ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 居場所と恋愛
- 日時: 2012/03/14 15:42
- 名前: 月 (ID: h4V7lSlN)
これは、どこにでもいるようなただの男の話。
顔が人よりすこし良くて、考え方が人より少しだけ歪んでいる
そんな、男の話。
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- 序章 ( No.1 )
- 日時: 2012/03/14 16:27
- 名前: 月 (ID: h4V7lSlN)
「どこから話そうか・・・」
目の前に座っているのは21歳、無職の男。
世間一般的にはイケメンと言われてもおかしくない風貌と、中肉中背の体つきをしている。
「話したいところからでかまいませんよ」
私はそう言って間にあるテーブルからグラスをとった。
酒でも飲みながらゆっくり聞くことにしよう。
彼は相変わらず前のめりに膝の上で手を組んだままだ。
「・・・なら、そうだな。俺が専門学生のころの話をしようか。丁度・・・今から一、二年前の話だ。」
彼は淡々と話し始めた。
寒い。
季節はもう春のはずなのに、風がまだ冷たい。そういえば桜もまだ咲いていないようだ。周りの人も厚手のコートを着ている。
「憂鬱だなぁ・・」
今日はゲームプログラマーになる夢を叶えるため、といった大義名分をかかげ入学した専門学校の入学式。
実際は特に目標もなく、ただ高校を卒業してすぐに働くのが嫌だっただけ。もっともらしい理由で現実逃避をしていた。
大学でもよかったのだが、我が家にそんな経済的余裕があるわけでもなく、自分で働きながら学費を払わなければならなかったため、大学は諦めた。専門と大学じゃ二倍以上の学費の差があるから。
・・・まぁ、今思えばたかだか二年間という時間をあれだけの学費を払って通うこと自体馬鹿らしいのだが。
そんなわけで、少しでも自分の学費という名の借金を減らすために特待生で入学した。
そのせいで「入学生の言葉」などというくだらないものをやらされるはめになった。正直リハーサルもやらなきゃならないわめんどくさいわで
やる気なんか皆無。
唯一の救いは特待生試験の時に隣にいた女の子が、式の際に隣に座ることくらいか。
そんなことを考えながらだらだらと歩き、式場に到着。
親は式が始まるあたりで来るらしい。
学校長に挨拶をし、リハーサル開始。
これがまたまぁー適当。
「だいたいこのへんに来賓の人がいるから!壇上にあがったら軽くお辞儀して!」
「壇から下がる時は挨拶とかあんまり考えなくていいから!そのへん適当で!」
ざっくりとしたリハーサルを済ませ、席に着く。
これでいいのかよ。とか心の中で呟きながらマイクの位置と読み上げる文章を最終確認した。
「緊張するねー」
隣にいる女の子が声をかけてきた。
和服姿がよく似合う・・・わけではないのだが、それなり様になっている。
「正直かったるいわー」
「特待生がそんなこと言っちゃダメだよ?」
朗らかに笑われるが、ちゃんと笑顔を作れていないあたり本当に緊張しているのだろう。
ちなみに、この子は特待生試験の時に話しかけて友達になった。専門学校で初めての友人、といったところ。
「別に俺は良い子やりたくて特待生してるわけじゃないし。ぶっちゃけ帰りたい。」
「・・・そっか。」
そう言ってそっと俯いてしまった。
まて、そこで切り上げられてしまうと俺がなんかダメな子みたいで後味悪いじゃないか。
他の入学生や先生方、来賓の人と保護者達が続々と入ってきた。
あとは面白みもなく入学式が始まる。
俺は長々しい学院長の話を寝ながら聞いたり、壇上で挨拶をする女性のスーツ姿を見て、下着のライン見えるなぁ・・・気づいてないんかね。とか考えていた。
ちなみに、座っている場所は一番前の席の真ん中。
- 序章-2 ( No.2 )
- 日時: 2012/03/14 18:01
- 名前: 月 (ID: h4V7lSlN)
「・・・あのー」
私はなんとなく耐えられずに声をあげた。
「何?」
男は特に気にした様子もなく首をかしげる。
「いや、そのへんって何か関係するんですかね?」
驚いた表情で男は答えた。
「関係するもなにも、このへんが俺人生の山場だぞ?」
・・・聞きたいのそこじゃないんですけどねぇ・・・。
「わ、わかりました。でも、あまりそう学業に関することを話されても退屈なので。」
「・・・わかったよ。じゃあこのあたりの恋愛でも話そうか」
「お願いします!」
彼は酒の入ったグラスを傾け、また話し始めた。
専門学校に入学したあたり、俺には彼女がいなかった。
3月に高校の文化祭で知り合って付き合い始めた彼女と別れたからだ。
曰く、寂しかったのに電話でもなく適当なメールで済ませたのが彼氏としてあり得ない!だそうで。
そんな頭の中にある理想の彼氏像を俺に押し付けないでくれ。
まぁ俺もSEX出来ない彼女に飽きてきたからかまわなかったんだが。
プラトニックラヴとかわからねぇし。年頃の男の子なめんな。
で、これがよくなかった。
そんなことにも気付かずに俺は入学式を迎え、あっという間に秋になる。
「彼女ほしいー」
俺は教室でプログラムを組みながらぽつりともらした。
隣で同じようにプログラムを組んでいる通称ジュン(北のなんちゃらで出てくるあの人に似ているため)がうんざりした顔でこちらを見た。
「お前ならすぐ出来るだろ。死ね糞イケメン」
「おまー!出会いがないんだよ出会いが!!・・・あーもーやだ死にたい・・・」
