ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ザクロ
- 日時: 2012/02/21 15:18
- 名前: 虚仮 (ID: Hsu/pkT7)
父母は誕生日に失踪してしまった。
いくら探しても、帰ってくることはなかったーーー
父母が村長の決定で「死んだ」ことにされてから
ある日、少年トキは父母の墓前である少年に出会うーーー
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- Re: 死者に花を ( No.1 )
- 日時: 2012/02/11 19:33
- 名前: 虚仮 (ID: Hsu/pkT7)
「父さん、母さん、今日もまた一日が始まりました。今日という日を大切に生き、そして無事にここに戻ってきます」
家の近くに生えていた小さな白い花を二つ、墓前の前に置き、暫く手を合わせた。数秒経って、風が大きく横切った時に目を開け、そっとその場から離れた。
この行為は随分前から行っている。父母が死んだのは僕が十歳の時のことだった。その日は丁度僕の誕生日で、家に着く頃は父母達の仕事が片付いているだろうと、胸を高鳴らせて早足で帰った。ドアを開け、勢い良く飛び込むとそこには誰もいなかった。あれ?と思って家の中を探し回ったけれど、誰も居なかった。夜まで待っても、朝まで待っても、父さんと母さんは帰ってこなかった。そのことを近所のおばさんに伝えると、おばさんは駆け足で村長の所に行き、そのことを伝えた。その間も僕は村中を駆け回って、父さんと母さんを呼んだけれど、村の人々が僕を訝しく見るだけで、どこからも返事は無かった。
数日経っても父母は帰ってこなかった。村長が「この村から居なくなった。それは村の神々からの御加護を受けなくなったも同然である。残念だが二人は死んだことにしよう」と言った。村の人々はその考えに頷き、結局僕の誕生日に死んだことにされた。
今は一人暮らしをしている。近所のおばさんが家に来ないかと言ったのだけれど、丁寧に断った。父母が死んだ家にはさすがに住んでいないけど、そこから遠くはない青々しい草原の中にぽつんとある小さな家に住んでいる。
おばさんは断ったあと、毎日家に来てくれるようになった。ご飯も毎日作って来てくれた。あとおばさんの家にいる同い年のパリッカもおばさんにいつもくっ付いてきて僕とよく遊んだりするようになった。だから、父母がいないから悲観になることはないし、寂しくなることもないのだ。
墓から家へはそう遠くない。墓は山の下方にある小さな湖、大きな水溜りのような、浅い青い水に囲まれた真ん中にぽつんと日の光を浴びてある。村の人達が父母の為に特別に作ったそうだ。その墓の周りは木が無くて、僕にはまるで神聖な場所に見えた。だからいつも行くときは身なりをきちんとして、姿勢を正して入るのだ。
朝日に目を細めながら家へ帰ると、長い髪を二つに分けているパリッカがテーブルに着いていた。その横には朝食を作っているおばさんが居て、ドアの音に反応してこちらを向いた。
「おはよう! トキ!」
「おはよう、パリッカ、おばさん」
「おはようトキ。もうすぐでご飯出来るからね」
おばさんはにこにこと明るく笑いながら楽しそうに準備をしている。パリッカは下の方で髪を括り終え、満足そうに手鏡で何度も見て、こちらに目をやった。
「どう?」
「うん。上手く分けれてるよ」
「そっか。良かった!」
ちょっと照れたように笑って、パリッカは手鏡をポケットの中に閉まった。パリッカはいつも鏡を持っていて、学校でもよく鏡を除いている。
「そういえば、今日は学校が無い日よね?」
「そうだよ。おばさん」
「ねえトキ! 私と一緒に山へ行かない?」
パリッカは今日が休みだということを忘れていたのか、その話を聞いて目を輝かし、椅子から降りてこちらへ駆け寄ってきて、腕の裾をぐいぐいと引っ張った。おばさんはそれを嗜める様に「パリッカ」と強く言った。パリッカは渋々というように手を放し、唸り声を上げて頭を垂れた。
「ねえトキ。本当に申し訳ないのだけれど、今日おばさんね、ご近所さんと隣村に遊びに行こうと思ってるの」
おばさんは眉を下げ、こう言った。
