ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【完】 ( No.112 )
日時: 2012/12/06 01:10
名前: 枝垂桜 (ID: DMJX5uWW)






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「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ───────………ッッッッッッ!!!!」




 人は壊れてゆくものだ。


 その先に何も見えなくなった時、人は壊れてしまうものだ。



『大丈夫。大丈夫よ。貴方は私にただ一つ、願いを言えば良いの。そうすれば貴方は───私と一緒になれる』



 悪魔は囁く。


 人間の魂を喰らうため。ただそれだけのために───……



『好きよ……朱璃』




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 ───あれから数10年後。



「………あのときの、僕の判断は間違いだったのか」


 沙雨は誰に向けてでもなく、ただ自分に向けて言葉を紡いだ。


 そしてそのあとに、目の前にいる息子に向けて言葉を掛けた。



「君が、こんなにも闇に溺れてしまうとは思っていなかったよ」



 数10年前、母である朱音を探すと神社を、沙雨の元を離れて行った息子、朱璃が帰って来た。


 しかし昔の面影は全くなく、瞳はダークブルーに染まり、表情が完全に消え失せている。

 以前沙雨が着ていたように、彼も黒いゴシックに身を包み、片手には『血桜』を握っていた。





 彼は変わってしまった。


 今の彼は、冷酷な『殺し屋』。悪魔を殺す、殺し屋である。

 彼は殺し屋になってしまうほど辛い思いを、この数10年の間に体験してきたのだ。


 そして───、



「朱音は見つかったかい?」

「……知ってるんだろ。どんな結末か」

「僕は何も知らない。あの日から、僕は朱音に触れていないからね」

「じゃあ、母さんの話しをするよ、父さん」



 沙雨は軽く頷いて見せた。



「母さんは───生きてたよ。いや、死んでいたのかもしれない」




 朱璃は苦い顔を浮かべた。