ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 13の木曜日
- 日時: 2012/02/01 02:17
- 名前: しげっちょん (ID: MneHsijM)
薄暗い部屋
男はパソコンでオ−クションに興じていた
それは一般のオ−クションではなく海外のもののようである
男は それが欲しかった
欲しくて欲しくてたまらなかった
アメリカのレイク湖で発見されたという
あの伝説のマスクが・・・
起立っ〜 れ〜い
高校の昼休みだ
どやどや
「はらへったぁ〜 パン買ってきてくれや 公家ちゃん〜」
須原利光は 100円玉を同級生の久家宗太郎のテ−ブルに置き
あからさまに威圧する感じで
「焼きそばパンとから揚げ弁当と牛乳とコ−ラたのむわ」
久家は100円をつかむと黙って教室を出ていく
誰も何も言わない
かわいそうだとは思うが関わると面倒なことになりそうで
みんなそれが嫌なのである
「すみませ〜ん から揚げ弁当くださ〜い」
あっ!ごめんねっ今日は切らしちゃったのよ 別のにして頂戴」
げっ これって 非常にまずいな
怒り狂う須原の顔がたやすく想像できるだけに
久家の顔はひきつった
久家の足は 教室には向かわなかった
どうしよっかなあ〜 はぁ〜
目的のないその足は 人目の無い方へ無い方へ
自然と向かっていった
「ここが僕のガンダ−ラ はぁ」
体育倉庫の前で久家はため息交じりにつぶやいた
とにかく人目につきたくない よくわからないが 久家は ときどき
無性に隠れたくなるくせがあった
前回は トイレに隠れたのだが
とっとと生徒に怪しまれ あげくに先生を呼ばれ 強引に扉をあけられ
めちゃめちゃ叱られ 親を呼ばれた 母は泣いていた 父親には殺され
かけた 今回はその経歴を生かし
教室からけっこう離れた場所まで来てみたわけだ
ここなら大丈夫そう
幸い鍵はかかっておらずすんなり忍び込むことができた
中は倉庫独特のにおいがむんむんしたが
久家には それは今は心地よかった
頭に須原の顔が浮かぶのだが
頭をブルブルっと振って吹き飛ばした
どうせ殴られるんだ
考えるだけ時間の無駄だ 久家の経験値がそう教えるようだ
薄暗い倉庫の中
誰かに見つからないように
久家は 奥へ進んだ
「おっ! こいつはいいぞ」
跳び箱がいいあんばいに椅子代わりになりそうだ
「ふぃ〜」
久家は ようやく見つけた安住の地で
弁当を食べ始めた もちろん須原のために買ったものだ
それから懐からなのやら取り出し それを嬉しそうに眺めた
その時
「ガタッ”」
音がした
自分の部屋で 足元にゴキブリなんかがいきなり出てきた時の
感じで動けなかった
「ガッタッ」 「ガッタガッタ」
音は久家のすぐ近くだった
近くというかお尻の下
つまり跳び箱の中であった
昼間 高校の 薄暗い体育倉庫の 跳び箱の中にいて ガシャガシャ音を立てるものって・・・
体育倉庫の中のマットに腰掛け
楽しそうに話をしているのは
一人は久家
もう一人は、今日転校してきた 石川一樹という男子生徒である
跳び箱に入っていたのは彼であった
「驚いたよ はっはっは」
この石川という男 かなりイケメンである
話も面白い 女の子にもてそうだ
僕とは正反対だな・・・
「ところで ゲソ それ何?」久家が握っているものを指差して聴いた
ゲソとは くげ そうたろう にあだ名をつけたようだ
ゲソ ってイカ娘・・・
まあいいや
「13日の金曜日知ってるだろ?」
「ホラ−映画だろ知ってるさ あ〜コスプレか ゲソっち意外だなぁ」
「うん、海外オ−クションに出品されてて 思わず買っちゃったんだ」
「へぇ 本物だったりして?」
「一応本物らしいんだが・・・」
「本当かよ!?本当なら それかぶったらジェイソンになっちゃうんじゃなかったっけ?」
「 何にもだよ 昨夜は被って寝てみたが何もなかった」
「おいおいっ おゲソはジェイソンになりたいのか!?」
おゲソって・・・まあいい
「殺人鬼は嫌だよ でも 無敵って 強いって 一度だけ体感してみたかったんだ 昔さ ジェイソンニュ−ヨ−クへ行くって映画見てさ 変だとはわかってるけど憧れちゃったんだ・・・」
「それ俺も見たよ ジェイソンが不良たちをバンバンやっつけるんだったよな あれは確かに最強だったな」
「しかし ゲソって変な奴だなぁ」
「確かにそうだね」
その時昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った
そろそろか・・・
覚悟はできている
授業中ずっと後ろから須原の殺気をビンビンに感じてた
先生が教室を出ていく
はぁ
久家は後ろからむんずと肩を掴まれた
いつものパタ−ンだ
ここで後ろを向いて 顔面パンチがくるんだ
そして財布から金を盗られて 多少キックされて
フィニッシュは鞄を窓から捨てられるってところかな
さてとっととすませるか
久家は覚悟を決めて 後ろを振り向いた
そこには やっぱり 拳を振り上げ 殴る準備万端の須原がいた
久家は歯を食いしばって目を伏せた
ガシッ!