「断ったんだけれど、強く言われて、断るに断れなくてね・・・・・・。本当にごめんなさい。トキとパリッカには悪いんだけれど、今日一日だけお留守番してくれないかしら。帰るのは夜遅くになりそうなの」
トキはおばさんが今の今まで隣村に行くとか、遊び歩いていることを知らないので、たまには息抜きをして欲しいと思い、
「行って来なよ。僕がパリッカの面倒を責任持って見るから」
と深く望んで言うとおばさんはそれが伝わったのか「ありがとう」と言い、それからパリッカを見て、パリッカがこくこくと頷いているのを見ると朝食を机に並べ家を出て行った。おばさんは扉が閉まるまでこちらをじっと見ていた。
「ねえトキ。さっきの発言、ちょっと違うんじゃないの」
「何が?」
「僕がパリッカの面倒を見ます〜って言ってたこと!」
パリッカは怒りながら僕を睨みつけ、椅子に座ると朝食をばくばくと食べ始めた。
「何が違うんだよ」
「何がって、私が面倒を見る側だもん!」
「あー」
パリッカの言いたいことが分かって、僕は気の抜けた返事をした。パリッカは子ども扱いされたのに腹が立っているようだ。僕は朝食に出ていたパリッカの好きな赤い果実をそっと皿に置いてやった。パリッカはそれを凝視して、僕の方は見ずに無言でそれにむしゃぶりついた。その赤い果実は僕の家の横に植わっている木に実っている果物で、ザクロと言う。
「ねえ、トキ。さっきのことなんだけど」
「・・・・・・ごめん」
「違うわよ!」
先程の事をまだ怒っているんだなと思って謝るとパリッカは素っ頓狂な声をあげた。
「ほら、さっきの森の探索に行こうって話しよ」
「ああ・・・・・・」
「ね、いつもお母さんに禁止されてるとこに行こうよ」
パリッカは悪者のようににやにやと笑った。
おばさんに禁止された場所とは、父母の墓前から少し奥に行った所だった。そこには村を守る神々が住む場所とされ、誰も近づいてはならないのだ。その言いつけを破った者は酷い仕打ちを受けると言われている。おばさんはその話をする時だけは鬼のように怖い顔をしていて、パリッカも僕もだんまりとそれを大人しく聞くのだ。
でもそんなに厳守されているとなれば気になる。見て見たいと思うのが人間だ。パリッカは今大人の監視が無くなって、村の秘密を覗きたくなっているのだ。
「ダメだよ。おばさんに言われてるんだから」
「お母さんがいないからこそ行くんでしょ。お父さんは違う遠い村で働いているし、今なら皆外を出歩かない時間だし」
パリッカが言うように、今は朝早い。ようやく朝日が出てきた所だし、何より早起きをする母親達はもうこの村を出ている頃だろう。おばさんが急いで家を出て行ったことから、約束の時間までもうすぐだったのだろう。大人の男達は昨日きつい肉体労働をしていたので、起きるのは昼ぐらいになるだろうし。子供達は親に言われて僕の家の周りへは来ない。行ってはならない領域の近くだからだ。
パリッカは僕が行かないと決め付けたのか、ふんと鼻を鳴らすと僕の家に置いてある人形で遊び始めた。その人形はパリッカのおばさんが昔にくれたもので、男女二人にっこりと笑っているものだ。パリッカはそれで遊んでいたのだが、暇になったのかそれを元にあった場所に戻した。そしてこちらをぼんやりと見て、はっと閃いた顔をした。
「私、トキのお母さんとお父さんのお墓参りしたい」
「急にどうしたの?」
「だって、私最近行ってないもの。偶には行きたいわ」
パリッカは墓にはちょくちょく一緒に着いて来た。いつも綺麗と言って水溜りの様な池の周りをぐるぐる歩いていた。そして持ってきた花を墓前に置くのだ。僕が手を合わせている間は真似っこのようにパリッカも手を合わす。それで直ぐには帰らず、パリッカはその後も小さな池の水を眺め、飽きた頃にようやく帰るのだ。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
パリッカは元気良く返事をし、家の外に飛び出し、木の下に落ちてあったザクロを手に取ると「今日はこれをあげよう」とにこにこ言っていた。僕は花以外にあげたことがなかったので、成る程と思った。
外は乾いた風が吹いていて、草原を揺らしていた。
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