ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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incomPEtent RSON
日時: 2012/02/14 21:04
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: .iyGyIWa)

去年書いていたもののリメイクです。 ただ、主要キャラの名前や特徴が違ったり
結構色々してます
ちなみに、incomPEtent RSONと表記してありますが、これは私の言葉遊びで正しくはIncompetent personで「無能者」です

>>1 Prologue

firST chApteR : mission TS
>>2-9

Page:1 2



Re: incomPEtent peRSON ( No.1 )
日時: 2012/02/01 13:46
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)

 能力者って聞いて、何を思い浮かべる?
 凄い特技を持った人? はたまた、超能力者?

 僕の世界は、どちらかというと超能力者のほうがイメージされやすい。
 超能力者が、沢山居るからね。 どうも、能力者のイメージは凄い特技じゃないみたい。

 ただ、能力者=兵器。
 どうやら、国のお偉方はそんな風に思っている節がある。
 けれど、能力者は量産できる存在じゃない。
 自然に能力が発現するのを待つしかなければ、DNAを採取してクローンを作ってもクローンは能力を持たない。
 個々の高い戦闘能力とは裏腹に、兵器利用には程遠く、兵器に利用すればそれは素晴らしいまでに非人道的といえる戦果を残すだろう。

 人間兵器を作り、戦争を起こす。 魔女狩りは、中々それに似ている。
 一般人が能力者に怯え、殺す。 例え能力者でなくとも、疑わしくは罰する。 
 昔は希少だった魔女と呼ばれた能力者も、今は、十人居れば一人は能力者だ。 そこまで、珍しくも無い。
 そしてその中に一人。 能力を持たない能力者で、能力を扱う基盤しか持ていない。
 つまり、僕の能力は皆無。 能力者とされているだけ。
 肩書きだけの、一人じゃ何も出来ないIncompetent Personさ。

Re: incomPEtent peRSON ( No.2 )
日時: 2012/02/01 13:46
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)

 カミサマという存在は中々惨酷だ。
 路地裏で人が死んでも知らん振りするし、原因を作った人間を罰せず結果を罰する。
 所詮、その程度。 今、目の前でのた打ち回っている男も何かわけがあって殺人に手を染めたと考えてやりたい。
 だが、そんな考えを持っていようが、逃がすつもりも当然無い。
 瀕死の身体でよくここまで逃げた。 だが、彼の逃走劇はここまでだ。

 「何か、言い残したい事は?」

 青年が、その手に短剣を握り、男に問う。 こんなのは、いつもの儀式。 別に、三秒確かに待つけど、無言決め込んだり、余力で攻撃してきたりしたら躊躇無く殺す。 暗闇の中、影すら見えない中で響くアナログの針時計の音は、中々不気味なものだ。
 お化けとか出そう。 いや、別に怖くは無いけど。
 僕は今からこの男を殺す。 括弧とかで囲うと、なにやらそんな雰囲気が出そうな感じだが、僕からすれば、括弧で囲うほどの事でもない。 殺しやすさで命の重さを決めるのであれば、今すぐに壊せてしまう軽い命。 今、手に持っているナイフの一突きで、この男はいとも易々と死ぬ。 
 握ったナイフを、振り下ろす。
 闇の中で見えないが恐らく、相手もそれに気付いてガードしたのだろう。 痛みに対し、うめき声を上げている。 だが、次の一撃で、男は断末魔の音も無く命を落とした。
 返り血は……嫌いじゃない。

 *** *** ***

 「ねえ、この報告書……何よ?」

 金髪の少女はその手に渡された報告書を見て呆れたような表情をする。
 報告書はA4の用紙に大きな文字で以下の通り。

 “大量殺人犯バリー・エヴリー”
 追い詰めるも、自殺。

 たったそれだけ。 その行数、わずか二行。
 内容だけであれば、追い詰められて自暴自棄でやけになったと考えれば納得がいくものなのだが、彼女はその答えにはまったく納得していなかった。 むしろ、「いい加減にしろよ?」くらいの勢いだ。 
 確かに、追い詰めるまでの経緯など書くことはいくらでもあるだろう。 しかし、結果を単純明快に表しているのもまた事実。 
 しかし、だからといって彼女はその答えに満足することはできなかった。 何故なら、