プログラムの手を止め机に突っ伏す。
「どっかにかわいい子いないかなぁ・・・」
「こないだのSNSでメッセ送った子、どうだったのさ?」
「あぁ、無理。会ったけどアレは彼女以前に人類じゃない。」
大爆笑するジュンを横目に見ながら、俺はまたSNSのマイページを開く。
「お、メッセ!」
-ひかる-
メッセありがとう^^
私は国立に通っています。
もしかしたら結構近いかもしれないですね♪
「キタアアアアアアアアアア!!!」
「!?」
ジュンが驚いてこちらを見る。
「来たぞコレ!シャメ可愛いし当たりじゃね!?」
「なに、また会うの?」
「当たり前だろ!彼女欲しいのさ俺は!!」
「・・・ヤりたいだけじゃないのか?」
「それもある!」
「・・・やっぱ死ねよお前」
このころ、俺は病んでいた。
毎日のように自分の存在意義について悩んでいた。
自分の居場所がない、とずっと。
ソレから現実逃避するために女の子に毎日メッセを飛ばし、学業に励んでいた。
俺は小さいころ、父親の実家に住んでいた。
二階建ての一軒家の二階の一室に、家族四人で暮らしていた。
母親は姑にいびられていた。
それこそ、ノイローゼになるほど毎日何度も近所にも届くような声で名前を呼ばれ、用事を言いつけられていた。
父親は仕事の愚痴をいう人ではなかったが、そのせいでか仕事が続かなかった。
もともと気の長い人ではなかったので、職をころころと変えていた。
そのせいで稼ぎも少なく、常にギリギリの生活が続いていた。
きっと、その生活のせいで心が癒されず、職場でのストレス、姑のいびりのストレスを吐き出すところがなかったのだろう。
結果、俺と姉に対してそのストレスが向くことになった。
コーラをこぼした、灰皿をひっくり返した、コップを落とした。
どんな些細なことでも怒られるようになった。
怒られる時は決まって正座。
「なにやってんの?」と何回も問い詰められる。
やったことの事実を言っても「それはわかってるよ。だから、なにやってんの?」と聞かれる。
何を言っても同じように返される。そして、答えないと殴られた。決して跡が残らない程度に何度も、何時間も。
殴るのは決まって父親だった。母親は黙って見ていた。
俺は家では悪いことも、失敗もしない良い子であることを求められた。
親に迷惑をかけないこと。逆らわないこと。
それが、俺に対して求められた最低限の生き方だった。
毎日が嫌で仕方がなかった。
だから、「良い子」を作った。
家ではそれをやり続けた。
俺の居場所が消えた。
だから、俺は家ではない違う場所に居場所を求めるようになった。
それが、彼女。
「俺」を必要としてくれる存在、居場所。
「おまたせー!」
駅の改札からキャリーケースを引きながらひかるがやってくる。
「遅い!」
30分も遅れた相手に対して悪態をつくと、開き直ったように睨んできた。
「仕方ないじゃん!荷物重いんだって!」
「知るかよ」
「知ってろよ!」
笑いながら適当に話しつつホテル街へ向かう。
話すのは初めてではない。電話やメールで約一か月ほど話している。
ひかるはビィジュアル系の音楽が好きなようで、メイクも服装も黒と赤を基調とした男性のような服装をしていた。
素で170以上ある身長にブーツが追加され、俺とほとんど変わらないくらいの高さがある。
身長が高いのも相まって、綺麗な顔の男性と言ってもわからないかもしれない。
「で、ラブホで飲むって話だけど酒どうする?」
「コンビニで調達すればよくないか?」
相変わらず口調が男だな。
「んじゃ、そのへんで調達してさくっと飲みますかね。」
キャリーをどっちが持つかで言い争いになったり、ホテルの場所がわからなくて携帯で探したりしながらホテル到着。
途中にあったコンビニで酒とつまみも調達済みだ。
「部屋微妙!!」
ひかるはそう笑いながらベッドに飛び込んだ。
はしゃいでいるのか、緊張してテンションおかしくなってるのか。
「とりあえず荷物おいて、メイク落としてきたら?」
「そうするー」
そいやスッピン見ていいのか?つかそんなさらりと落としていいものなのか?メイクって。
洗面台へ歩いて行くひかるを見ながらそんなことを考えていた。
袋から酒とつまみを取り出し、適当にあけているとひかるが戻ってきた。
「おー準備できてるねー」
「飲むぞー?なにがいい?」
「ブドウ一択でしょ!!」
ビールを片手にブドウのチューハイを取り出し、ひかるに手渡す。
「あざーす」
「ういーす」
二人で同時に缶をプシッ!っと開けた。
「「カンパイ!」」
勢いよく二人で一缶目を飲み干し、二缶目に突入。
適当な話をしつつ、お互いの事を話した。
ひかるは明日で地元に帰るらしい。両親が心配だからと言っていたが、詳しいことは聞けなかった。
彼氏もいない。恋愛したい。結構飢えている、と自分から話してくれた。
これってチャンスじゃね?
ふと話が途切れ、僅かな沈黙が出来たとき、そっと聞いてみた。
「なぁ、今日どうすんの?」
「どうするって、なにが?」
「いや、ヤるの?」
「ヤらないの?」
二人で一斉に笑った。
ひかるもそのつもりで来ていたらしい。
「オーケーじゃあコレ飲んだら寝ますかねー」
「理解」
半笑いのままお互い残りの酒を飲む。
実際は「え、無理」とか言われそうで少し怖かったりしたんだが。
そして、この一晩のせいで俺は知らなかった自分の一面に気づくことになる。
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