ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.52 )
- 日時: 2012/08/14 01:15
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
沙雨たちは西洋、ヨーロッパに来ていた。昔住んでいた隠れ家は見つかったのだが、長年使われていなかったせいで、沢山のものが埃をかぶり、白くなっていた。
それゆえ、まず最初の仕事は掃除となったのだが、隠れ家は日本にあるものと違い、かなり大きいものだった。それにかなり時間を取ってしまったあげく、荷物の整理もあり、結局天狐に到着の知らせを送ることができたのは二日前だった。
もちろんのことだが、町もかなり新しくなっていた。
外見は人間とほとんど変わらない沙雨たちだ。不審な目で見られる事はなかったものの、かなりの美形が集まって歩いているとなると、人々視線を集めた。
たまに分裂して一人ずつになると、それを狙っていたかのように沙雨の元へ女たちが集まって来た。
時雨の元にも男が寄って来たのだが、マーチが視線で追い払っていたので声を掛けてくるまでは至らなかった。
「……煩わしいでしょう。追い払って差し上げましょうか?」
マーチが良い笑顔で訪ねてきたが、その内容は笑顔には合わなかった。
「いいよ。人間だから、少し手加減してあげるといい」
「……つまらないのですね」
「後でゆっくり遊ぶといい」
沙雨はそう言いながら隠れ家までの道を歩き続ける。
マーチと時雨が合流したことで、女たちは寄って来なくなっていた。
隠れ家が見えてくる。そこまで来て、知っている二つの気配を沙雨が感じ取った。
天狐と寧々の気配だった。
「なんで君たちがここに……」
そして次の瞬間には目の前に姿があった。
心なしか、二人の瞳の中が曇っているように見える。
「朱音も来ているの?」
「いいえ」
「留守番?」
「いいえ」
「───なら、どこ?」
静かに否定する天狐に沙雨は追い打ちをかける。
少し予想が付いていた。ここにいる人物全員だ。
「……朱音さんは……僕の留守中に───連れ去られました」
「─────」
寧々が悲鳴を上げる暇もない、一瞬の出来事だった。
沙雨の足が天狐の首に食い込み、地に倒された。
目にも速さで太刀を抜き、投げ出された右手の手の平に突き刺した。
それまでの時間は、天狐が首への衝動で起きた咳を吐きだす間もなかった。
赤い鮮血が手の平から溢れだす。その痛みに天狐は顔をしかめた。
沙雨は天狐の手の平に太刀を刺したまま、彼の体に跨っている。いつもよりはるかに細くなっている沙雨の瞳が天狐を上から見下ろしていた。
「───どうして?」
「天照様に呼び出されておりました。寧々さんがいるからと安心しておりました。…っ」
その痛みに耐えながら天狐は言葉を紡ぐ。
それでも沙雨の目は冷たい。
「……何のために君たちを、あそこに残したと思っているんだい?」
「───アアッッッ!」
太刀をぐりぐりと動かして、天狐を刺激する。更なる痛みに天狐は悲鳴を上げた。
「神にこんな事をしたのは、貴方が初めてですよ。……本当、恐れ多い人だ」
「守護神でありながら、朱音を守れなかったんだ。今の君は、神から堕ちてしまったゴミに等しいのだよ」
沙雨はそういうと剣を抜いた。手から刃が滑り出る痛みも、今の天狐にとっては辛いものだった。
その手にはしっかりと縦長の──沙雨の太刀の刃の形が残っていて、刃が手を貫通したことをありありと示していた。
「この程度で済んだ事を、せいぜい感謝すると良い。──次は、目だ」
その威圧にここにいるすべての者が、恐怖を覚えた。
沙雨が柄にもなく青ざめている寧々を見ると、彼女はびくりと肩を震わせた。
寧々に沙雨は微笑んで見せた。しかしやはり目は冷たい。否、冷たさを増していた。
「天狐から聞くところ、朱音が連れ去られた、一番の元凶は君みたいだね。───安心すると良い。寧々には、天狐以上のお仕置きをしてあげるから」
「───ッッ!」
「おいで。帰るよ」
言い方は優しいものの、闇が混じった声だった。
それから数時間後、沙雨の部屋から戻って来た寧々は片目に包帯をしていた。
それから炙りだされる、寧々が受けた『お仕置き』の内容は明らかだった。
きっとあの包帯の下に、先程まであった目は、もう───。