 「ラプラス、君さ……この自殺ネタは何回目? もう、六回連続よ?」
 
 この報告は事実ではない。 報告書を書くことを面倒くさがった報告書を書いたラプラスという人物は、よくこんな手を使っている。
 横でコーヒーを入れている黒髪の少女に対し、彼女は呆れたような視線を送る。 だが、彼女はそんなことなど一切気にも留めず、焙煎したコーヒー豆をフィルターに流し込み、湯を注ぐ事に集中していた。
 彼女の話など一切聞こうともせず、彼女、ラプラスは出来上がったコーヒーをマグカップに並々注ぐ。 そして、角砂糖を五個つまみ上げると、その中に放り込み、ティースプーンでかき回した。

 「別に良いじゃん。 僕は報告書を書くのが苦手だし、専門戦闘。 報告書くらい、シェリーが捏造してくれてもいいでしょ?」
 「捏造って、アンタね……。 死体運んでも、懸賞金はもらえないのよ?」
 「むぅ……それは困る」

 ラプラスは同じデザインのマグカップを手に取ると、コーヒーを注いでしばらく手近の書類を見つめた後、シェリーに勧める。 だが、シェリーはそれを直ぐには飲まず、デスクに放置した。
 この、上下の関係性の分からない二人組み。 同じ事務所で仕事をする、仕事仲間であり、兄弟であり、姉妹であって家族である。 恋人同士、と言うのもあながち嘘ではない。
 ただ、両者とも百合ではない。 しかし、現実を見れば百合である。
 百合でないというのであれば、どちらかが男ということになるのだ。 もちろんの事、この事務所に男の従業員など居ない。 居るのはこの二人だけだ。

 「だったら! もっと狩り易い相手を探してよ。 僕だって、攻撃されれば反撃するし。 というより、反撃しかしないし!」

 困った様子で、彼女はコーヒーをすすった。 コーヒーの味が不服なのか、顔をしかめると更に角砂糖を六個つまみ上げ、放り込む。

 「だったら、反撃しても死なない相手だったらいいのね?」
 「うん、だったら生け捕りにはできるよ」

 コーヒーを飲み干すと、ラプラスはマグカップの底に残った砂糖をしげしげと見つめた。 なにやら、溶け残りが不服な様子。 シェリーは呆れたような目で、それを見た。

 「反撃しても死なない程度となると……アクレイの凶悪殺人犯とかは? 殺し方を見てみたけど、あからさまに“能力使ってるぜ”って殺し方よ。 ラプラスに合わせて標的ターゲットを探すのは無駄に疲れる……」
 「それ、昨日の夕方にニュースでやってたような気がする。 シェリーから見て、そいつの能力なんだと思う?」
 「そうね……」

 シェリーはPCの画面に向かうと、電源をつけた。 ここでようやくシェリーはコーヒーをすすり、顔色を悪くした。 今にも吐き出しそうな、そんな雰囲気だ。
 ラプラスには、その原因が何か。 心当たりがあった。
 書類を眺めていたせいで、取り違えたかもしれない。 飲んだコーヒー、嫌に苦かったし。

 「ごめん、やっぱり間違えてた」

 砂糖入り。 それも、角砂糖五個。
 コーヒーとして飲んでいるのであれば、その甘さは異常。
 だが、その異常な甘さのコーヒーを彼女は仕方なく嫌そうな顔をしながら飲み干した。

 「……そんな顔しなくても」
 「そんなもこんなも、私からしたらこんな甘いコーヒーなんて劇薬よ。 なんで、ラプラスは平気で飲めるの?」

 いや、だって美味しいし……。
 疲れたときは甘いものって言うじゃん? 疲れたって、言ってたし……。
 シェリーの反応は苦いし、コーヒー甘くするくらい大目に見てくれてもいいでしょうが。 それ飲んで僕に甘く接してくれるようにはならないものかね? それも、わざとじゃなくて手違いだし……。 
 そもそもさ、

