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- SAW ソウ
- 日時: 2012/01/24 14:22
- 名前: まりあ☆ (ID: 6A3czYcK)
〜〜わたし〜〜
わたし
は、見ている。
二人を見ている。
闇の中で。閉じ込められた二人の男を。
鎖に繋がれて、否応(ひおう)なく死のゲームに駆り立てられる哀れな男たちを。
これから、どんな狂おしい(くるおしい)ダンスをわたしに見せてくれるのか。
息を殺し、胸躍らせながら。
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- SAW ソウ 1 ( No.1 )
- 日時: 2012/01/24 14:55
- 名前: まりあ☆ (ID: 6A3czYcK)
1〜〜アダム〜〜
夢を見ていた。
闇の中で。
おれはまるで、生まれる前のように生温かい水に抱かれている。
安らかな気分。おれは浮かんでいる。なにかがおれの周りを泳いでいる。なんだか妙に
細長いもの。金属なもの。
それは、ひんやりとした感触と温度をおれの肌に残し、去って行った。
水の底へ。ああ、行ってしまった、消えてしまった、とおれは取り返しのつかない思いに駆けられて身をよじった。
追いかけようとした。
途端に、おれを包んでいたやさしい水が豹変(ひょうへん)した。
悪意をむき出しにして襲いかかってくる。
鼻と口から侵入を開始し、おれを溺れさせようとする。
おれはあわてて上を目指す。跳びはね、顔を上げて水から逃げた。
咳き込んだ。
水は、夢の中ほど暖かくも優しくもなかった。目覚めた今、
もう得体の知れない水から逃げだすことしか考えられない。
辺りは真っ暗だった。
「助けて!助けてくれ!」
おれは水からはい出した。固い床に膝(ひざ)をついて叫ぶ。
うまく声が出ない。寒かった。体の芯が冷たい。両腕で自分の体を抱いた。
ここはいったいどこだ?自分がいるところがぜんぜんわからないなんて、こんなことはあり得ない。ってことは——
「ああ!おれは死んだのか!……そうなのか」
ここは地獄だ。こんな暗闇で溺れさせるなんて誰がこんなこと好き好んでするんだ、
おれなんかを相手に。死に神ぐらいだろう、そんなヒマなやつは?
だがそのとき——
「いや、君は死んでない」
闇の向こうから、低い声が聞こえてきた。
それこそ、地獄の底から響いているような不気味な声だ。
「だっ、誰だ! 誰なんだ!」
おれの声は悲鳴になった。
だが相手の声はいやに冷静だった。
「叫んでもムダだよ」
おれには叫んでるつもりがまったくなかった。
パニックで抑えが効かないのだ。とにかく暗い。
嗅いだこともないにおいが鼻を衝く(つく)。不安でたまらない。
「明かりをつけろ!なんなんだここは?」
「———ムリだ、動けない」
「どうなってるんだ?」
「僕にもわからない」
「この臭いはなんだ?」
「ちょっと待て———これは———なにかある」
声が言い終わった瞬間、——眩しい光がおれの眼を射た。
手をかざして光を遮っても(さえぎっても)、目が痛い。ウぁぁ、とうめく。
しばらく耐えていると、徐々に視界が利いてきた。天井には四対の棒形の光が並んでいる。
おれは今度は、UFOに誘拐されたのか、と思った。白い壁が自分を取り囲んでいる。
広い部屋だ——浴室か?だがUFOほどSF的でも非現実的でもない。
至極殺風景な、おそらく作業用のバスルーム。
大勢の作業員が1度に入れるような場所だ。
どれだけ使ってないのか。荒れ放題で、壁のタイルは方久が欠け落ちていた。
バスタブや床は汚れがこびりつき、
おれのそばに一つある便器は見たくないほど不潔だ。
————続く————
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