ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君と僕の歪んだ世界 ( No.1 )
- 日時: 2012/12/02 15:21
- 名前: 狐浅 (ID: q4IWVUNW)
prologue
頭が痛かった。
ズキズキと形容し難い痛みに頭部を襲れて狂いそうだった。
気を抜けば吐き気を催すような痛みに顔を歪め、生理的な涙を目に浮かべながらも、男は夜の暗闇を走り続けていた。
まるで何かから逃げるように、
まるで何かを恐れるように、
痛みなどで歩みを止めている暇などないとでも言うように。
「はッ、はッ、はッ」
足を縺れさせながらも男は走る。
乱れた呼吸音だけが暗闇を、空気を震わせる。
「なんで何で何で何で何がどうなって俺が如何して何が如何して俺は」
狂ったように何度も何度も呟き続ける。
それが激しい混乱からか、もしくは何かに対する恐怖からかは分からない。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないんだよぉッッ!!!」
呟きながらも必死に足を前へと進める様は異様に異常だった。
血走った目は闇の中でも輝いていて最早人間というよりは獣に近い。
しかし、濡れたような異様な光を纏った瞳は明確な恐れを浮かべている。
「そんなに急いで何処いくんですかねー?」
「うぁぁぁああああぁぁぁあぁああああぁぁあああッッ!!!」
急に、男に背後から声が掛かかった。
その声に電撃が走った様にビクリと男の体が揺れ、大袈裟なほどの悲鳴を上げる。
雲に隠れていた月が徐々にその姿を現し始める。
暗闇に薄い光が輝き、男の姿が浮かび上がらせる。
男は酷く乱れた服装で髪も汗でびしょびしょ、おまけに頬が何者かに殴られたかのように腫れている。
ガクガクと体を震わせながら恐怖に顔を歪める様は酷く滑稽に映る。
唇をパクパクと開閉させながら闇を見つめる男に陽気な声が再び声を掛ける。
「んー?ナニその反応?え、俺もしかして悪者扱い?ひっど」
男を追いかけて来た何者かが少し不機嫌そうに声を発する。
「な、なななな何でお前が俺を如何してお前は俺が何で何で何で」
「ちょっと落ち着いてー?はい深呼吸スーハースーハ」
月に照らされた何者かは酷く華奢な少年で、男の何倍もか弱く見えた。
なのに主導権を握っているのは明らかに少年で、怯えているのは明らかに男である。
少年の軽薄な金髪が揺れる、無造作に伸びた髪は切るのも面倒くさいのか肩に掛かる様な長さになってしまっている。
瞳は男と同様に獣のように鋭く言い知れぬ威圧感を放ち、男を威嚇しているようにも見える。
「ふ、ふざけるなぁぁああッ!!」
唾を吐き散らしながら男が吼える。
羞恥で顔を真っ赤にしながら吼える。
少年はそんな男を見下した目で見つめながらため息をつく。
「アンタさー、今の状況分かってる?理解してる?それとも知ってて言ってる?馬鹿なの?死ぬの?」
面倒くさそうに少年は男を蔑む。
「ふざけるなといってるだろうがぁぁぁぁあああああぁぁぁあッッッ!!!」
男は恐怖なのかそれとも怒りなのか分かりもしない激情を奇声と共に少年にぶつける。
「何が馬鹿なの、だッッ!!ふざけてるのはお前だろうがッ、がッ!?が、がぎ、があッ!?」
男の咆哮は少年の攻撃によって途中から悲鳴と変る。
いつのまにか男の指が二つ、消失していた。
欠落部分からはおびただしい血が出ており、酷く生々しい。
「あのさー、さっきから五月蝿いんですよねー、ちょっと黙っててもらえます?」
黙ってれば、直ぐ終わるんで
少年は男に歪な笑みを向け、男に一歩近づく。
「ひ、ひぃっ...!!」
それだけで男はズリズリと後ろへ後退し、失った部分を庇うように後へ回す。
「だ、だれか、だれか助けッがッ」
バヒュッと軽い音を立てて男の喉が破れる。
その瞬間に男は絶命し、白目をむいて地面に倒れる。
ベチャッ
喉の一部分だったものが男の下敷きになったのかつぶれた様な不快音がなる。
少年はつまらなそうに鼻を鳴らして、月を仰ぐ。
「あー、
腹減った」
ボソリと呟いて少年はその場を後にする。
その場には男の死体のみが残り、その殺され方は酷く異様である。
そして空には美しい月が、悲劇の幕開けを告げるように爛々と光輝いていた。