ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君と僕の歪んだ世界 ( No.4 )
- 日時: 2012/12/02 15:17
- 名前: 狐浅 (ID: q4IWVUNW)
first chapter :非現実との出会い
神様ってのは存外不公平だと思う。
世の中には天才もいれば無能もいるし、
頭が良い奴もいれば馬鹿な奴もいる。
恵まれてる奴もいれば恵まれてない奴もいるし、
不幸な奴もいれば幸せな奴もいる。
俺はどちらかと言えば馬鹿だし、恵まれてもいないと思っている。
母は俺を産むときに死んだし、父は俺が5歳の時に死んだ。
現在は親戚の家で居候生活を送っている。
俺はそれを一度も不幸だと思ったことは無い。
周りの大人たちは決まって俺の事を「不幸」だの「災難」だの「可哀想」だのいうが、正直止めて欲しい。
俺自体はそう思っていないのだから。
要するに俺が言いたいのは、神様に対する不満だ。
確かに世の中全てが公平じゃ成り立たない。
必要な不公平だってあると思う。
だが、一つ良いたい。
————異能者と無能力者という不公平は必要なものだったのか、と。
* * *
季節は春。
麗かな日差しが俺の上に降り注ぐ。
気持ちの良い朝だな、と俺は思った。
(これで学校という面倒くさいものが無ければ最高なのに)
はぁ、とため息をついて頭を掻く。
自分で言うのも何だが、俺は若干引きこもり気味なのである。
しかし、何が楽しくて毎日毎日早く起きて学校などに行かなければならないのか、と心から疑問に思っている時点で「若干」ではないような気もするが。
俺、藤崎臣は青春の盛りである高校生という時期でありながら、退屈な日々を過ごしていた。
「臣くーんっ」
明るい陽気な声が俺の名前を呼ぶ。
ブンブンと手を振りながら笑顔を浮かべて俺に駆け寄ってくる少女に俺は視線を向けた。
立花婁依、それが彼女の名前。
いつも笑顔で明るく、ショートカットの茶髪を揺らしながら笑う。
面白い奴でもあるし、幼馴染ということもあってかやたらと絡んでくる。
俺からしたら色々と勘違いされそうで怖いのだが、彼女自体はその手の話題に興味がないようなので助かる。
「よ」
軽く手を挙げて相手に挨拶する。
日に日に朝の挨拶が面倒くさくなり発言が短くなっている訳では無い、断じて無い。
近くまでくると彼女はへらりとしまりの無い笑顔を向ける。
「臣くん一緒に学校行こ」
そういって俺の返事も聞かずに手を引いて歩き出す。
変なところが強引だよなーと一人思う。
いつもどうりの光景。
いつもどうりの日々。
(ほんと、飽き飽きする)
心の中でため息をつく。
変凡な日々は平和だけれど、刺激が無い。
恋愛でもすれば別だろうけど好きと思える相手もいない。
何か、
何かきっかけがあれば、
何か、
きっかけが————。
「ッきゃ!?」
「ッ!?」
前を歩いていた婁依が誰かとぶつかって派手に転びかける。
その悲鳴は自分の世界に浸っていた俺を現実へ引き戻した。
「っおい、大丈夫か?」
咄嗟に婁依へと手を伸ばす。
その手を掴んで婁依は体制を立て直す。
「あ、ありがと臣くん、あ、す、すみません大丈夫ですか!?」
婁依は急いで倒れた相手に駆け寄る。
相手は「痛てて...」といいながらゆっくりと立ち上がる。
「んー、大丈夫大丈夫。俺丈夫だから。てかあんたこそ平気?怪我とかしてない?」
長い金髪で、澄んだ紫色の目をした少年はへらりと笑みを浮かべて婁依に話しかける。
丈夫、というわりには華奢に見えるが。
「あっ、大丈夫ですっ友達が助けてくれたので...」
わたわたと顔の前で手を動かす。
小動物みたいだな、と思ったが空気を呼んで発言は慎んだ。
少年は婁依の動きを見て面白そうに笑みを浮かべてから俺へと視線を動かす。
「あんたが友達ー?」
「あ、どーも」
...なんだこの微妙な空気。
てか初対面の人に「あんた」って失礼じゃないか?
むっ、とした俺の表情に気付いたのか少年は首をかしげる。
「んー、あ、なるー。自己紹介しろと?三鷹憂、よろしくー」
「え、あ、どーも、藤崎臣です、よ、よろしく」
何を勘違いしたのか名前を言って手を伸ばしてくる。
その手を握ってこちらも自己紹介する。
更に変な空気になった気がするのは気のせいか...?
三鷹は俺の微妙な表情を知らずにヘラヘラと笑いながら手をぶんぶんと振る。
やがて手を離して婁依に向き直る。
「ごめんねー。ちょっと人探しに夢中になっちゃってって奴?怪我がなくてよかったー。んじゃまたねー」
一人で一頻り喋った後、俺たちに背を向けて歩き出す。
「い、いえっ、本当にすみませんでしたっ」
三鷹の背中に婁依が謝る。
三鷹は振り向かずにヒラヒラと手を振る。
そして一瞬だけ此方に目だけを向ける。
「またね」
小さく呟いて目を細める三鷹に俺は背筋を凍らせた。
本能的に、何故か、恐ろしいと思った。
細めた目が獣のようだったからか、それとも彼が完璧な無表情だったからかは分からない。
とにかくゾッとした。
一瞬紫だったはずの瞳が赤くなったのは気のせいだろうか。
逡巡する俺の後方で何かが割れる音がした。
パリンッ
「ひっ」
婁依の驚いたような怯えたような声が隣で上がる。
「どうした?」
俺も婁依の視線を辿り、割れたものを視界に入れる。
割れていたのは道路に捨ててあったガラス瓶だった。
一箇所が抉れてから大破したようで破片がばら撒かれていた。
「何で」
急に割れたのだろうか。
「分かんない...でも急に割れて...」
落とした訳ではない。
誰も近寄っていなかった。
そもそもどうやってガラス瓶を抉る...?
何故か少年の赤い瞳を思い出だした。
————不吉な、赤い瞳を。
「...とにかく急ごう、遅刻するぞ」
「え、あ、うん、そうだね」
次は俺が婁依の手を引く。
そして思った。
如何してあいつは俺の名前だけ聞いたんだろう。
普通ぶつかった相手の友達の名前だけなんか聞くか?
疑問を振り払うように、俺はただひたすらに学校を目指して走ることしかできなかった。
了