ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.62 )
- 日時: 2012/08/16 21:53
- 名前: 枝垂桜 (ID: gZQUfduA)
「──ッ!……ふ……ッ!」
寧々は明るい太陽の光を浴びながら、その大鎌を振り回していた。否、鍛練、と言った方が相応しいであろう。額や首筋に汗を浮かべながら鍛練をしていた。
沙雨が怒って当たり前のことをした彼女は、自分の失態にかなりの責任感と罪悪感を持っていた。
『武闘派』として、寧々は沙雨から絶大的な信頼を受けてきた。それは過去にあった西洋の戦争で奮闘した事もあっての結果だったのだ。
しかしいざ奇襲されてみれば、この有様。自分は毒にやられ身動きも取れない。朱音は手を伸ばせば届くところで苦しんでいるのに、そこを敵に連れ去られたなんて。
面白くない。大失態だ。朱音を取り戻す時は、一番に自分が鎌を振ろうと決めていた。
そのためには鍛練をしなければ。緩みきったこの糸を、もう一度締めなければならない。
「寧々」
不意に時雨が声をかけてきた。
「なんじゃ?」
「寧々にお客さん。寧々にすっごい似てる。自称寧々のお兄さんだって」
「……! 名は何と申しておる」
「ちょっと待ってね」
時雨は再びぱたぱたと足音を立てながら中に入って行く。以外にも早く戻って来た。
「神威桔梗……? って言ってる」
「……我に兄などおらぬ。それは全くの他人じゃ! 追い払え!」
「───そんな風に言う事ないじゃないか!」
突然大きな声が聞こえて、黒い影が時雨の頭上を飛び越える。綺麗に着地した青年を見て、寧々はあからさまに嫌な顔をした。
「寧々! 久しぶりだな!」
「我はお主など知らぬ! 全く初めて見る顔じゃ! お引き取り願おう!」
素っ気なく顔を背ける。しかし青年はその肩を掴んで前を向かせた。
「寧々、その顔の包帯はどうした!?」
「どうしてはおらぬ! さっさと出て行け!」
「いや。俺は寧々がその傷の理由を吐くまで出て行かないぞ。誰にやられた!」
「だからなんでも───」
「それは我が主が、寧々卿に仕置きをした時できたものです」
マーチがその中に入り込む。
寧々は舌打ちをし「余計なことを……」と呟いた。
本当に気に入らない死神だ。
「〝仕置き〟……? 〝我が主〟とは誰だ」
青年の声のトーンが低くなる。明らかに機嫌が悪くなっているようだ。
「主の名は───」
「おだまり、マーチ」
その場の空気がガラリと変わる。ダークゴシックに身を包んだマーチの主が姿を見せたのだ。
その青い目が青年をしっかり捕えて逃がさない。
その場にいる全員が押し黙る中、青年だけは沙雨を睨み続けていた。
「お前がこの死神の主か」
「───沙雨。お初にお目にかかるね、桔梗卿。寧々から多少の話は聞いている」
「低俗が俺に易々と声をかけるな」
桔梗と呼ばれた青年はその鋭い視線を、一度も揺らさない。
「寧々を傷つけたのはお前か……?」
「〝傷つけた〟? 何も言うかと思えば。傷つけてなどいない。術を施しただけ」
「術」
「そう、術」
沙雨は微笑みながら桔梗を相手にしていた。それが気に入らない桔梗の機嫌は、どんどん悪くなってゆく。
「しかし包帯を外してはいけないよ。術にのみ込まれてしまうからね」
降ろしていた手が、すうっ、と空気に弧を描きながら上がる。その人差し指が桔梗を指した。
「寧々の瞳は相手を捕えて見逃さない。一分一秒、瞬間でさえも貴方を見続ける。それは恐怖。だから見ない方が良い」
「言っておくが、俺の力は遥かにお前の力を凌ぐほどだ」
桔梗はするりと日本刀を取り出し、かまえた。
沙雨はそれを見て苦笑する。
「貴方は悪魔で僕は吸血鬼。神と天使以上の差がある。僕より力があるのは当たり前のこと、でしょう?」
その言葉を聞いてマーチは微笑んだ。つい昨日、神と悪魔を負かした口が良く言う、と。
「お前の魂はうまそうではないが……。喰うてやろう」
「やれやれ、血の気の多い」
沙雨はそう言って闇華を取り出す。それを構えた。
先に動いたのは桔梗だった。
その動く瞬間を見逃さなかった沙雨は目を細める。タイミングを窺っているのだ。いつ動けば、この日本刀の刃から逃れられるか。
二つの刃がギラリと鈍い光を放つ。刃と刃がぶつかり合って擦れた。
───次の瞬間、二人の目の前を一本の矢が遮った。予想外のものに目を見開いた二人は、宙返りをして間の距離を伸ばした。
矢を射ったのは時雨だった。顔を真っ赤にしながら、ぷるぷると小刻みに震え、ロングボウを構えるあの手で、よくここまで狙いが定まったものだと感心する。
「何をする、小娘!」
「───ッッ!」
桔梗が刀を振り下げたがマーチの鎌が、それを遮った。
「お戯れを。 今は我が主との対決。この娘は関係ありません」
「先に手を出しのはこの娘だ」
「女性に手を上げるなど、男性として失格でいらっしゃいます。今ならまだ間に合いますよ? 手を上げて男性として失格になられますか? それとも、男性を守り通しますか?」
「───!」
酷くいらついた様子で桔梗は刀を下げた。「よろしい」とマーチはいつもの笑顔でうなずいた。
「沙雨! もう一度──」
そう言いながら振り向いた。すると沙雨はどこか遠くを見つめていた。
「──朱音……ッ!」
沙雨は闇華をしまい、高く舞い上がった。そして木から木へと移動する。
突然の行動に身動きが取れない者がほとんどであったが、桔梗は沙雨を追いかけた。精一杯手を伸ばして、その肩を掴む。
「沙雨! まだ俺との勝負は───」
「黙れ!」
「な……っ」
さきほどとは明らかに違う沙雨に驚く。
「朱音が……。朱音が泣いてる。近くで泣いてる……」
桔梗の手を振りほどいてまた移動を始める。
桔梗は意味も分からないまま、沙雨の背を追った。