ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.48 )
- 日時: 2012/08/11 21:23
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
それは沙雨が無事自国に着いたと天狐に連絡があってから二日。沙雨が旅立ってから八日後の出来事である。
その日もいつの間にか日が沈んで、夜になっていた。
天狐は「天照様」と言う人に突如呼ばれ、夕刻から不在だった。
出かける前に天狐が作ったおむすびを一つ腹に入れ、寧々と共に星を眺めていた。
満天の星だった。
満月は遠くにあり、月の光があまり届いていない夜空は星が無数に浮かんでいる。
「綺麗……」
「朱音は我が怖くないのか?」
突然寧々がそう切り出し、すぐには理解できなかった。
「怖いって……。どうしてですか?」
「しっておるだろう。我は〝悪魔〟なのだぞ」
少し悲しそうな顔をしているのが分かった。
「私が初めてここに来た時、すごく私を嫌がってたじゃないですか。その時に悪魔だって聞いた時は怖かったけれど、話してみると楽しくて……。沙雨も吸血鬼ですし、人間も悪魔も関係ないですよ」
そして思う。
そう言えば、自分はもう〝人間〟ではなかった。
自分も沙雨と同じ吸血鬼なのだ。
体にも変わりがなく、なかなか実感がわかないのだ。記憶があるうちはまだ人間だったのだから、受け入れにくい。
沙雨が持つ、あのするどい牙もない。血が欲しいとも思わない。こんな自分にも、いつか血への飢えはやってくるのだろうか。
しかし首筋に自分の牙をつき立てるなどと言うおぞましい事が朱音には出来るはずもない。
「前もそんな事をお前は言ったな。──皆、我に優しくしてくれた…しかし、我が悪魔だと知ると…離れていった。なぜかのぅ…我は…何もしていないのに……」
「それは本当の寧々さんを知らないからですよ。私は好きです。寧々さん」
「誠、お前の言葉はいつも我を救うてくれるのじゃな。愛らしい奴よ」
寧々は朱音の頭を軽く撫でた。
ただその手は至極冷たかった。
────次の瞬間だった。
「──! 朱音ッ!」
寧々が朱音を抱きかかえながら、飛んできたものを避けた。
しかしそれは朱音の頭を庇っていた腕に突き刺さる。
「あぐ……ッ!」
「寧々さん!」
それは細い針だった。しかしその先は色の悪い紫に染まっていた。一目見ただけで、それが毒だと分かる。
見る見るうちにその腕が紫色に染まっていく。その痛みに顔をしかめながら寧々は朱音を庇いながら立ち上がった。
背負っていた大鎌を取り出し、それを構える。
腕の紫は広がりを止めない。じわじわと広がり続ける。
猛毒だ。
「寧々さんっ」
「下がっていろ! こんな時に限って天狐は……!」
寧々は意識を集中させる。
二発目は必ず来る。それはどこから? それを探すために、耳を澄まさなければ。
暗闇の中。しかもここは草木に覆われた森の中。見つけにくい。
そして、
───来た!
大鎌を使って見事針を打ち払う。針は真っ二つになって地に落ちた。
「───ああッッッ!!」
「朱音ッッ!?」
やられた。二本目はおとりだったのだ。三本目は朱音の腕深くに突き刺さっていた。
後ろを向いて朱音の針を抜こうとすると、四本目が寧々の首に刺さった。
その針は深くに埋め込まれ、寧々は力が抜け、倒れ込んだ。
意識があり、痛みは感じるのに体は全く言う事を聞かない。
朱音に刺された毒は恐ろしい勢いで繁殖を広げた。まだ人間に近いだからだろうか。早くこの手を伸ばして助けたい。
自分の無力さに腹が立った。
遠くから二人を狙っていた人物が姿を現すが、首さえも動かない。目の前に黒いズボンの裾が見えた。
その人物は朱音を抱き上げる。そして一言言った。
「───貰っていくね。無力な悪魔さん」
そこで寧々の意識はなくなった。