ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ募集終了致しました】 ( No.32 )
- 日時: 2012/08/01 22:03
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
第6章 ファウスト王、薔薇に消える
ファウスト side
「沙雨……」
彼らがいなくなった部屋で、再び一人になった俺は静かに呟いた。
皆は自分に気を使いすぎて堅苦しい。だから夜会を開き話し相手を探すことを決心したのだ。
沙雨を呼ぶのはまだ控えようとしていた。たくさん話し相手を作って、それから沙雨と話しをしようと思っていた。
が、自分の目的は叶えられない。
王が気安く、低い身分の者たちと話してはならない。そう言って聞かない俺の側近は、夜会の間中、この部屋に俺を閉じ込めた。
話し相手が欲しいのなら、招待状に自分の部屋まで来いと書いておけ、と言われた。
そんなのは嫌だ。
王と言う身分の名を使って、人を操りたくない。
話したくないのなら、来ない方が良い。
そう思って、招待状にはそんなこと一言も書かなかった。
案の定、俺の部屋には誰も来ない。
しかも二重に部屋が守られ、ホールから隔離されているせいで、何も聞こえない。
「皆は楽しんでいるのか」「来て良かったと思ってくれているのか」
それだけでもいいから聞きたかった。
元は話し相手が欲しいから始めたとは言ったものの、決して自分だけ楽しもうなど思っていない。
『薔薇夜会』は、すべての者たちが楽しんで、成功と言えるのだ。
そして俺は急遽、側近に秘密で沙雨へ招待状を送る。
送ったのは当日だったから、これないと思っていた。
しかしあの男は来た。
あれと最後に会ったのは生前だ。
俺は戦争中にアイツと出会い、狙撃兵に狙われていることを運よくも早く気付いた俺は、アイツを庇い死んでしまった。
でも後悔はしていない。沙雨は大事だったから、後悔など全くしていなかった。アイツのことも恨んだことがなかった。
沙雨はなんでも償いをするというから、話し相手になってほしいと頼んだ。ただし、夜会の間の数十分だけ。ホールの様子とかも、沙雨を通じて聞くようになった。
夜会は楽しんでくれているようだ、と言われた時、本当に安堵した。
あいつは吸血鬼で、俺は王で。
かなりの身分差だが、あいつはそんなの気にしになかった。全く遠慮しないし、痛いこともずばずば言ってくる。
それが俺にとっては、無性に嬉しかった。
なんだか、友達ができたようで、楽しかった。
かなり前ではあるが、以前に一度だけ、日本からアカネという女の子を連れてきたことがあった。
見慣れない、着物という装束に身を包んでいる、綺麗な女の子だった。
しかしある日突然、沙雨は夜会から姿を消した。
始まったころから、ただの一回も欠席したことがなかった。
なのに彼はアカネを連れて来たのを最後に、今日まで姿を消していた。
その間、俺は独りだった。再びホールへの不安に頭を抱えた。
そして昨夜、沙雨から出席すると返事が来て、その紙にはアカネの事情も書かれていた。
俺はそれに協力してやろうと思った。いつもあんなことを言っているが、本当に彼には感謝している。
そして今日、すごく、すごく楽しかった。
あいつの事情も一緒に書かれていたが、あいつは全く変わっていなかった。
「沙雨と朱音に出会えて……良かった」
俺はそう呟き、目を閉じて天井を見上げた。
俺は今から、自分の運命を受け入れなければならない。
「まさか、君がそんなことするなんてね」
「知ってたんですか」
「うん。結構前からね。どう? 知らないふりうまかった?」
突然、胸に激痛が走る。それは、今まで隠れていた人物が姿を現し、俺の胸を後ろから貫いたのだ。
血が飛び散り、床を濡らす。
「……あーあ、血が……、床が、汚れ、ちゃうね……」
はは、と小さく笑うと、口の中が鉄の味で満たされ、その紅い液が口からあふれ出して、床に落ちる。
「貴方には、未来を視る力があるのですか?」
「いい、や? ある人間の、子がね……、教えて、くれたんだ……。未来が視れるのは、彼女だよ……」
「逃げなかったんですか」
「彼女はすべての者の、未来を、ゴホッ、……視れている、ようだったから、ね。 ここで俺が、逃げ、て、沙雨たちの、未来が、変わったら……、困る、だろ……?」
「それは良い未来なのですか」
「幸福でも、そうでなく、ても……ッッ、彼らには、受け入れるべき、未来がある……」
「なるほど。では、そろそろ終わりですよ。貴方の死後の人生も、この『薔薇夜会』も」
「そう、みたい、だね……。最期に、あの二人に会えて、……嬉しいよ」
男は、俺の体の中にある心臓を握ると、そのまま一気に───……、
「──────────────ッッッ!!!」
その心臓を取り去った。
俺の意識はそこで闇に消えていった。
────────────────────────────────────────
「僕はあの二人の人生を狂わせるために、貴方を殺したんだよ」
倒れこんだファウストを見ながら、竹中半兵衛───否、水袮久遠は、そう呟いた。
そして久遠は、闇に消えた。
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少女は以前に、朱音が住んでいた神社で目をつぶっていた。
彼女は未来と過去を視ることができる。そして今、彼女はファウストの最期を能力を使って視ていた。
「………やっぱり、死ぬことを選んだんだのね」
分かっていた、と言わんばかりに呟く。
涙樹 アネッサは、そう言って目を開いた。
夜に映える赤髪のツインテール。緋色の瞳。漆黒のリボンに、赤と黒のゴシックワンピースを身にもとっている。
黒のソックスに真っ赤な靴を履いて、黒い傘を片手に持っていた。
黒は闇にまぎれ、やけに映える赤が、闇の中で燃えているかのようだった。
「───次は、沙雨さんと朱音さんの番よ」
アネッサは無表情にそうつぶやいた。