ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【完】 ( No.111 )
日時: 2012/12/01 23:36
名前: 枝垂桜 (ID: DMJX5uWW)




『あら、失礼なのね』



 イヴは沙雨を見て、クスリと笑って見せた。イヴは宙を移動して、沙雨の横にたたずみ、触れれるはずもないのに、その頬ほ撫でるように手を動かした。








「───君は、寧々のような〝カラダ〟はないのかい?」

『あるわよ。だけどこっちの方が楽なの。私の躰は、朱璃の部屋に……』





 横目で朱璃を見ながら悪魔は答える。






「君は……ナイトメアについて、何か知っているかい?」

『知らない。───なんて言うと思った?』

「なるほど」

『でも、ほんとに私もあまり知らないかしらねぇ。謎が多いから、ね』





 イヴは微笑んで、神社の縁側に腰を落とした。

 そのまま足を組んで、その上に重ね合わせた手を乗せ、更に顎を乗せた。






「朱璃、とりあえず───おいで」




 沙雨に呼ばれ、朱璃は大人しく沙雨の元まで行った。

 朱璃が自分の所まで来るなり、綺麗に朱璃の手から『血桜』を取り上げた。

 取り上げられた朱璃自身も、数秒後まで気付かなかったくらい、静かに取り上げていたのだ。







「『血桜』の使い方を間違ってはいけないよ」

「父さんまで……っ! 僕はただ、朱音を助けたい」





 だけなのに。───と言いかけて息をのむ。

 なぜなら、彼の愛刀である『闇華』の刃が、自分の首筋に当てられていたからだ。


 冷や汗が背筋を滑り落ちて、額には嫌な汗がにじむ。

 沙雨の青い瞳はもはや『父親』のものではない。『吸血鬼』そのものである。


 実の息子相手に微かな殺気を見せる沙雨に、ここに居る全員が蹴落とされてしまっていた。───否、ただ一人、悪魔のイヴだけが怪しげに微笑みを漏らしていた。







「───お前に、朱音を名前で呼ぶ権利はない」

「…………はい」




 
 静かに返事をすると、闇華は自分の首筋を離れた。




「朱璃。朱音を探すため、ここを離れるのは、僕が許そう。ただ、これだけは約束しなさい。───……生きて戻ってくるんだよ」


「父さん……。分かった。必ず、母さんを連れて戻ってくる」


「………朱璃が生きて戻って来なかったら、僕は寂しくて死んじゃうかもね」

「帰ってくる。……絶対」

「うん。行っておいで」



 沙雨はそう言って、『血桜』を朱璃に返した。


「イヴ」

『行くの? ご主人様?』

「うん」

『了解。朱音さんを連れ戻すまでに、三つお願いことをしてね。───貴方の魂は、とてもおいしそう』



 イヴのその言葉を最後に、朱璃と共に消えてしまった。