ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【まさかの参照300越え!感謝!】 ( No.39 )
- 日時: 2012/08/09 18:31
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
「……ッ! 朱音……ッ」
朱音の瞼がゆっくり開いたのに気が付いた沙雨たちは、一斉に朱音の元へと駆け寄った。
沙雨は天狐を見るが、朱音と自分の意識を完全に断ち切ってしまったため、あの後のことは全く分からなかった。
沙雨はその体を抱き起こし、朱音に語りかける。
「朱音。……僕のこと、分かる?」
「……あ……、沙雨、だ……」
「えへへ」とどこか嬉しそうに口の端を上げる。
その言葉を聞いた沙雨は朱音を強く抱きしめた。
驚いたせいか、朱音の意識も覚醒する。
「良かった……。嬉しいよ。僕のことを、受け止めてくれたんだね……」
「そんな、大げさだよ。沙雨」
その様子を見た周りの者たちの空気も和らぐ。
天狐は朱音の前に座り、微笑んだ。
「朱音さん。 記憶を取り戻しましたか?」
「──うん。 全部思い出したよ」
「では、貴方はいつから生きていますか?」
優しく。あくまで優しく、天狐に問いかけた。
「私は、文安二年(1446年)から生きています」
「そう。ではどうして沙雨と出会ったのですか?」
「私はある小さな港町に住んでいて、そこに流れ着いていた沙雨を見つけました」
「そう。では貴方は本来ならば死んでいます。なぜですか?」
「村で一揆がおこった。 相手の兵に刺された私は死にかけた。けれど私は」
「僕の手によって、人ならざる者となった」
途中から沙雨が入ってくる。
「私は、沙雨と同じ吸血鬼になりました。けどそこで私は記憶を失ってしまった。沙雨は何もかも忘れてしまった私を気遣って、吸血鬼の因子をすべて眠らせた。 今日の今まで、忘れていた」
「……その通りです。 どうやら、すべて返ってきたみたいですね」
天狐もほっとしたそぶりを見せた。
次の瞬間、朱音の体に強い衝撃が走る。
「おかえり朱音ーッ! 大好きーッ!」
時雨が朱音に抱き付いたのだ。彼女は小柄なのだが、朱音と違って健康的な体つきなので、朱音はその衝撃に耐えきれず後ろに倒れる。
それを支えたのはマーチだった。
「あ、ありがとうございます。マーチさん」
「感謝には及びません」
「我も嬉しいぞ。実を言うと少し寂しかったのじゃ」
「寧々さん……。今まですみませんでした。──ちょ、あ、時雨ちゃん……っ」
「やったー! 聞いた? 時雨ちゃんだって!」
ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ時雨の片隅で、マーチと寧々が火花を散らしている。
その様子を楽しそうに見る沙雨と天狐は、
「昔に戻ったようですね……」
「そうだね。だけど、僕たちはもうここにはいられない。久遠もきっと元の世界に帰ったのだろう。僕は西洋の国から来たから、そこに帰らなくては……」
「朱音さんは許してくれるのですか?」
「さあ、どうだろう」
そんな陽気に返す沙雨だが、内心実は不安だった。
拒まれてしまっても、沙雨は自国を帰らなければならない。久遠だって、きっともう日本にはいないのではないだろう。
久遠を操っているのは、きっと皐月だ。彼の体内に、何か特別な催眠術式呪術を植え付け、自分のいいように操っているのだろう。
ファウストを殺したのは、皐月だ。久遠ではない。
証拠さえないが、沙雨の中でこれは確信だった。
自国で決着をつけなければ。皐月と。彼女を放っておけば、きっともっと悪化する。
皐月。愛をその体に刻む者。
いったい何が、彼女をあそこまで変えてしまったのだろう。
「沙雨さん、そろそろ帰りましょう。考えるのは、そのあとです」
「ああ」
沙雨は返事をしながら立ち上がった。
「帰るよ。───おいで、朱音」
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味付け海苔 様、応募ありがとうございました!
二度目の応募、とてもありがたいです。
大変申し訳ないのですが、実は応募用紙を変える予定だったので、記入事項が若干増えております。
お手数ですが、もう一度新しい用紙に記入していただくか、増えた所だけ、お書き頂きたいです。
非常に申し訳ないですが、よろしくお願いします。