ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【第二次オリキャラ募集中!】 ( No.64 )
- 日時: 2012/08/18 21:04
- 名前: 枝垂桜 (ID: 49hs5bxt)
一体いくらの毒に、朱音の体は耐えているのだろう。
毒が体にまわり、激痛が神経を刺激し、気持ち悪さのせいで吐き気が止まらない。何度もむせ返りそうにはなるのだが、引っ込んでいく。それを何十回も繰り返していた。
容赦なく追加されていく猛毒。最初は下唇を噛み、涙をこらえていたものの、今に至っては流れてしまっている。
痛いので泣いているのではない。恐怖が抑えきれなくなった。心細くて、怖くて、耐えられなかった。
オリオンは朱音の目の前にしゃがみ込み、口元を上げた。
「まだ壊れないでよね、おもちゃは丈夫じゃないと面白くないよ」
無情にもそんな言葉を吐きだし、立ち上がった。
「……あ……」
薄く唇を開く。
「……あ……沙…雨……。───沙雨……ッッ」
喉から絞り出す声はかすれていた。それでも二回だけ、その名前を呼ぶ。
きしし、とオリオンがまた笑った。
「……つ・い・か」
細い首に手をまわす。そこからまた毒が染み込んでいって、新たな激痛が朱音を襲った。
一瞬目の前が真っ白になって、再び吐き気に襲われる。
口の中に鉄の味が広がり、端から流れ出す。
「───────────ッッッッッ!!!」
次の瞬間、朱音の中で恐怖が爆発した。
甲高い悲鳴が響き渡り、その大きさにオリオンさえも目を見開いた。
ゆらりと朱音が立ちあがり、近くにあった剣に本を手にとった。
その動きの鈍さではろくな反撃もできないだろうと安心していたオリオンは笑った。
しかし朱音はそれを持って驚異的な速さでオリオンに飛びかかった。床になぎ倒され、投げ出された両手にその剣を思いっきり突き刺す。
かなりの激痛に襲われ、顔をしかめる。
朱音は荒い息をして、あの茶色い綺麗な瞳を真っ赤に染めていた。
「───『殺セ』『罪人ニハ 罰ヲ』『殺レ』」
小さな声が薄く開いた唇から流れ出る。
その真っ赤に染まり、焦点の合わない目と、なくなっている表情からオリオンは、今の朱音に理性は全くないと判断した。
『壊れた』───と言うより、『狂った』という状況だ。まだ壊れてはいない。
朱音はその剣を抜きとり、次は両肩に思いっきり突き刺した。
骨が砕ける音がして、刃が奥深くに潜り込む。
「───ッッッッ!」
さすずのオリオンも悲鳴を上げた。
音を立てて、この部屋の扉が開いた。
息を上がらせた沙雨と桔梗が顔を見せる。それでも朱音の理性は戻ることを許さなかった。
「朱音……ッッ!?」
肌はすべて紫に染まり、その中で紅く紅く映える紅蓮の瞳。
その姿で剣を持つ姿は悪魔を思わせるほど恐ろしかった。
そして朱音は、その剣を持って沙雨の元まで走りだした。