ダーク・ファンタジー小説
- Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ 執事&メイド募集中】 ( No.80 )
- 日時: 2012/09/16 21:40
- 名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)
「───ただし。僕を〝開く〟ためには、それだけの代償を払う必要がありますよ?」
「『代償』?」
「ある人は片目。ある人は右腕。ある人は視力。……何かを犠牲にしなければ、僕を開くことはできません」
開く為に必要な物は、力意外にもあった。
代償と呼ばれる、その人にとって二番目に大切な物。それをロアに渡さなければならないらしい。
「なぜ二番目?」
「一番目は悪魔が貰うものだから」
「なるほど」と笑う。
悪魔は契約する時に相手一番大切な物を貰う。すなわち心臓につながるのだ。
自分の中で二番目に大切なもの。
一番は朱音に決まっている。二番目は───『闇華』? 確かにあれがなくなってはく丸が、「二番目」という高い位置には属していない。それでは一体何なのだろうか。
「二番目───分かりませんか?」
「ああ」
正直に答える。マーチは細く微笑んで見せた。
「自分では分からないものですよ。しかし他人には分かる」
「君には分かると?」
「ええ。申し上げても?」
町ーは床に落ちていた包帯を拾い上げて、side片目が隠れるように巻き付ける。
その間に沙雨は頷いた。マーチは静かに口を開く。
「おそらく『朱音』かと」
「朱音……?」
「さよう」
マーチが何を言っているのか理解できなかった。ロアはこうしているうちにうとうとし始め、今や半分眠っている状態にある。
「朱音は一番大切だ」
「───違いましょう。貴方にとって一番大切なのは『朱音』さんではなく『アカネ』さんでしょう?」
「───!?」
自分でも気づくことのできなかった真実ほマーチが炙りだす。沙雨は図星をつかれた様子で、驚きを隠せないでいた。
「貴方は未だに『アカネ』さんの面影を追い求めている。そして『アカネ』さんを『朱音』さんに重ねて見ている。───違いますか?」
マーチに言われて目を見開く。
───否定できない。
そんな自分がいた事に気が付き、言葉を失った。
締めあげる。
マーチから放たれた無数の蜘蛛の糸が沙雨に絡みつき、締めあげる。
マーチは一瞬で、人の言葉を必要以上に吸収する。自分自身が気づかないことまで知り尽くす。マーチが代弁する真実に、惑わされ、うろたえてしまう。
「朱音さんを失っても良いのですか?」
否定できない。だがしかし、肯定もできない。
「確かに僕は『アカネ』の事が好きだった。でも決して『朱音』を『アカネ』だとは思わない。彼女は今、『朱音』だ」
そう言い放つと、マーチは満足したように微笑み、「御意」と告げた。
そうして一歩前に歩み出し、魔法陣に向かって大鎌を投げた。魔法陣に吸い込まれた大鎌はその形を跡形もなくなくしてしまった。
「あれは私の中で二番目に大切だったもの。代償はそろいました。あとは貴方がロアさんを開くだけ」
ロアが抱えている黒い本に手を伸ばす。
一瞬、ジュッと焼けるような痛みが走ったが、それ以降は何の抵抗もなく掴みとれた。
魔導書が沙雨を受け入れた瞬間だった。
突如魔法陣から伸びてきた影が黒い本に入り込む。ガチャガチャと音を立てながら、無数に掛けてあった施錠呪式が解けた。
「それをそのまま開けばいいのです」
マーチは淡々と告げた。
沙雨が本を開いた瞬間、ロアが目を覚ました。