ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.50 )
日時: 2012/08/13 11:42
名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)



「ただいま戻りました」

 扉を静かに開けて、天狐は隠れ家に入った。


「……?」


 そこには不自然な静寂があった。

 物音一つしない部屋。寧々がいれば、いつも賑やかで明るいはずなのに、そこは静かすぎ、天狐の胸に不安が横切った。


 そして一番気になったのは、朱音の気配がしないことだった。寧々の気配は微かに、本当に微かにする。


「寧々さん」


 その名を呼びながら、気配のするほうへ歩いていく。そこは中庭に続く扉がある場所だった。

 その扉を開ける。



「────! 寧々さんッ!」


 そこに横たわっていたのは、顔半分が紫色に染まる寧々の姿だった。否、顔半分だけではない。腕から首、腿にかけてドスのこもった紫色をしている。


 意識を失いながらも、痛みに顔をゆがめている寧々を見て、その紫の正体が『猛毒』だとすぐに分かった。


 駆け寄ってその身体を抱き起こす。薄く開いた口元から呻き声が漏れた。


 猛毒にやられ倒れる寧々。荒れた中庭。地に落ちている数本の針。隠れ家にいない朱音。これから推測すると、きっと敵からの襲撃があったのだろう。


 そして朱音は連れ去られた、と。そう考えることができた。


 ───最悪の状況だ。


 まずは寧々の毒を消して、何があったのか聞かなければ。



「〝消〟」


 天狐は自分の尾の毛を一本抜き取ると、それにふっ、と息を吹きかけた。するとその銀の毛が輝き出す。


「〝発〟」


 自分の手でそれを握ると毛が消えた。その手で紫色のところをなでていくと、その紫は綺麗に消えていった。




 全てが消えた頃、寧々が目を覚ました。


「天……狐」


「もう楽ですか?」


「ああ、お前が治したのか。感謝する。……天狐! 朱音が、朱音が連れ去られたのじゃ!」


「やはりそうですか。説明していただけますか?」


 今や混乱状態の寧々だったが、説明は至極分かりやすかった。

 一通り話し終えた頃には寧々も落ち着いていた。天狐は一つ頷く。


「まずは僕たちもヨーロッパに行って、紗雨さんに報告ですね」


 天狐が思うに、敵は恐らく久遠側だろう。元々仲間だったのか、雇われたのかまでは分からないが。


「朱音さんがいなくなった今、僕たちはここにいる必要はありません。行きましょう」


「天狐は行き方知っているのか?」


「無論です。行きますよ。僕たちがいない間、友人に守りを頼んでおきました」


 天狐がそういうと、影から一人の女性が顔を出した。


「お初にお目にかかります。水の神、ミツハです。人間の名を、静香と申します」


「天候と水はかなり関係がありますし、以前からあかねさんを陰から見守っていただいてました。それではミツハ、お願いしますね」


「はい。ここは私に任せてください」


 静香がしっかり頷いたのを確認すると、天狐は呪文を唱えた。

 そして次の瞬間には、ここに残っているのは静香のみになった。