ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 思考実験
- 日時: 2012/01/13 20:25
- 名前: 司 ◆iOkjiDK8IQ (ID: EtUo/Ks/)
全て〝論〟で支配されている、現代の世界。
様々な〝思考実験〟の、解釈など議論されている。
もしも、論が正しいのなら。
世界はどうなるのであろうか?
そして、人間はどうなるであろうか。
あなたは、どう思う?
- Re: 思考実験 ( No.1 )
- 日時: 2012/01/13 20:44
- 名前: 司 ◆iOkjiDK8IQ (ID: EtUo/Ks/)
一話:カルネアデスの板
紀元前二世紀のギリシア。
俺は死にかけている。というのも美しいエーゲ海を航海し、船が難破したのだ。船に乗っていた奴、全員が海へ放り込まれ誰もが次第に溺れていく。まだ、死にたくない!必死にもがいた。心の中で海神ポセイドンよ、お慈悲を!と祈ってもがく途中、やっとの思いで一片の板切れが、俺の傍で漂ってたので縋った。やっと息が付けて一安心。
そのまま海の上を漂う。耳元でバシャバシャ、と波をかき分ける音がした。何だろうと振り向くと同じ船に乗ったであろう一人の男が俺の元へ泳いでいる。あいつも助かりたいんだ——でも、すぐ現実が俺を蝕む。あいつが、板に掴まると、二人諸共死んでしまう。まだ、死にたくない。でも、あの男もそうなんだ。
でも、あいつを突き飛ばさない、と俺が死ぬ。
一瞬、目が眩む。理性が残った思考が飛んだ。もう少しで板に届く寸前、俺は、男を突き飛ばした。男は絶望を滲ませた瞳で俺を見た後、一瞬で海の中へ沈んでいく。罪悪感より、今は生きたい願望が俺の体を蝕んだ。
あの後、奇跡的に救出され、俺は他の生き延びた奴の証言で殺人の罪で裁判にかけられた。遺族も世間もみんな、俺のことを責め立てる。遺族の恨めがましい眼差しが、今更でも罪悪感を掻き立てる。俺も生き延びたいだけなのに、しかし、人殺し。俺は。最低、人でなし、死ぬべきの人間、生き延びたいだけだったのに。
俺は死んでも良い。裁判しているうち、荒れていく心。毎日毎日、繰り返される裁判の言い争い、蝕む罪悪感、世間の冷たい目。遂に発狂するかも、と思った日の午後の裁判。今日で判決が下される。きっと死刑だ。遺族も望んでるんだ。ぎゅ、と目をつむった。さよなら、俺の人生。死んで償おう。判決が言い渡される。
———無罪だった。
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- Re: 思考実験 ( No.2 )
- 日時: 2012/01/13 21:37
- 名前: 司 ◆iOkjiDK8IQ (ID: EtUo/Ks/)
二話:マリーの部屋
生まれ育った部屋は白黒。部屋から一歩も外へ出たことがない。でも、私は名前もあるし、お勉強や常識とかだってちゃんと知っているもの。外に出れるわ。でもね、〝研究者たち〟は言うの。絶対に外は出さないよ、って。酷いわ、外へ出たいのに。〝色〟も見てみたいのに!こんな部屋に一生閉じ込める気?ふざけないでね。
結局、私は外に出れない。でも、自慢できることはある。それは視覚の神経生理学についての専門知識よ。これだけは一般人に負けないわよ。色々な本を読み漁って、〝色〟について考える。きっと色は素敵だわ。いつか、見れる日がくる。信じなきゃ、つまんないんですもの。神様、研究者たち、お願い。一度でいいから、外に出して。
外に出たいよ。
ある日の朝。ニコニコと笑みを貼りつかせた研究者たちが部屋に来た。これも白黒しかない。つまんないなあ、と思いつつ、私はジュースを一口、飲んだ。研究者たちは、私をじろじろと見ると一人が口を開いた。
「マリー。君はもう外へ出ても良いよ。でもね、色を見たときの感想を我々に教えてくれるかな?できるだけ事細かに。出来るならば、さあ、あのドアを開きなさい」
なんて最高の日なの!私が外に出れる?夢みたいだわ!良く考えずに、分かったと返事してドアに向かう。胸がドキドキした。ようやくこの部屋とさよならするのよ。今から、私の色に囲まれた人生が幕を開ける。ガチャン、とドアノブを捻った。
私の目の前に広がる景色、と膨大な数の色の世界———。
「マリー。君は色を見て何か新しいことを学び、何を感じるか、是非、我々に教えてくれたまえ」
マリーの部屋。取り残された研究者のリーダー、ジャクソン博士が言った。
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