし、どうしてこの時、僕は気付かなかったのだろうか。
この時、少女と僕以外の"何か"がいたことと、当たり前の"何か"が無かったことを。
- Re: エンジェルデザイ ( No.10 )
- 日時: 2012/01/03 11:46
- 名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
遮犬殿お久しぶりです。故草改め結城です。
はう…エンジェルデザイア…なんなんだろう…
相変わらず続きの気になる書き方…。
主人公が見た【僕】は誰なんでしょう…。
更新、がんばってください。
- Re: エンジェルデザイア ( No.11 )
- 日時: 2012/01/03 20:01
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: FMKR4.uV)
>>結城棚さん
ふぉぉ、お久しぶりですー!明けましておめでとうございますっ。
エンジェルデザイアとか格好つけちゃった感満載なわけですが、直訳すると「天使願望」になっちゃうので、まあ天使の願望的な意味と捉えてくださいb(そのまm
伏線張りすぎて、一番いけない書き忘れとか設定の矛盾とか起きちゃうことがしばしば……そのたびに考えて、とかしている内にだんだんとスレが流れていくw
プロローグから線を引いた形だと思ってくださると嬉しいです;プロローグの男とかと話が入れ替わりになったりもするので、結構ややこしいです。ていうか、読む方が混乱してしまうんじゃないかという恐怖に晒されております(汗
コメント、ありがとうございました!本当に嬉しいですっ。何だ、他の小説があまりやる気が起きずに、こればかり更新したくなる。コメントの力は絶大すぎてw
- Re: エンジェルデザイア ( No.12 )
- 日時: 2012/01/08 22:42
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)
ズルルル……と、カップラーメンの麺を啜る音が部屋中に響き渡る。
男は右手に箸を持ち、左手にカップラーメンの容器を持ってソファーへと座っていた。丁度今、そのカップラーメンの麺の最後を食べ終えた所である。
部屋内は一言で言うと汚い。あちらこちらにゴミの塊やガラクタなどが散乱している。その他、本や書類や生活用品等などが所狭しと置かれている。ゴミ箱に至ってはゴミが溜まり過ぎて溢れ返っており、その周辺には零れ落ちた紙屑やらのゴミが散らばっていた。
男がラーメンを啜っている時、そのすぐ近くで綺麗な黒色をした長い髪をした少女がゴミを一つ一つ丁寧に拾い上げていた。小柄な体型だが、どこか幼女臭さを取り除いた感じのする雰囲気に、清楚そうな外見が少女の美しさをより一層引き立てていた。だがしかし、
「おいっ、ラーメン食べてないで掃除手伝えよッ!」
と、この少女が言うのである。
少女は仁王立ちをし、眉毛をピンと斜めに釣り上げ、見事に唇をへの文字にさせている。外見からは怒っているこの様子もなかなか可愛らしく映るものだが、言動と態度からはその可愛らしさなどというものはほとんど消えてしまう。これを言葉で表すと、まさに男勝りの少女はこのことを言うのだろうか。
その少女の視線と言葉をしっかり受け止めたのかも分からず、男は何も返事を返さないままラーメンの残り汁を啜ろうとしていた。
ぶちっ、と少女の何かが千切れる音がした。
「ふざ……けんなぁぁ!!」
その瞬間、少女は思い切りテーブルを蹴り上げた。テーブルは勢いよく反転し、前方へと向けて一気に倒れ込んだ。テーブルの上にあった灰皿やティッシュの箱などと一緒に倒れたので、再び床は汚れることとなってしまった。
しかし、男の肝心なラーメンは自分の手で持っていたので、男からしては何ら問題は無い。男はため息を一つ吐くと、
「そんな怒ってると、見た目が台無しに——って、待てぇぇ!」
「うっさいッ! 黙れぇぇええッ!!」
男が話している間、少女は腕を振り上げていた。その腕の先にある手には、しっかりとヤカンが握られていたのだ。ヤカンの取っ手を掴んだその手は、男の静止する為の言葉も聞かず、かけ声と共に冗談ではないスピードで真っ直ぐ男の顔面をぶち当てた。
「ぶふぁっ!」
格好の悪い声を出し、ヤカンが顔面にしっかりと当たった上、張り付いてしまっている男の手からカップラーメンが零れ落ち、汁が音を立てて床へと散乱した。それを見た少女は——
「あ……」
と、口篭りながらやってしまったという表情を隠せないでいた。そうしている内に、男の顔面に張り付いたヤカンがゆっくりと床へ落ち、その衝撃によって音が床に響く。
おでこが特に赤くなっているその男の顔面は、見る見る内に怒りの形相が滲み出てきそうだった。
「お前なぁ……!!」
そう怒鳴り声をあげようと立ち上がった瞬間、
「はいはいーただいまー」
「——ぶへぁっ!」
ドアが開いたのと同時にガンッ、という音が響いた。男の頭が、突然思い切りよく開かれたドアに激突したせいである。
男はそのまま倒れこむようにソファーへと再び戻って行った。ドアの開かれた先には、笑顔の銀髪をした男が入って来る。その手には、"ピザール"と書かれ、ピザの絵が真中に描かれた四角で平べったい箱を二つ持っていた。
