ダーク・ファンタジー小説
- Re: 君と僕の歪んだ世界 ( No.6 )
- 日時: 2012/12/05 17:27
- 名前: 狐浅 (ID: q4IWVUNW)
third chapter:非現実との出会い
毎日に絶望していた。
毎日毎日を繰り返す内に俺は自身が渇いているのに気付いた。
日がたつにつれて酷くなる渇きを、どうやっても潤せない渇きを、俺はどうしようもなく持て余していた。
何日も眠れない日が続き、俺を心配してか両親が俺が寝たかチェックしに来るようになった。
勿論俺は寝たフリをして両親を騙していた。
思えば俺はこのころから歪んでいたのかもしれない。
そんなある日、兄貴に声をかけられた。
兄が珍しく声をかけてくれたことがとても嬉しかった。
兄貴は聡明で病弱だった。
両親の大きすぎる期待のせいもあったかもしれない。
俺は兄貴と違って馬鹿で、餓鬼だった。
両親に期待されず、兄貴を恨む日もあった。
それでも兄貴を嫌いにはなれなかった。
俺は兄貴が大好きだった。
なのに、
—————如何して、?
* * *
ありえない、
如何してこう不幸というのは連続して起こるものなのだろうか。
目の前で笑みを浮かべる少女、三鷹(女)といい三鷹(男)といい、今日は恐ろしい奴にばかり遭遇する。
「んーじゃあ三鷹の席はー...藤崎の隣な」
「え、あ、え、ちょ」
青山の空気を読まない発言で俺は凍りつく。
三鷹(女)は迷わずに俺のほうへと近づいてくる。
周りの馬鹿な男子どもが「羨ましい」という視線を向けてくる。
だか俺は顔を上げられない。
上げたく、ない。
「よろしくね、臣くん」
鈴のような、軽やかな声が上から降ってくる。
俺は顔を上げるしかなくなくなり、ゆっくりと顔を上げる。
普通の人間からみたら愛らしく写るであろう笑みが顔を彩っている。
だが、俺からしたらその笑顔は恐ろしい。
「あ、ああ、よろしく」
声が震えて自分でも情けないくらいの声が出た。
必死に笑顔を浮かべようとするがうまく笑えている自信がない。
俺の反応に微笑を浮かべながら三鷹(女)が席に座る。
そこでやっと俺は安堵のため息を付き、体の緊張を解くことが出来た。
キーンコーンカーンコーン
学校終了のチャイムが鳴り、先生たちの帰宅を促す声が廊下に響く。
ようやく帰りの支度をし終わった俺の肩を誰かが叩く。
振り返った俺が視界に写したのは愛らしい笑みを浮かべた、三鷹(女)であった。
「あのさ、ちょっと御話したいことあるんだけどいいかな?」
わざとらしく傾げられた首に寒気を覚える。
ここでもし「いいよ」などと言えば二人きりになった瞬間にサクッとやられる可能性がある。
三鷹(男)が使った(?)、物を抉る能力をこいつも持っているという可能性も無くは無い。
なんせ同姓同名だし。
いや、だかもし断ったら「じゃあいいや」みたいなノリでグシャッとやられるのではないだろうか。
この場でやられる可能性も無くは、無い。
辺りを見回すといつのまにか教室には俺と彼女と数人の生徒しかいない。
様々な逡巡の後、俺は「いいよ」と答える。
俺が死んだらゴメンナサイ!
神様、どうか俺を見放さないで!
——祈ることしかできない自分を情けなく思った。
俺たちは学校から離れて、少し歩いた所にある土手に歩いてきた。
辺りに人の姿が見当たらず不安は益々大きくなる。
前を歩いていた彼女がこちらに振り向く。
俺の目をまっすぐ見つめながら彼女は言う。
「ねぇ、君ってさ、異能者でしょ」
「 は ?」
異能者?
聞きなれない単語に首をかしげる。
なんだ異能者って、いのうしゃ、イノウシャ?
俺の反応に彼女は驚いたように目を開いて更に言う。
「え、まさか違うの?え、何で、だって私の名前が三鷹じゃないってすぐ気付いたじゃない!」
「お前やっぱり三鷹じゃないのかよ!」
会話がうまくかみ合わない。
何を言ってるんだこの女は。
「え、だ、だってだって君の名前が、赤い、のに」
「 は ? 」
更に混乱するような発言が飛び出す。
頭が酷く痛い。
考えることを拒むようにズキズキと痛む。
三鷹...じゃない女は俺より混乱してるのかしきりに目を泳がせている。
「お、おいちょっと落ち着けよ」
女の方へ近寄り、落ちつけようと試みる。
しかし火に油を注ぐ行動だったのか、女はキッと俺を睨んで後退する。
「なんで三鷹に反応したのよ」
女はじっと俺を伺うように見つめる。
「知り合いに、同姓同名の奴がいたから」
俺は素直に告白する。
すると女は目を見開き唇をワナワナと震わせる。
そして俺に飛び掛るような勢いで近寄って胸倉を掴み上げる。
「ッ!?な、急に、なに、」
「三鷹憂を知っているの?」
女は鬼のような形相で俺に詰め寄り、言葉を吐き出した。
憎悪と怒りと怨みが圧縮されたような声だった。
「し、知ってる、っていうか会ったって言うッく、くるしッ」
喉が圧迫されてうまくしゃべれない。
そんな俺の反応に女はハッとしたように手を離す。
ケホッと咳をしてから女を睨み上げる。
女はバツが悪そうに目をそらしながら質問を続ける。
「どこで、会ったの?」
「すぐそこの道で」
「そう」
女は数回頷くと俺に頭を下げる。
「ごめんなさい。いきなり掴み上げたりして。それと偽名だってことは内緒にしておいてね、御願い」
そういって眉を下げて見つめてくる。
そんな頼まれ方されたら断れないだろ、
「分かった、いいよ」
「有難う。代わりに私の本当の名前教えてあげる。九ノ瀬杏奈、九ノ瀬杏奈よ。覚えておいて」
ふんわりと愛らしい笑みを浮かべて歌うように告げる。
思わず今までの事を忘れて見惚れてしまう。
「九ノ瀬杏奈、か」
「そう。じゃあね」
踵を返そうとする彼女を俺は見送ろうとする。
だけど、
俺はとことんツいていないらしい。
「やっほー、って俺の事覚えてる?覚えてますよねー?」
最悪なタイミングで軽薄な金髪がフラリと姿を現した。
了