ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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言い残すことは無いか?
日時: 2012/02/29 22:44
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

無機質な白い部屋に、スピーカーとタイマー、それから拳銃。そんな状況で今目を覚ました2人の女子校生は、体を起こして、お互いに気付いて、目が合った瞬間すぐに目をそらすだろう。あまりにもその状況はこれからのことを物語っている。しかし、違った。ショートカットの方だけがすぐ目線を落としたのである。ツインテールの方は、大きな目で瞬きもせずに、相手の目を凝視していた。吸い込まれそうな真っ黒い目で、人形のように睫毛にふちどられた目で。
こんな状況で起こることなんて、だいたい決まっている。やはり、2人が目を覚ますとスピーカーが鳴り出した。
「この部屋には時限爆弾が取り付けられている。そのタイマーが0になったら爆破で、お前たち2人は死ぬだろう。タイマーを止める方法は1つ。その銃で、どちらかが死ぬことだ。タイムリミットは2時間。検討を祈る。」

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Re: 言い残すことは無いか? ( No.2 )
日時: 2012/03/02 01:03
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

スピーカーがブツリと音を立てて黙り込んだ。ミユキは銃を目で探した。見つけて、心臓が跳ね上がった。リカが既に手にとってまじまじと観察していた。ああ、殺される。どうしよう、リカは絶対私を殺す。リカと私が口をきかなくなって1週間。リカは何を考えているか分からないけど、きっと私が大嫌いになっているはずだから。リカがこっちを向いた。私は後ずさる。するとリカは、微笑んだ。
「リカは、殺し合いとかそういう汚いのが嫌いだから。必死で銃を奪い合うなんて醜いし。リカは醜いミユキは見たくないよ?」
1週間ぶりに笑って、そんなことを言った。銃を自分の脇に置きながら。
「リカ、ミユキを殺したりしないよ。」
その笑顔は何?私の命はリカの手の中。ゲームの勝ちが決まった余裕の笑み?目を覚まして状況をなんとなく予想した時に、傍にあった銃を取らなかった私への嘲笑?
いや、2人そろって死ぬつもりなのかな。リカならそれも有り得る。やけに純粋なとこがあるから。でも、あれは、あの天然は演技だとしたらやっぱり殺すだろう。考えれば考える程分からない奴。気持ち悪い。
「ミユキと喋れるのも、これで最後なんだね。」
残念そうな顔してリカは続ける。別に残念なんかじゃないはず。逆にせいせいすると思ってるんじゃないかな。
「最後だから、リカがずっとしまい込んでた事、全部話すね。別にもう何か求めてる訳じゃなくて。だから、ミユキ、自分の立場とか感情とかは無しで、きいてほしい。」
私に自分の秘密を話そうとするってことは、私が死ぬって前提があるからだろうな。こんなとこで死にたくないよ。なんとかして、隙をついて、銃を取らないと。

Re: 言い残すことは無いか? ( No.3 )
日時: 2012/03/01 00:32
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

「リカは小さい頃から、集団が嫌いだった。恐くてたまらなかった。幼稚園の先生たちには嫌われてた。子供のリカにだって分かった。リカはすごくよく泣く子だったんだ。他の子はみんな部屋でおえかきしてるのに、おえかきは大好きなのに、一人で園庭の木の陰からガラス戸のむこうのみんなを眺めてたのがリカの最初の記憶。先生はリカのこと気づいてるんだけど、こっちを見たんだけど、中に入るようには言わないの。入れてとも言えないで、中のみんなが羨ましい。みんな分かってるのに、だれも見向きもしない。寂しくて、羨ましくて、その気持ちはぐちゃぐちゃになって激しい恨みになる。みんな大嫌いだった。」

Re: 言い残すことは無いか? ( No.4 )
日時: 2012/03/02 01:01
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

私が始めてリカに会ったのは今年の4月。内気でおとなしい子。恥ずかしがりで気が小さい、可愛がりたいような感じ、そんなイメージだった。話しかけてみると、けっこうな不思議ちゃんで。席が前後だったからだんだん仲良くなった。いつも独りでお弁当を食べてたけど、おずおずと一緒に食べていいかきいてきて、私と私の他の友達と一緒に食べるようになった。「いいよ」って私が言った時は、ものすごく嬉しそうだった。何も言わなかったけど、顔がキラキラしていた。可愛い子だな、と思った。同時に、ほんとに今までずっと独りだったんだな、と思った。

5月の修学旅行で、私はリカの別の一面を見た。臆病なリカが、私に心を開いた時だった。ホテルの部屋で就寝時間を過ぎたあと。私たちは2人部屋だった。リカは、おそらく誰にも言えず、独りで抱えてきた、去年のクラスの話をした。リカにも嫌いな人がいる事を始めて知った。私のクラスとは離れた、リカがいたクラスでそんな事があったなんていうのも初めて知った。リカのこんな攻撃的な面も、初めて知った。別人みたいに人を罵り、残酷な言葉を吐き捨てる。恨みと怒りがその声からひしひしと伝わってきた。話し終わると、「リカが悪かったとしたら、リカの存在が間違ってたんだろうね?」と言って、自虐的に笑った。「ほんとに何1つ悪いことなんてしなかったんだから。」そう小さく漏らして、いつもの物静かで感情表現がなくて、悲しそうなリカに戻った。私は、なんだか寒気がした。リカの正体を見てしまったような。

Re: 言い残すことは無いか? ( No.5 )
日時: 2012/03/02 01:15
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

「1年生になると、やっぱり恐かった。同じ年の子が沢山いて。幼稚園の時みたいに、みんなに嫌われるんじゃないかって。人に近寄ると、来ないでって言われるんじゃないかって。不安で不安で、泣き虫だった。先生にはやっぱり好かれてなかった。リカはその時初めて気づいたんだ。泣くからいけないんだ。泣きそうになると、先生はすごく嫌そうな顔をした。だから泣かないようにした。それから友達もできて、普通の小学生になった。」

Re: 言い残すことは無いか? ( No.6 )
日時: 2012/03/03 19:48
名前: 白虎 (ID: J1W6A8bP)

リカの嫌いな人は、今は別のクラス。ある日その人が教室に、誰かに用があって来た。ニヤニヤ私が見ててもムカつくような顔で、そいつはリカの顔を見て言った。
「よう、ひさしぶり。」
「黙れ死ね。死ね。死ね。」
いつもと違う、低くて警戒心むきだしの声で、リカはそいつが喋るのをさえぎった。でもそいつはニヤニヤしたままで、そいつとつるんでる奴も笑っていた。リカはこっちがぞっとするような顔で睨みつけて、早足で教室を出た。


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