「あれ? 何かドアの開きが悪かったけど……もしかして、もうガタがきてたり?」
「違げぇよ!! 俺の頭に当たったんだよ!」
銀髪の男は、ソファーで頭を抑えながら睨みつけてくる男を見て、小さくあぁ、と声を漏らした。
「ごめんごめん、ルノアがいたなんて知らなかったよ〜」
「そういう問題じゃねぇ!」
「じゃあどういう問題?」
「知るかッ!!」
毎度のようにこんな会話を繰り返し慣れているのか、そんな言葉も銀髪の男は軽くスルーしてピザの入った箱をもう一方のテーブルへと置いた。
「ふぅー。やっと両手が楽になったよ」
腕を少しぶんぶんと回し、首をコキコキと音を鳴らしながら回す。いつでもスマイルを保っている銀髪の男は、ようやく落ち着けると言わんばかりに傍にあった椅子を引き寄せて腰を落ち着かせた。
「瑞希、片付けとか出来た?」
「こいつが手伝わなかったからまだ終わってない」
ヤンキー娘こと瑞希は、呼ばれた言葉に対して順当に答えを言った。ルノアの方へと二人して向いている間に、ルノアは瑞希が倒したテーブルをまた元に戻そうとしていた。
「し、仕方ねぇだろ! 大体、銀狼がピザ持ってくるのが遅かったからじゃねぇか! だからこうして余ってるラーメンをだなぁ……」
「言い訳だ」
「言い訳だな」
「何だお前ら! どうしてこういう時だけそんなコンビネーションいいんだよっ!」
ルノアが必死に両手を広げて弁論を計るも、いつものことのように銀狼と瑞希にはスルーされていく。
銀狼の手にはいつの間にかお茶が供えられ、瑞希の手にはピザの一切れが握られていた。
「ちょ、俺も食う!」
「ルノアはこの間の任務も完了出来なかったし、何よりさっきカップラーメン食べたから食うな」
「はぁッ!? 意味わかんねぇよ! あのな、前野菜ってのがあってだな……」
「オードブルでラーメンって意味分からなさ過ぎる。あ! それに掃除手伝わなかっただろ!」
「う、ぐ……! お前らと違ってな、俺は腹の減りが異様なんだ! だからラーメンを食べて小腹を……」
いくらルノアが話そうが、瑞希の手は止まらないし、言葉も止むことは無い。瑞希が先ほどまで食べていたピザは後一切れぐらいしかなかった。
「何でそんなに食うの速いんだよ! このヤンキー娘!」
「あ、またそれ言いやがったな! 外見のキャラがブレるから止めろって言ってるだろっ!」
「安心しろ、もう十分ブレてるから! ピザを食わせろ! ていうか、銀狼も何とか言えよ!」
「え? 何が?」
銀狼の口元には、先ほどまで付いていなかったものが多く付着していた。それはピザによくあるチーズやベーコンやサラミ類のものが小刻みに斬られたかのような断片がそれぞれに口元へと付着しており、唇はピザソースをそのまま塗ったかのような出来栄えになってしまっていた。
「銀狼、お前……もしかして……?」
ルノアが慌てて瑞希が食べていたのとは違うもう一つのピザの箱を開けてみると……その中には、一切れもピザなど入っていなかった。
「ぐぁぁっ! やっぱり食ってやがった!!」
銀狼の食い方はとても汚く、ソース類があるものや汁系の物は毎回口周りを汚してしまう汚いクセがあったのだ。銀狼の方はそれを全く意識などはしておらず、無意識でいつもこうなる。ただ、見た感じの食べ方はとても上品に見えるのが不思議なことらしく、少し目を離した時には既に汚れているというのだ。
「……やっちゃった」
「やっちゃったじゃねぇよッ! 何一人でバクバク食べてんだよっ!」
思い立ってか、ルノアはあまりの興奮により銀狼の胸倉を掴む。長く、結ばれた銀狼の銀色の髪が空中で揺れ、それと同時に前後へ頭が行き来させられるようになった。つまり、ルノアが胸倉を掴んで首を振っているという状況にあるわけだった。
「あっはははは〜、ルノアだったら許してくれるって思ってて〜」
「何笑ってんだよぉぉっ! 俺の飯を返せ!」
「ルノアうっさい! ラーメン食べたんだから黙れ!」
「このヤンキー娘め! お前は一切れでも俺に残そうとは思わないのかよっ! 最後の一枚も遠慮無く食ってんじゃ……って、あれ?」
よく見ると、瑞希の手にはピザが一切れ載せられていた。それもまだ食べていないピザの一切れだった。自然とルノアの腕が止まり、目はそのピザを凝視することになった。
「ほ、ほら。一枚だけ残してやったんだから……感謝しろよな、ハゲ!」
瑞希が照れ臭そうにピザを差し出しながら頬をほんのりと赤く染めた。最後のハゲ、という発言に対しては普段のルノアからして怒る所ではあるが、今回はそんなことよりもピザを残してくれたということがとても素敵に思えて仕方が無かったのだ。
「マジか……! ピザ……! ありがたくいただ——」
と、その時。何かの感触が全身を駆け巡っていく。それは三人に同様のことで、突然それは窓の奥からやってきた。
「——ッ! 伏せてッ!」
銀狼が飛び出し、二人を抱えて前のめりに飛び込んだ。その瞬間、ルノアの目の前からはピザは吹き飛び、どこかへと消えた。代わりに見えたのは——窓から小柄な少女が悠然と立っている姿だった。
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