ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.58 )
日時: 2012/08/15 13:02
名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)




第9章 毒漬け


 沙雨side


「朱音……」


 窓から見える空を見ながら僕は呟いた。

 朱音と会う前はこんなにも他人に心を縛られる事などなかったのに、今は朱音がいないと不安になる。


 温もりが足りない。朱音の温もりを求めているんだ。


 武闘派の寧々が歯もたたずやられたというのならば、それはかなりの実力者だろう。彼女は悪魔なのだ。それを負かすなんて、驚きでもあった。


 彼女の目には術を仕込んでおいた。


 一つの目の視界を分散させ、他の所も見れるようにしたのだ。

 朱音が見つかれば、術は自然に解けるようになっている。


 朱音の気配は近い。必ずこのフランス内にいるはずだ。


「朱音……」


 もう一度その名を呟いた。


──────────────────────────────────────────────



 朱音は目を開いた。


 そこは見覚えのないところだった。黒いタイルに黒い壁。窓はなかった。

 壁に取り付けられた四つのアンティークなランタンのおかげで、視界はそれなりにはっきりしていた。


 体を動かそうとすると、重い手ごたえと共に、ジャラリと音がした。

 その音の正体は、手と足に取り付けられた鎖だった。

 なんとか動かそうとするが、重すぎてなかなか動かない。

 身をよじっていると、耳のすぐ近くで声がした。


「チャオ」

「───ッ!」


 目を見開き、体を肩を震わした。

 声の主はすっ、と離れて朱音の目の前まで移動した。


「あ、そっか。ここではボンジュール、かな?」


 無邪気にそう告げる姿は、至極幼く見えた。


「僕はオリオン・ポイル。よろしく〜」


 オリオン・ポイルと名乗った男は、毒々しい紫色の瞳をしていた。

 短い髪も同じ色だった。

 全体を纏う装束も暗い色が多く、紫と黒のボーダーのインナーと紫のオーバー。漆黒の素本を履いており、緑色の尾が覗いていた。


 自分と寧々を襲った人だと、即座に予想が付いた。


「やだなー。そんな睨まないでよ」


 「まいった」という表情で告げる。敵視されているのは分かっているらしい。


「連れてきた後は好きにしていいって言ってたけど、反応が薄かったらつまんないよね〜」


 朱音に聞こえない声でぶつぶつ言った後、オリオンは急に膝をついて、朱音へ顔を近づけた。


「僕の事、嫌い?」


「はい」


「いっやー。ハッキリ言うねぇ」


 どこか楽しそうなオリオンに嫌気が差した。

 オリオンは、ドスの聞いた紫色に染まっている頬を撫でた。


「……ッあ……ッ!」


 小さな悲鳴が朱音の口から漏れる。

 その反応にオリオンはぱっ、と顔を明るくした。


「痛い?痛い?どれくらい?」


 無邪気に質問してくるが朱音はオリオンを睨みつけたまま、何も言わなかった。


「───僕の強い毒に……君はどれくらい耐えられるのかな?」


 妖しく、声を低くしてオリオンが言った。その意味を聞く暇もなく、その手が朱音の両頬に触れた。


「─────ッッッ!」


 毒の染み込んだ頬に、新たな毒が注ぎ込まれる。

 悲鳴が朱音の唇を割った。


 その様子を見ながら、オリオンは満足な気分で微笑んだ。

 いまだズキズキと痛む毒の刺激に耐えながら、朱音は苦しげに睨みつける。息も上がってきて、意識はすぐ手放せるほど、手の先まで移動していた。


「ああ、その反応。そう、僕が欲しいのはその目なんだよ……ッ!」


 意味の分からないことを言って、オリオンはまた無邪気な顔をした。


「決めた! 君を僕のおもちゃにしてあげるよ」


「……?」


 朱音は意味が分からないのに、オリオンは酷く上機嫌だ。


「───だから、僕を楽しませてね?」