ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【100越え感謝】【オリキャラ募集中!】 ( No.13 )
- 日時: 2012/07/17 23:38
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
第三章 素顔
──どれくらいの時間、眠りに付いていたのだろう。
すぐにさえてくれない頭と、はっきりしない視界は朱音にそんなことを思わせた。
だんだんとゆがんでいた視界が明白になっていくと、その場所は自分が住んでいた神社ではなかった。
和室ではなく、れっきとした洋室。人気がなく、少し古さを感じさせる。部屋の大半は黒であり、あとは壁紙がはげたようなところに白や茶が覗いていた。
見知らぬ景色に言葉を失って、息をのんだ。
胸の奥から恐怖が湧きあがって、背筋が震える。
なぜ自分がこんなところにいるのか、まだ思い出せない。
───不意に、朱音が寝ているベットから離れているドアが開いた。
朱音は見たことも聞いたこともない、いわゆる男ものの黒いゴシックに身をまとう沙雨が現れる。
姿さえいつもと百八十度違う沙雨だが、一目見ただけで、朱音はとてつもない安心感に包まれた。
しかしそれもつかの間───、
まるでフラッシュバックが起きたかのように、反射的に先日のことを思い出した朱音は身を引いた。
体に掛けられている布団をぎゅっ、と握る。
「おはよう、朱音」
「………っ」
沙雨はさも当然だったように、まるで何もなかったようにそう声をかけてきた。
今はそんな沙雨に恐怖さえ感じた。
「そんな警戒されても困るよ」
苦笑を口元に浮かべながら、沙雨は不敵に笑う。
その口元から、鋭い牙が一瞬見えた。
それを見た朱音の血がまたしても温度を下げる。
朱音が恐る恐る先日沙雨に噛まれた首筋に触るとそこには───、
噛み跡が、くっきりと残っていた。
その様子を無言で見ながら沙雨が一歩前に踏み出そうとする。朱音はその瞬間を一時も見逃さなかった。
本能が沙雨を拒み、叫んではいるのだが、そうは思えない弱弱しい声が、無意識に口から滑りだす。
「こ…こないで……ッ!」
沙雨の動きが止まる。踏み出そうとした足を元に戻した。
「なんで、あんなことしたの……ッ。私は何なの……? ねえ、沙雨は誰なの? 私はどうしたらいいの? ここはどこ? 神社は? 半兵衛殿は?」
質問したいことが優先事項から次々と出ていく。
一度に答えられないのは分かっているが、自分が納得できるような理由で、一度に答えてほしかった。
「ここは美濃だよ。森の中の、僕の隠れ家。洋室に作っているんだ。大丈夫。人間には見えないから見つからないよ。神社はここから少しばかり遠い。半兵衛は大丈夫だよ。───朱音はずっと、ここにいればいいさ」
最後の言葉は必要以上に強調されていた。
「僕は僕だよ。でももう、人間に化けた僕は存在しない。───僕は西洋から来た吸血鬼と言う化け物なんだ。
そして今は君も。この間僕に噛まれたせいで、君は吸血鬼になった。今度は本当にね。
───僕は君を愛している。だから君を化け物にした」
「───ッッッ!!」
朱音の心を呼んだかのように、一切の休みも入れず、朱音の問いに沙雨はすべて答えた。
彼女のことなど、お見通しなのだろうか。
「そっか。記憶はまだ戻ってないのか……。本来なら、吸血鬼になった瞬間、記憶は呼び戻されるのだろうけど……ね」
最後の言葉と共に沙雨は笑った。怪しく。しかしどこまでも美しく。
「〝朱音を守っている誰か〟が、記憶を封じているのかもしれないね」
「……どういう事?」
「───気付かれていないみたい。可哀想な守護者様だね」
低すぎて聞こえない。途中からでもいいから聞きとろうと耳を澄ませたが、もう言い終わってしまったようだ。
「すぐに理解しろとは言わないから、ゆっくり理解して」
「───もう……どこか行って……ッッッ」
朱音は喉から声を絞り出す。
沙雨は大人しくそれに従った。一声かけてから部屋を出る。
朱音の頭の中は整理が付かず、胸がいつまでもずきずきと痛んでいた。
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椎名 様、アーチェリー 様、オリキャラ応募ありがとうございました!
本編に入ってしまったし、どちらのキャラクターも朱音や沙雨に身近な人たちだったので、恐らく次には出るかもしれないです。
お気づきになられたかもしれませんが、今回、登場してはいませんが、沙雨の台詞でチラッと存在を示しました。恐らく次出ます(二回目)
これからもどうぞよろしくお願いします。