 「君だって甘いの好きでしょ? ケーキとか」
 「それはまあ……ケーキなら」

 そっか、だよね。
 じゃあ、今回のお土産はそれで決定かな。
 ラプラスは黒い男モノのコートを羽織ると、事務所の入り口に掛かっていた鞄を手に取り、

 「それじゃ、二日以内には戻ってくるよ」

 それだけ言い残すと、外へと歩みを進めた。
 

Re: incomPEtent RSON ( No.3 )
日時: 2012/02/02 19:52
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)

 タクシーを拾って目的地に向かおうとしたのが間違いだったと思う。 確かに、タクシー代とか、色々お金は掛かる。 だが、僕が言いたいのはそんなことではないのだ。
 運転席に座っている、若い男のドライバーが、近道だなどとほざき、裏道へ裏道へと行く間に抜けられなくなり、やっとの思いで裏道から抜けた先は渋滞の真っ只中。
 僕は目的地を述べただけ。 十中八九、この男に非があった。

 「あの……」
 「分かってますって、今しばらくお待ちください」

 すっげー気まずい。 
 客が女。 それも、自分より体躯が小さく見るからに非力というのも相まってこの男は強気だ。 それの証拠を挙げるのならば、口調が強い。
 だが、中々腑に落ちない。 目的地へは確かに近づいているのだが、裏道を少し通っただけ。 それだけで、短縮できるような距離ではない距離を、短縮しているのだ。
 カーナビが無いために確認できない現在地も、恐らくは目的地周辺。 直線距離で近道したとしても、ありえない速さで移動しているのだ。

 「いや、違うんだよね。 君、能力者……でしょ?」
 
 ラプラスの問いに、男は黙り込んだ。 バックミラーでラプラスのことを、睨むように見つめている。 何だよ、そんなに睨まれると流石の僕だって少し怖い。
 相手が大の男であるのならば、なおさら。

 「いつ……気付いた? その余裕から察するに、解析能力ではない攻撃的な力を隠していると見えるが……?」
 「いまさっき……だよ」

 正直な所、いまさっきなどではない。 この男が薄暗い裏道を能力を使ってショートカットした時点で、能力者だと気付いている。 相手が能力者であれば、その感覚は僕にも伝わる。 相手から一方的にではあるが、そのおかげで自分の素性を知られず、相手の能力者としての力量も大体把握できる。
 基本的に、能力を使えば能力者にはその大体の力量が把握できるものだが、能力を使っていることを確認できなければその力量は把握しようが無い。 その分、力を使っていること自体を把握できるこの能力は自慢の力だ。
 さて、まずこの男の能力は、レベルⅢの中でも平均的、中級といった所だろう。 車を飛ばす能力があるのだ。 どう考えてもレベルⅠやⅡ程度のものではない。

 「大体、能力指数の予想も出来てる。 レベルⅢの中級能力者。 ワープ系統の能力(アビリティ)を有し、人が乗っていても車一台程度であれば任意の場所に飛ばせる……じゃないかな? 危険度がどうとかは僕には分からないけど」

 ラプラスの言葉に、男は笑みを浮かべた。

 「よく分かったな、そこまで見破るか。 レベルの無い能力者を連れて来いって依頼だったんだけど、まさか本当にゼロとは思わなかったぜ? ついでに、この能力じゃ人間単体は飛ばせない」
 「へえ、やっぱり人間単体で飛ばすのは無理なんだ。 僕はレベルゼロじゃない。 一応、能力は有しているが、その規定に外れるだけだし。 そもそも、ゼロってレベルは、能力者でなくともレベルの規定内。 僕のことは、I能力者……とでも呼んでもらえるとうれしいな」