須原の手首を 横から 石川が掴んだ
「なんだぁ〜てめぇ〜」 須原が石川に矛先を変え
詰め寄った
「まってまって!」今度は久家があわてて止めに入る
が
暴走体制の須原に「じゃまじゃ!」と速攻で蹴り倒され意識を失った
はっ」
そこは保健室だった
久家はベッドに寝かされていた
横で石川が漫画を読んでいた
久家は寝たふりをした
自分のせいで 石川を巻き込んでしまったことがもうしわけなかったからだ
謝ろう
久家は起き上がった
「よぉ!心配したぜぇ」イケメンが人懐っこい笑顔で久家に話しかけた
「あっ あのさ 」
ん?
「さっき僕のせいで 石川君をゴタゴタに巻き込んじゃってさっ 本当にごめんねっ!」久家は頭を脚にぶつけながら言った
「あの時 ゲソ 俺と須原の間に飛び込んできたよな 何で?」
「だって石川君が殴られそうだったからっ!無我夢中だったからっ よくわかんない 今考えると怖いことしちゃったよ」
「そっか」と言うと石川はにっこり笑って久家の頭に手を乗せポンポンとしながら「ありがとうな」そう呟いた
PM22:30
斉藤義明は会社の同僚たちと飲んだ帰りだった
人通りのない夜道だが 気分よさそうに鼻歌を歌いながら歩いていた
斉藤の目に 具合のよい電信柱が映ったので 彼は当然のごとく電信柱に近づくと 小便を始めた
運悪く その時 誰か人が近づく音が聴こえて来た
斉藤はさすがに気まずくなり 顔を隠すしぐさをして
その誰かが一刻も早く通り過ぎてくれることを待った
足音は 斉藤の真後ろまで来た
が
おかしい・・・
足音が聞こえなくなってしまった
なんなんだ・・・気持ち悪いな・・・
斉藤は唾をのんだ 酔いがさめていく
わけがわからないが 誰かが後ろに立っている
不気味だ
警察!? だったら声かけてくるだろうし・・・
なんなんだ・・・
わけはわからないが いつまでもこうしてるわけにもいかない
斉藤は勇気を出して 冷静さを装いながらチャックをしめると
早足で歩き始めた
その時斉藤は横目で 後ろの誰かをちらっと見た
見なきゃよかった 瞬時に後悔した
斉藤が動くに合わせて後ろの誰かも歩き始めた
突然 斉藤は過去に例のないほど全力で走り始めた
がむしゃらだった
斉藤は酔ってはいたが足の速さには自信があった
学生時代は一応陸上部だったのだ
どれだけ走ったろう・・・
心臓がバクバクし始めた もうそろそろ限界だ
後ろは何度も確認した
よしっ!完全に振り切ったっ!
