ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ募集は終了致しました】 ( No.73 )
日時: 2012/09/08 19:30
名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)




「なんだって……?」


 驚きの声を上げた沙雨に天狐は視線を向けた。どうやら今、マーチからなんらかの伝達を受けた様子だ。


 沙雨が驚くとは珍しい。そう思い天狐は手にしていた茶を置いて、マーチまで歩み寄った。


「どうしたんですか?」

「幽霊界の新しい王が決まったそうです」

「な……っ」


 これは沙雨が驚くのは分かる。


 元幽霊界の王・ファウスト王はついこの間『薔薇夜会』と呼ばれる夜会で、何者かに暗殺された。


 この暗殺についてはほとんどが謎に包まれており、幽霊界の上官たちも何も発表していなかった。


 しかもファウスト王は『暗殺』ではなく『事故死』または『自害』と発表されていた。


 『暗殺』と発表すれば、幽霊界が揺れ動くのが目に見えていたからなのだろう。


 しかし上官たちは、その事件を隠ぺいするのではなく『自害』の理由を探るという理由で、暗殺犯を探していた。


 ファウスト王が望んでいたのは揺らぐことのない平和な世界。哀れな死者を快く迎え入れる世界だった。


 その為、素直に『暗殺された』と言い国が揺らいだら、ファウスト王の意に背くことになる。上官たちはこう考えたのだ。


 しかし手掛かりはなく、上官は、暗殺直前まで会話をしていた沙雨と朱音を重要参考人として幽霊界に連れて行こうとしているらしい。しかし日本を発ち、今は居場所さえ教えていない沙雨たちが見つかるわけもなく、日本をひたすら探している上官たちが哀れだ。


 そして容疑を掛けられている水袮久遠と皐月もまた、捕まっていなかった。


 上官たちはすべての手掛かりを見つけることができなく、手詰まりの状態だったのだ。


 そんな状態で、しかもこんなにも早く次の王が決まるなんて、あまりに異例ではないか?


「しかも」


 マーチが付け足そうとする。


「次の王は女性。……女王です」

「女性……?」


 それもまた異例だ。幽霊界で女が王の座についた事など今まで一度もない。


「名前は?」

「シャルロット・レア・アレクシア・クリスタルだ」


 今度は沙雨が言った。


「ファウストの一代前の王の嫁だそうだ。彼女は0歳の時何者かに殺害された。幽霊界に来てから成長し、今は24」

「──!? 若過ぎでしょう! 上官たちは何を考えているのですか?」

「………」



 ファウストの外見はかなり若かったが、あれでも50はいっていた。

 幽霊界の住民は皆長寿だ。しかも年齢にしては外見が若く見える。ファウストによると、年齢を2で割ったのが外見の年齢だそうだ。

 なのでファウストの外見年齢は25となる。

 女王は24。割ると14。まだ少女ではないか。民は反対をしないのだろうか。


「それが、どうもしっかりしていて、落ち着きがあるそうですよ。民は、ファウストの次に素晴らしい王だと述べておりました」


「……信じられないですね」


「どうにかして顔を見たいんだが、今行くと僕は帰ってこれない。だからと言って君たちに行かせても、きっと帰ってこれないのだろう。だから悩んでいるんだ」


「なら魔導書を使うのが一番ですよ」


 マーチがにっこり微笑んで言った。


「魔導書、ですか。そんな物がここにあるんですか?」

「ええ。私がいつも保管しておりますが、一度も開いた事はありません。特にこれは、世界でも指折りの強さを持った魔導書です。それゆえ多くの施錠呪式があります。それを使いこなさなければ、魔導書は本来の力を発揮できないのです」


「それは……。とても厄介ですね」


 はあ、と息をつく。魔導書は神を嫌う。よって天狐は触れることもできない。だとしたらこの中で、魔導書に触れることができ、扱う事ができそうなのはただ一人ではないか。


「なので我が主、お願いしますね」


 にっこり笑って告げるマーチ。沙雨も溜息をついた。


「まあそれで新しい女王の顔が見れるのなら、やってもいいかな」


「では、今から魔導書を出しますよ」


 そう言ってマーチは顔の包帯を外した。