 そして、身をねじると、ラプラスに向いた。

 「そうか。 ただな、能力者の能力が一つだけって……誰が決めた? 自己紹介をするなら、俺はⅡホルダーのレベルⅤだ」
 「どういう……」
 「いや、どうもこうも。 研究の成果って奴でね、これ以上は俺は言えないんだ。 直接、その組織のやつに聞いてくれよ。 これからお前を連れて行く先が、そこだしな。 ほら、もう着いたぜ」

 彼が手者とのボタンで後部籍のドアを開けると同時、無数の拳銃がラプラスの頭に突きつけられる! が、彼女は動じる様子も無く、タクシーから降りると周りを見回した。

Re: incomPEtent RSON ( No.4 )
日時: 2012/02/04 11:52
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: KjZyd1Q/)

 恐らく、どこかの廃墟。 銃をこちらに向けている黒いスーツの大柄な男達は能力者ではない。 そして、この男達は誰かに従う部下。
 大人しくしていれば、上の人間が来るはずだ。

 「銃を降ろせ」

 ほら、来た。
 大柄な中で、一際小さいスーツの男。 サングラス越しに、こちらを見据えている。
 彼の一言に、ラプラスへ突きつけられていた銃は全て降ろされた。 ラプラスを囲んでいた男達も、退いて行く。

 「さて、と。 まず先に、無礼を詫びよう」

 彼がラプラスと対峙している間、さっきまで銃を突きつけていた男達がせわしなく動き回りテーブルと椅子二脚を準備する。 何だろう、見た目と行動が合ってない所為か、凄く面白い。

 「いや、これくらい日常茶飯事さ。 僕は特に、詫びられる義理は無いな」
 「そうか、だと助かる。 掛けろ、少しビジネストークをしようじゃないか」

 彼はそう言って椅子に腰掛けるが、ラプラスは中々腰掛けようとはしない。 当然、警戒する。
 
 「どうした、座ればいいだろう?」
 「前さ、君みたいなのに殺されかけてね。 それ以来、僕はビジネスは立って話すんだ」
 「そうか。 ところで、コーヒーにミルクは?」
 「コーヒー自体いらないよ。 毒を盛られないって保証は無い」

 警戒は、しすぎても足りない。 この手の奴は、組織がバックに居て後が面倒くさい。
 直ぐに話を纏めて断る方向で行くのが定石。 

 「で、話って?」
 「ああ、そうだ。 俺は、シグマ。 俺達の組織に……」
 「三以上の数で群れるのは嫌なんだ、他を当たってくれないかな? 一と三の区別もつかない奴らの中に、僕は混じるつもりは無いよ」
 「そうか……交渉決裂だな。 ジャック、このお嬢さんを送って差し上げろ」

 二つ返事を返さなければ、そうなるのも予測済みといえば、予測済み。 ジャックと呼ばれた仮面の青年が、ラプラスの前に立ちはだかった。 別段、筋骨粒々というわけではない。
 背負っていた大降りの太刀を片手で振り回すその腕力には、目を見張るものがあるが、大した脅威ではなく、恐らくこの感覚は能力者。 能力によって身体能力を強化していだけだろう。
 能力者の時点で僕に太刀打ちできないのは愚か。 自分を強化する能力は、僕の前では命取り……都合がいい。

 「冥土の土産に一つ教えておく。 俺らの組織、エヴァリーは、お前に入団を断られた場合、お前に関わった人間全てを殺すことになっている。 事務所にいる女……シェリーって言ったか? 事務所の心配はいいのかい?」
 「いや、彼女は彼女で凄く強いからね。 たかがレベルⅢと見ないほうがいいかもよ?」

 太刀はそもそも、重さに任せて相手を断ち切る武器だ。 元々、その刃は斬る事ではなく、重さを集中させるように、集中させても壊れないよう、強度に焦点を置いて作られている。 つまり、斬るのには実を言うと不向き。 重さで断ち切る刀だ。
 振り下ろす以外の攻撃には、そこまで警戒しなくていいだろう。 

