ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ 執事&メイド募集中】 ( No.83 )
日時: 2012/09/27 22:39
名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)



 しかし次の瞬間、魔法陣にのみ込まれたはずの黒い羽を魔法陣が吐き出した。バリッと空気が張り裂けた音がして、三人は目を見開く。


 ロアはすごい勢いで魔導書本体のページをめくる。あるページでその行動は止まる。


 ロアは静かに首を振った。


「禁断の施錠呪式が何重にも掛けられています。恐らくその数は……千以上かと……」

「千……。ならいい」

「分かりました。───調べ事はもう終わりましたか?」

「ああ。ありがとう」


 そう言うとロアは膝から崩れ落ちてしまった。何事かと思い近づくと、彼はすやすやと寝息を立てていた。仕事の時と普段の時ではかなり『顔』が違うようだ。


「それで、どうするのですか?」

「……僕は女王に会いに行く。君も来てくれるかい?」

「Yes,your majesty(イエス・ユア・マジェスティ).
 もちろん。貴方との契約は、まだ切れていないのですから」

「ありがとう。あと、天狐と桔梗は朱音の護衛に付いてもらう。僕と一緒に行くのは、マーチと寧々。そして残りは───久遠を探して欲しい。それと、行く前に君に紹介したい人がいる。そこに寄って行こう」

「御意」


 沙雨にだって、数は少ないが頼れる者たちがいる。


───輪廻シエル。人間であり、悪魔を抹殺する権利と力を持った青年だ。


 その体内に暗黒竜を宿すことで、彼の身に『死』が訪れる事はない。また、彼はその竜の声を聞く事が出来た。


 マーチにさえ会わせていないその人物は絶対的な力を誇る、デビルバスター。

 そして久遠を危険因子とみなし抹殺を考えている一人だった。この情報が沙雨の元に流れ着いたのはつい最近なのだ。沙雨にとって、自分たちの味方になってくれれば、非常に助かる人物だった。

 最も、他人と慣れ合う事が嫌いな彼が自分たちの味方に付いてくれるかどうかさえ危うい。しかし会いに行ってみる価値はあるだろう。


「沙雨ー、どしたの? 突然呼び戻してー。きゃっ。誰これ」


 危うく眠っているロアを踏みつけそうになった時雨が飛び跳ねる。その奥から朱音と桔梗、そして寧々も顔をのぞかせた。



「良い所に帰って来たね。この子は霧亜ロア。世界で指折りの数に入る力を持った魔導書さ。今、この子から新しい幽霊界の王について調べてもらった」

「新しい王じゃと?」


 声を上げる寧々。その他面々もやはり驚いているようだった。


「まずこの部屋を出よう。天狐にも話したい」

「わ、分かった」


 一方、朱音の頭の中ではあの記憶が呼び覚まされていた。

 血に染まるファウスト。先程まで話していた人がそこで死んでいる。何も話さなくなっている。これほど恐ろしい事があるのだろうか。


 そんな朱音の意図を読み取ったのか、沙雨は朱音の髪をくしゃりと撫でた。


「大丈夫だよ。朱音の事は、僕が守る」

「あー! 沙雨ずるい! 朱音っ、私もいるから忘れないでねっ」


 無邪気な笑顔を見せる時雨。沙雨は「やれやれ」と言った様子で困ったように微笑むと、朱音に向かって手を差し出した。

 朱音が戸惑いがちにその手に自分の手を添えると、沙雨の指が曲がって朱音の手を包み込んだ。

───沙雨の手は冷たい。

 まるで氷のようなその手。それでも微笑みはまるで太陽よう。手が冷たい人は心が温かい。それは迷信ではなかったのだと、朱音に思わせてくれる。


 朱音はまだ沙雨を知らない。沙雨は朱音を知っているけれど、朱音は沙雨が日本に来る前、どんな人生を送って来たのか。どんな人たちがいたのか。そんな事も知らない。

 だから、沙雨の事は少しずつ、ちょっとずつ知っていきたかった。


 前の方で、どうやらマーチからの今後の仕事内容を聞いた桔梗が愚痴を言い始めた。


「なんで寧々と一緒じゃないんだ! なんで俺のような悪魔が、あの神と……!」

「桔梗。朱音に怪我させたら、我は一生お前を恨むからな」

「なっ! 寧々ぇ……」

「主の留守中に朱音さんを毒漬けにさせた分際で何を……」

「なんじゃと、お主」

「いえ。特には何も」


 ぼそりと毒を吐いたマーチを寧々が獣の目で睨みつけた。そしてマーチはそしらぬ顔でとぼけてみせる。


「幽霊界への出発は明朝ニョウチョウ。久遠殿の方はなるべく早く頼むよ」

「御意」


 マーチが深く頭を下げた。





 

倉内さん 様。応募ありがとうございます。

とても素敵なキャラ、感謝いたします。何度も言うようですが、最近更新ペースがかなり遅くなっていますが、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。

朱音への一票、ありがとうございます!


これからもどうぞよろしくお願いします。