ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【100越え感謝】【オリキャラ募集中!】 ( No.24 )
- 日時: 2012/07/25 17:49
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
第5章 薔薇の夜会
───私は何か、とても大切なことを忘れている気がするのだけれど、今はまだ、思い出せない。
『思い出したくない』
「朱音、大丈夫? 気分悪い?」
「い、いえ、すみません。少し考え事を」
「沙雨のことなら、気にしなくていいと思うよ。沙雨は、急がなくても良いって言ってくれると思うしね」
「はい。ありがとうございます、時雨さん」
「ん」
時雨と話をするのは、文句なしにとても楽しい時間だった。
年が同じなのからか、会話が弾み、朱音の警戒心も一切なくなった。少し鈍感なところが、とても可愛く、まるで妹を見ているかのよう微笑ましいものだ。
恋の話は苦手らしい彼女は、『恋』の文字にかなり顔をゆがめる。可愛い顔が台無しだ。
「っていうか朱音、同い年なんだから敬語じゃなくても良いよ。私もそっちの方が話しやすい」
「そう、ですか? それならそうしようかな」
二人で微笑み合う。
この部屋は真っ黒だが、今は、とても温かい空間が部屋に広がっていた。
次の瞬間、部屋の扉が開いて、マーチが姿を見せた。
時雨とは幾つか面会があるが、朱音は初めてとなる。
「マーチ? 久しぶり、どうしたの?」
時雨がベットから降りて、マーチに近づく。マーチは一瞬だけ時雨に微笑みかけると、すぐに朱音へ視線を移した。
常に笑っているその顔に、朱音はただならぬ雰囲気を感じ、背筋を凍らせた。
「ご機嫌麗しゅう、死神のマーチ・アントリーヌと申します」
マーチは丁寧に頭を下げて、あいさつをした。
「貴方様の名前は存じ上げております。 この度は、夜会へ着ていくドレスの試着に参りました」
「夜会? 沙雨が、夜会に行くって言ったの?」
「いかにも。 時雨さんは自分の者があると存じ上げています。 朱音さんは、久しい参加だというので、ドレスを」
「〝久しい〟? 夜会って、なんですか……?」
「───おっと、これは失礼。 誤言でございました。 ………〝今の〟貴方様は〝初めて〟なのですね。
それではこちらへ」
朱音は言われた通り、マーチの傍に行った。
「あの、夜会とはなんですか?」
「行けばすぐに分かりましょう。 しばし動かないで下さいね」
30分ほど、ドレスを選び、最終的に決まったのはドレスではなく、『着物』だった。
黒い生地に桃色の枝垂桜が咲き乱れ、花弁を散らせている。帯は見事な金色だった。
しかも至極高級そうなもので、朱音が自分には勿体無いと感じているほどだった。
しかしマーチはその言葉を耳に入れず、かんざしなど、飾るものを選び、最後に扇子と、不気味なお面を渡された。
「夜会の決まりは、『知り合い以外に素顔を見せてはならない』。このお面でお顔を御隠し下さい」
「……分かり、ました……」
「それでは、失礼させていただきます」
一瞬で朱音から着物を取り去り、元に着物に戻すと、マーチはいつもと変わらない笑顔で部屋を出て行った。
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「今日も良い月だ」
半兵衛は一人、神社の縁側で月を眺めていた。
いくら手を伸ばしても届かぬ位置にあるその月は、周りが少し見えるほどの明かるさで、この夜を飾っていた。
半兵衛に『夜会』の誘いが来たのは、数時間ほど前だ。
季節外れの桜が何処からか振って来たと思ったら、1通の手紙に姿を変えた。
毛頭、半兵衛は行く気ではなかった。
もう自分は『怪物』を捨て、『人間』として生きている身の上、『夜会』など、行くに及ばず。
突然、どこからか声が降ってきた。
甘く囁いて、半兵衛を誘っているような。
「愛してるわ───久遠」
「────!?」
───本当に一瞬の出来事だった。
視界が真っ暗になり、体の力が抜けた。
半兵衛は、意識を手放した。
「本当に愛してる。────壊してしまいたくなるわ……」
皐月はそう呟き、半兵衛と共に消えた。
────『夜会』と時は刻々と迫る。
そして、すべてはそこから始まる。
───まだ〝自分〟を知らない少女、朱音。
───その身に罪を抱える男、沙雨。
───魔女の力と雪の加護を授かる、時雨。
───平安の世から生を受ける神、天孤。
───青の中で密かに呼吸する紅蓮、マーチ。
───誰よりも孤独という言葉の意味を知る、寧々。
───愛の言葉を愛し、愛を体に刻む者、皐月。
この者たちは、この世で何を見つけ、何を失うのだろうか。
「───私にしか見えない未来。 偽りは真実には勝てない……」
そしてもう一人─────…………、
『夜会』は───明晩。
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シリアスで終わってほしかったところ申し訳ないのですが、失礼いたします。
まず、味付け海苔 様、オリキャラ応募ありがとうございます!
さっそく使わせていただきます。
あと、参照200突破です!!!
ありがとうございます!
感謝至極です!
これからもがんばりますので、よろしくお願いします!