 「ほう、そりゃ楽しみだ」
 「殺しに行くのは君?」

 ラプラスがここでようやく、刃を抜いた。 刃の無い、小さい短剣を握っている。

 「太刀に対してスティレット……折れるのは見えてるだろ?」
 「いや、攻撃力が全てじゃない。 案外、スピードとかも必要だったり……」

 ラプラスの握ったスティレットが、ジャックの喉下に突き当たる直前に、金属の板がその間に割ってはいる。 金属音を鳴り響かせ、それが太刀である事をラプラスに告げた。

 「いや、要らない。 俺は、お前を逃がさないように、攻撃を受けることなく殺すからな」

 太刀を肩に置き、ジャックはにやりと笑う。 そして、一瞬の出来事だった。
 目の前から彼の姿が消えたかと思うと、次の瞬間。 背後で、空を切るような音と共にその金属板が振り下ろされる! が、ラプラスはそれを避け、攻撃の来た方向を向くがそこに彼の姿は無い。

 「どうした、首ががら空きだぜ?」 「どうした、俺は目の前だぜ?」

 前後から聞こえる声。 視界に入ることなく、彼は素早い移動で、ラプラスを翻弄する。
 前言撤回。 振り下ろすだけじゃなく、一撃一撃が当たるだけで致命傷になりそう。 気を抜いたら即戦闘不能……怖いな。

 「……運転手さんと同じ系統の能力か。 瞬間移動が無けりゃ僕と戦えないのかい!?」
 「安い挑発に乗る気は……あるぜ!」

 ラプラスのスティレットを狙っていた。 数メートル先に、ジャックの姿が出現したかと思うと、彼は瞬く間にその間合いを詰め、文字通り。 目にも留まらぬ速さで太刀を振るうと、ラプラスの握っていたスティレットは空を舞った。

 「さて、選ばせてやる。 輪斬りとぶつ斬り、なます斬り……どう刻んで欲しい? 微塵斬りも承ってやるぜ?」
 「……勘弁して欲しいね。 僕はまだ、得物を失ってないよ?」

 ラプラスの声が、一瞬低く感じた。 彼女が地面を向いている所為で、顔は見えないが……明らかに、スティレットが手元から離れる前と後では、雰囲気が違う……。
 コイツ、能力を扱えるというのか? いや、こいつは能力者ではない故にゼロスキル……外部に直接影響を与える能力などもっては居ない。

 「フン、長物を使おうが……俺には勝てないぜ?」
 「どうだかね……身体能力が並べば、分からないだろう? 能力の補正が消えても、分からないものさ」

 一瞬の出来事だった。 ラプラスが背負っていた筒袋から取り出した剣の鞘を抜くと同時、彼女の姿が一瞬にして消えた。
 目の前とはいえ、一瞬で視界から外れるのは不可能な位置。 まさか……。

 「後ろだよ。 首ががら空きだね」

 真後ろから、アルトの高さで、その声が耳に入る。 ジャックはとっさに太刀でガードするが、それを突き抜け、衝撃が腕に響く。
 見れば、ラプラスの体が一回り大きくなった。 顔つきに大した変化は見られないが、声や体格は明らかに男。 ……どういうカラクリだ?

 「お前……能力を!?」
 「いいや、僕の体質。 僕は触れた相手と同じ魔力性質になって、同じ性別になる。 ただ、能力の規定に、僕の“同化ミスモする道化クラウン”は入ってないからね。 元々、素の僕は無能力だし、物覚えのいい一般人って思ってくれればいいかな」
 「……俺を相手にしてるのと同じって事か」

 ジャックは太刀を握り締め、目の前から姿を消した。
 大体、この手の攻撃は背後に回るものだが、一度背後に回ってしまえば警戒される。 長く能力を使ってきた能力者が、自分の能力の弱点を把握していないはずもないだろう。 出てくるとすれば、足元か頭上。 それを一度づつ見せ、能力の絡まない通常攻撃を連続して、いつ死角から攻撃するか不安を煽るのも有効。
 だが、それは相手が同じ能力を持っていなかった場合。 多少の差異も無く、自分と全く同じ条件の相手と戦うのであれば、対処法が分かっていたとしても厄介だ。

