ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【楽園の華 オリキャラ募集中】 ( No.127 )
日時: 2013/01/19 14:22
名前: 枝垂桜 (ID: hVaFVRO5)





 何年も戦いに身を投じていないはずの沙雨が、ここまで過敏に動くとは思いもしなかった。


 闇華は見事にマリーの心臓部分を貫き、貫通している。




「僕を見くびるな───死に損ないが……!」




 低く低く、唸るように告げた最後の言葉がマリーの背筋を冷たく舐めた。


 怒りを隠す事もなく紅蓮に染まった沙雨の瞳はマリーを見据える。


 普通の吸血鬼は紅い瞳を持っている。しかし怒りを露わにした時のみしか紅蓮に染まらない沙雨の瞳が紅くなると、恐怖が襲ってくる。




「ざぁんねん。でもね、もう〝すべては始まっている〟の」

「……どういう事だい?」

「教えてあーげない」

「…………闇華 〝滅して〟」




 瞬間、マリーの体の至る所にひびが入り、そして〝割れた〟。


 言葉に魔力を乗せて闇華に告げると、闇華はそれに従う。
 ただ主人である沙雨の言葉だけに従順に従う。闇華は『話せないシモベ』なのだ。



「ナイトメアの生き残り……。───憎たらしいね」



 沙雨は闇華を鞘に収める。すると襖が乱暴に開かれた。



「沙雨……!!」

「時雨……」



 今度は本物らしい。ほんのり香るのは、彼女が持つ特有の雪の香り。

 紅くなっていた相貌がすうっと冷え、元の深い青の色を取り戻す。


 先程と違い、入る前に一言かけもしない。しかも目元には今にも零れだしそうな涙が溜めてあった。




「どうしたの?」




 時雨の今にも泣き出しそうな顔は嫌いじゃない。少しからかってやろう、という気になったので、わざとそう告げる。



「〜〜〜〜〜っ! 沙雨のバカ! バカ! バカバカ!」




 ───そうだ。こうでなくては面白くない。大人しい時雨は、らしくない。



「バカ! 血出てるじゃない! 久しぶりに来てみれば嫌な感じするし! ケガしてるし! 心配したじゃない!」

「ごめんね。ちょっと……」

「沙雨の事だから油断したんでしょ! ほら、手当てするから」

「時雨……手当てできるようになったのかい?」

「当たり前でしょ!」


 昔は包帯を巻かせると、見るも無残な姿になっていたのに。


「あ……でも、ちょっと傷が深いかも。包帯だけじゃダメかな」

「こんなものは放っておけば治るよ」

「駄目。ほら、診てもらいに行こう? 数百年も行ってないんでしょ」

「いやいい」







「我が主、あと一回断れば、私が抱き上げて連れて行きますよ?」



「マーチ……」

「マーチ! 久しぶり!」

「お久しぶりです。旅は楽しいですか?」

「うん。たくさんの人に会えたよ!」



 どこからマーチが出てきたのやら。マーチは意外に頑固だ。ここはもう諦めるしかない。



「分かった。行くよ」

「それでこそ、我が主です」

「なんだか、病院を嫌がる子供のようだ」

「はて。違うのですか?」

「失礼だね……」




 沙雨は体の小さい時雨に支えられて立ち上がった。




         +      +      +



「沙雨って、前より態度丸くなったよね」

「そうですね。朱音さんや朱璃様のおかげでしょう。───朱音さんがいなくなった後から、朱璃様を不安にさせないようにとこんな感じですが、いなくなる前はもっと笑っていましたね。

 朱璃様がいなくってからは、めったに笑わなくなりましたし、笑ったとしても寂しそうに笑うのですよ」


「そっか……。早く見つかると良いね」

「そうですね」





────早く戻って来て、朱音。






─────────────────────────




シルヴァ様、素敵なオリキャラありがとうございます。

コメントもありがとうございました。もう本当、涙ものです(涙

使わせて頂きます。しかし本編はまた朱璃視点に戻りますので、次に沙雨視点になったときに登場して頂きたいと思っております。


それでは、失礼しますー。