ダーク・ファンタジー小説

Re: 君と僕の歪んだ世界 ( No.5 )
日時: 2012/12/04 17:13
名前: 狐浅 (ID: q4IWVUNW)



 the second chapter:非現実との出会い



探さなければならない。
それが私の第一の夢への一歩でありあの男に対抗する唯一の方法なのだから。
探さなければばらない。
それが私の願いであり復讐を成し遂げるための唯一の方法なのだから。
探さねばならない、探さねばならないのだ。
最強の異能者を、そして最凶の異能を。
そのためなら私は、
私は、



まずは手がかりを探さなければ。
私のこの異能があれば見つける事事態は難しくないはずなのだ。
幸い彼はまだこの町にいる。
問題はしらみつぶしに探して見つけた後にある。
もし見つけられたとしても、彼は私に同行してくれるだろうか。
私の言うことを聞いて付いて来てくれるだろうか。
もし断られたら?
...そのときはそのときだ。
彼は気まぐれだから望みが無い訳ではない。
とにかく見つけなければ。

彼を、

————忌まわしき男を叩き潰すために。




 * * *



三鷹との接触後、俺たちはなんとか遅刻せずに学校に着くことができた。
いつも通りの賑やかな教室に安堵に似た感情を抱く。
やっと自分の現実に帰って来たような心地さえする。
先ほどまであんなに憧れていた非現実が酷く恐ろしく、過去の自分の神経を疑ってしまう。
俺たちが教室に入ると、数人の生徒が駆け寄ってくる。

「よっ、今日も相変わらずラブラブですなー」

そのうちの一人の名前は...確か矢口、が然程整っていない顔にニタニタと怪しい笑みを浮かべて肩を叩いてくる。
俺はそれを鬱陶しそうに払いのけてから自分の席を目指して歩く。
横目で立花を蜜と、まだ数人の生徒に囲まれて笑い合っている。
彼女にはやはり現実が似合う。
彼女にはクラスでも居場所があるし、何より好かれやすい。
それに対して俺は無愛想で直ぐ人が寄り付かなくなる。
これも全部生まれつきのこの目つきのせいだ、と愚痴ってみるが虚しくなるだけだった。

「ねー聞いた?今日うちのクラスに転入生来るんだってっ!!」

「あーそれ私も聞いたー」

「男かな?女かな?」

「男だといいなーだってホラ、私今彼氏募集中だし?きゃはははー」

馬鹿な...騒がしい女子の会話に自然と耳を傾ける。
転、入生?
嫌な予感が背筋を凍らせる。
視線を巡らせると立花もその話を聞いたのか、笑顔を強張らせている。
まさか、
そのまさかなのか?
不安と恐怖がよみがえる。
軽薄な金髪が視界に移ったような気がして辺りを見回す。
そこで丁度担任の青山がドアを豪快に開けてズカズカと教室の真ん中に立つ。

———毎回思うのだが、もう少し女らしさを持って欲しい。

青山は教室をぐるりと見回すと満足気に笑みを浮かべて手を叩く。

「おはよう諸君!!今日も欠席、遅刻共に無しで結構!!ところでもう皆知っているだろうが、私たちのクラスに転入生が来た!!」

おぉぉおおおっ
その一言で教室中が一気にざわめき立つ。
俺は冷や汗でびっしょりだって言うのに、のんきなもんだなコノヤロウ。

「はいはい静かに!!じゃあお待ちかねの転入生の登場だ!!よし、入って良いぞ!!」

青山の合図と共に教室の扉がガラリと軽快な音を立てて開く。
———そうそう、青山もこのくらい女らしく開いてくれれば。


「って、え、あ」



一瞬の沈黙。

違う。
あいつじゃない。
目の前に現れたのは女だった。
紫がかった黒髪を腰まで伸ばし、瞳は深い藍色。
なんとなく儚げな印象を抱くような、容姿端麗な少女だった。
三鷹でなかった事に安堵の吐息を吐く。
少女は黒板に綺麗な字で名前を書き出していく。


″三 鷹 憂 ″




「  は  ?  」


ガタッ
椅子を揺らして立ちあがる。

一瞬、息をするのを忘れる。

何で

何で三鷹の名前が...?
同姓同名なのか?いや、でもそんな偶然ってあるのか?

引いたはずの汗がまた流れ始める。
鼓動も早くなり、息をするのが苦しい。

「おい?藤崎?どうかしたのか?」

青山に声をかけられて我に返る。
いつの間にかクラス中の視線が俺に集まっていた。

「あ、い、いえすみません、なんでもないです」

恥ずかしさと不安感がごちゃまぜになってうまく言葉に出来ない。
俺は大人しく椅子に座りなおす。
立花も驚いたように黒板の名前を凝視している。

「ならいいんだがな」

あはははは

クラス内でみんなの笑い声が響く。
俺はそれ所じゃなくて、転入生へと目を向ける。


「...え、」

ドクン

ブワッと汗が吹き出る。
慌てて逸らした目が向こうを見る事を拒む。

————何で、

笑って、る?

転入生は俺を見て嬉しそうに、まるで獲物を見つけた獣のように笑みを浮かべていた。
その笑みに、三鷹の笑みが重なる。

———ここでようやく俺は非現実に足を突っ込んでしまったのだと気付いた。


「見ぃつけたぁ」

非現実は、刻々と迫っている。