 「そういうことだよ」

 頭上から突き下ろされるジャックの突きを、ラプラスはその剣で立ちの切っ先を受け流す。 波打った刃が、太刀の側面を削り、切っ先に小さな切れ込みを入れる。

 「……フランベルジェか。 確か、切られた奴は殺してくれって言うほど痛いらしいな」
 「僕はこれで切られたことないし、いつもはスティレットを使っちゃうからね。 これを使うのは、中々久しぶりだよ」
 「……慈悲スティレットの剣に激痛フランベルジェの剣……えげつない組み合わせだな。 ……性格の悪さが滲み出てっぞ」

Re: incomPEtent RSON ( No.5 )
日時: 2012/02/06 20:05
名前: Neon ◆kaIJiHXrg2 (ID: dfg2.pM/)

 金属音が鳴り響き、その様子をシグマが楽しげに見つめている。 だが、彼にも予定があるらしく、その時間を過ぎたのか、席をはずした。 ラプラスを連れてきたタクシーに乗り込むと、タクシーは風景写真を上から貼り付けたかのようにその場から姿を消した。
 シグマの姿が見えなくなった……直後。
 ジャックがラプラスに向けていた刃の先を、シグマを取り巻いていた黒服の男へと向けた。 シグマは、既にここには居ない。
 監視に残されているのだろう彼等に対し、正気を失ったかのようにジャックは太刀を振るった。

 「どうしたの? ついに可笑しくなった? 任務は?」
 「いや、任務中。 ただ、クロックっつー別組織の、任務でね。 確実に実行できる状況下になった場合、開始しろって話だ」

 上着のポケットを探り、小さな拳銃を取り出すと、空に向けて撃ち放った。 それは上空高く上ると、光を発し、落下した。 閃光弾だ。


 *** *** ***

 「無音、合図だ。 クールに行こうぜ」
 「私はいつだって冷静だぜ」

 三キロ離れた地点のビルの屋上で、その閃光弾を確認した二人組みがそれを眺めていた。 一人は茶色のピンパーマの伊達男。 もう一人は、灰色のフードを被った小柄な人影。 無音と呼ばれたフードを被った小柄な人影は、その声の高さから恐らく、女だろう。 ただ、その場に姿が固定されていないのだ。
 ホログラムが投射されているかのように、まるで蜃気楼のようにそれは揺らめいている。

 「位置は?」
 「東に三キロ。 森林公園の中の、廃屋だ」
 「了解。 で、制限時間は?」
 「二十分」

 それだけを聞き終わると、無音は屋上から躊躇無く飛び降りた。 それを見て、やれやれといった様子で、伊達男は頭を掻き乱す。 彼は、面倒くさそうに双眼鏡を森林公園の中へと向けた。

 「まったく、人間の癖に命知らずだな。 無音は」

 *** *** ***

 「いや、サクサク勧めてくれてるけどさ、チョット待ってよ。 君はエヴァリーとか言う、シグマと同じ組織の人間じゃないの? クロックとか、別の組織みたいな事言ってるけどさ」
 「能力を持たせる組織ではなく、能力を消し去る組織。 それが私達クロックだ。 能力が能力者の平等を欠くんだ。 ある一般人の親は、自分の子が能力を持った所為で、狂気に駆られて殺したくらいのものだぜ? 能力者ってのは」

 ラプラスの問いに、別の誰かが答える。 だが、その姿は見当たらず、周囲を見回すも、それらしい人影など無い。 どこかから、女の声がする。
 次の瞬間、誰かがラプラスの方を叩いた。 思わず、それに対し、ラプラスは短剣を向けるも、それは受身を取るわけでもなく、そこに居る。

