ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【100越え感謝】【オリキャラ募集中!】 ( No.22 )
- 日時: 2012/07/24 21:47
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
『………私を……忘れ、ない……で……』
『ア……、アカ、ネ……? アカネ? 返事をして、アカネ』
───どうか、その瞳を開けて。
僕を見て。
『いやだ……、アカネッ、死なないで……ッッ』
───もう一度、その声で僕に囁いて。
「愛してる」と。
『────────ッッッッ!!』
炎は〝熱い〟のではない。
〝痛い〟のだ。
そり頬に触れ、焼ける痛み。
でも僕が感じている痛みよりは何千倍も軽くて。
僕は絶望の底へ
真っ逆さまに───…………
『サウ』
──────────────────────────────────
「アカネ……ッ」
起きると同時に、沙雨は誰かの腕を掴んだ。
紫色の着物の袖に包まれたその腕は細く、今にも折れてしまいそうだ。
荒い呼吸を繰返し、その腕の主を見る。
「やあ、沙雨。何年ぶりかのう?」
「……寧々……?なぜ……ここに……」
「皐月に会うてのう。久しぶりにお前の顔がみたくなった。──変わったのう。お前がそこまで飢えるまで、耐えられるとは思っていななんだ」
「失礼だね。───僕は、朱音に嫌われたくないんだよ」
神威 寧々。沙雨と幼馴染の仲であり、親しい。
漆黒の美しく長い髪をなびかせ、白い肌に映える紅蓮の瞳を持つ。
紫の着物に黒紫の帯を巻きつけ、それをまとう姿は、どこか怪しく、色気がある。しかもその帯と袖は、必要以上の長さであり、背には大きな鎌が覗いていた。
この美しい女性の正体は、人間の願いを叶えると引き換えに、その魂を貪る『悪魔』。
特に寧々は、冷血で残酷。時に口元に現れるその微笑みは、至極不気味なものばかり。
突如として、闇の中から、人影が現れ、月の明かりでその正体を現した。
「もう十分嫌われているのでは?」
マーチは淡々と告げた。
寧々はマーチの姿を見て眉をひそめた。
「死神……」
「ご機嫌麗しゅう、神威 寧々卿」
「低俗が……」
「その言葉、聞き流すわけには参りませんね。死神とて、神なのですよ。亡き人間の魂を左右するのは、我らですよ?」
まるで寧々を嘲笑うかのように、笑顔で告げていく。
その笑顔に、背筋がぞっとする者も少なくないのだろう。
「二人ともそこらへんにするといい。
寧々、君は僕の手伝いをするため、ここにきてくれた、と思っていても良いのかな?」
「……間違ってはおらぬ。だが、少し違う。我は、『夜会』の誘いに来たのじゃ。時雨はどうしたのじゃ……?」
「朱音の話し相手をしてる。まずは心を落ち着かせなきゃね。話し相手にはお互い丁度良いだろうよ」
「なるほどな。『夜会』の主催者は、幽霊界の王・ファウスト王だ。
場所は幽霊界の薔薇庭園──いつもの場所だ。時は、明晩。
招待状は、沙雨、時雨、その死神──マーチ・アントリーヌ、そして朱音に来ている」
「朱音も……?」
「ああ。来るか否か───早めに判断をしてほしいのだが」
「………もちろん行かせてもらうよ。全員」
「了とした。ではまた後日」
そう言い残すと、寧々は消えた。
「いいのですか、朱音さんまで」
「彼女に必要なことだ。朱音にまで招待状が来たという事は、王は彼女に、夜会へ来ることが必要だとご判断なさったのだろう」
「貴方が夜会に行くとは、何百年ぶりですかね」
「正直、僕も少し緊張するよ」
沙雨は少し微笑んだ。
その瞳は、至極美しかった。