斉藤はガッツポ−ズをした
後ろにはもう誰も追いかけてはこなかったが
用心のため近所の公園のトイレに入った
洋式用のトイレに腰を下ろした斉藤は携帯を取り出すと 友達にかけた それはただの友達ではなく警官の友達であった
「もしもし斉藤かぁ ひさしぶりぃ」向こうから緊張感のない声が聴こえて来た
「もしもし 安田か! ひさしぶりっ」 友達は安田光弘という名前だった 親友というわけではないのだが 今の斉藤にとって安田は神の様に思えた
「安田っ 聴いてくれっ あのなっ 今 俺 追いかけられてたんだっ」
「ん!?追いかけられッて 女か? 相変わらずモテモテ君かぁ うらやましいぞコラッ はっはっは」
「違うっ!!違うんだっ!!そんなんじゃない」
「そうか すまんすまん じゃあ一体何に追いかけられたっていうんだ?」
「 笑うなよ 頼むよ 俺も 声に出すのは嫌なんだからなっ」
「わかったから言ってみろ」
その時 誰かがトイレに入ってきたようだった
「ちょっと待ってくれなっ」斉藤は用心のため その誰かがトイレを出て行くのを待つことにした
しかし その誰かの気配はまったく感じられなくなってしまった 音もしない
気のせい?・・・
勘違いだったかな・・・
斉藤が何気なく顔を上にあげると
目に映ったのは トイレの天井ではなく
アイスホッケ−のマスクを被った大男が上から自分を凝視している姿であった
「よ げっちん おはようぉ」
石川が毎度ながら声をかけてきた
「おはよう!石川くん!」
石川が転校してきてから久家の学校生活は一変してしまった まず須原が絡んでかなくった
あの日 石川君が僕を助けてくれた日 何があったんだろう・・・
噂では あの後 須原が石川君を体育館の後ろへ連れて行ったらしいのだが 女生徒達が先生を呼んでかけつけた時には 2人は仲よく肩を組んでいたらしい
石川に直接尋ねても見たが 「話し合ってみたら彼もわかってくれたのさ」程度のことしか答えてくれなかったのだ
当の須原はまるで久家を避けているかのようだし・・・
よくわからないが わからないが石川君が 助けてくれたことだけは間違いはない 久家は心の底から 石川に感謝していた
「なぁ 聞いたか?昨日の夜 また事件があったらしいな」
「うんまたジェイソンだろ?昨日は朝志ヶ丘中学の女子生徒が追いかけまわされたらしいね 犯人は同一人物なんだろう 毎晩毎晩よくやるよね」
久家が答えた
ここ一か月というもの このあたりで何かしらの事件が起こっているのだ しかも犯人はジェイソンを真似しているらしかった
そういえば石川君が転校してきてからだよね、久家は 思わずそう言いそうになったが、とっさにその言葉が口から出るのを回避した
それを言ったら 気分を害するだろうから 言わなくて正解だろうと久家はホッとした
「ところで、ホッケ−のマスクどした?」石川が顔を近づけ小声で尋ねた
「えっあ あのマスクなくなっちゃったんだよ・・・」がっかりというしぐさで久家は答えた
そうなのだ あれからすぐに無くなってしまっていたのだった
「そっか それならいいんだ もったいないだろうがなくなって良かったんじゃないか? あれ人に見られたらゲチョがジェイソンって疑われちゃうかもしんないからな」
石川は安心したよというような表情を見せた
心配してくれてたんだな・・・
「ありがとう・・・」
自分の席に戻っていく石川の背中に
久家はそっとつぶやいた
「はい 教室に帰っていいわよ」保健の矢沢真知子先生が言った
「ありがとうございました」保健室で横になっていたのはもちろん久家
体育の授業中 他の生徒と衝突して気絶してしまったのである さらに目の上を3センチほど切ってしまい
しばらくの間ベッドで安静にしていたのであった
「目の上 触っちゃだめだからね!」
部屋を出る際に矢沢先生は念をおした
「はいっ気をつけます ありがとうございました」久家はそう言うと 先生にお辞儀をして自分の教室へ帰って行った
教室はすでに次の授業が始まっていた
「よ-し久 家が戻ってきたところで 皆起立!」
担任の笠原先生が唐突に言い放った
「授業途中で済まないが みんなそのまま立ちあがって うしろへ並んでくれ!」
「げっ!」須原が思わず声を上げた
「あ〜まじかよぉ」
「持ち物検査だ」
続く
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