 「ずいぶんと早い到着だな、無音」
 「よしてくれよ、ジャック。 ……照れちゃうぜ」

 フードを目深に被り、彼女はこちらを見据えている。 恐らく、この雰囲気は能力者なのだが、能力を使っていた様子も、能力を使ったときの感覚も無かった。 一体、何をやった?
 突然、背後から現れるなんて、ただ事じゃない。 足音どころか、気配も無かった。

 「君、何者?」
 「名前を聞くなら、まず自分から名乗るって事を知らないのかい? 私は、音無 無音。 君みたいな殺害者には大体“低認識人間ステルスヒューマン”で通ってるぜ」

 低認識人間……どっかで聞いたような……確か、今懸賞金を掛けられている賞金首の中で唯一、顔が分からない殺人鬼だったような気がする。 低認識ステルスの意味が、今ようやく分かった。
 この女、視えない。 よくよく思い出せば、確かに“それらしい人影”は居なかった。 ただ、“それらしい”から除外される人影を見たような気がする。

 「つまり、君から接触しないと僕たちには識別できないって事かな?」
 「……よく分かったな。 私の本質を見抜いたのは君で二人目だ、自慢していいぜ」
 「どうでもいいが、無音。 その男口調は直せないのか?」

 ジャックがラプラスと無音の会話に割って入ると、無音はフードの奥からジャックを睨みつけた。 背筋を何か、冷たいものが這う感覚に襲われる。 例えるなら、氷で出来た蛇が這うような、気持ちの悪い感覚……。
 恐らく、言葉遣いを直せは彼女の前では禁句。 言わないように気を付けよう。 フードで顔は見えないけど、きっと、「マジでお前ぶっ殺すぞ?」くらいの顔してる。 ……気がする。

 「……そんな目で見るなよ、悪かったって」

 ついにジャックが無音に対し、謝った。 正しくは、無音の無言の圧力が、ジャックに謝罪を強要した。

 「で、話を戻すが……」
 「準備なら整ってる。 後、もう二人ほど迎えに行って任務完了だぜ」

 無音は廃屋の裏に泊めてあったワゴン車まで二人を案内すると、それに乗り込んだ。 ジャックに言われるがままに、ラプラスもそれに乗り込んだ。 ワゴン車に乗り込むと、ここでようやくジャックは仮面を取り、誰もいない助手席へ。 厳つい顔の仮面だったのだが、取っても目つきが大して変わらないってどういうことでしょうか?
 組織に入るなど、真っ平ごめんだが……今まで、断られた後に排除するつもりで攻撃を仕掛けてこなかったのはこの二人だけだ。 一応、信用は出来る……と、思う。

 「一体、どこへ行くつもり?」 
 「寝ててくれて構わないぜ。 私は免許証持ってないから運転できないし、ジャックに運転任せて私も寝ちまうからな」

 運転席でボーっとしながらハンドルを握るジャックを横目に、毛布を引きずり出すと無音は寝息を立て始めた。 当然のように、フードを被ったままで。
 ……フードを取ってしまいたい衝動に駆られる。 どんな顔なのか、凄く気になる。
 恐る恐る、手を伸ばす。 が、バックミラーでジャックがこちらの様子を伺っている事に気づき、それを止めた。

 「どうした、別に俺は何もしないぜ?」
 「君さ……ずいぶん楽しそうだね」
 「いや、気のせいだろ? ……無音、お前もずいぶん楽しそうだな。 フード取ったらどうだ?」

 ジャックが呆れたように、狸寝入りを決め込んでいた無音に対し、言い放った。 確かに、狸寝入り。
 毛布を法衣のように方からまとうと、フードの向こうから。 彼女は恐らく、こちらに笑いかけた。 と、思った。 多分。

 「……そうだな、確かに私の顔を見せないのも変か」
 「僕は別に構わないよ、興味本位だったし。 そもそも、君達を信用しきっては居ないし、君たちも同じだろう?」

 ラプラスの言葉に、ジャックは無言で聞いていないふりのつもりなのか、アクセルを踏んだ。 一気に加速し、高速道路に乗った。


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