ダーク・ファンタジー小説

Re: 吸血鬼と暁月【オリキャラ 執事&メイド募集中】 ( No.84 )
日時: 2012/09/28 22:16
名前: 枝垂桜 (ID: tDpHMXZT)



第11章 皐月と言う女 久遠と言う化け物


 朝起きた時、すでに沙雨たちは出発していて、ここにはいなかった。今のところ、残っているのは天狐、桔梗、時雨、ロアだった。

 時雨とロアはすでに打ち解けた様子で、二人仲良くお菓子を齧っていた。

 その一方で、無言の争いが続いている。天狐と桔梗だ。否、天孤は桔梗の事をまるで気にしていない。問題は桔梗にあった。

 沙雨に寧々を連れて行かれた不満感と、神が近くに居ると言う居心地の悪さにイライラしているのせいで、こちらの空気は驚くほど荒んでいるのである。

 まさか朱音が口をはさめるわけもなく、椅子に座って固まっていると、目の前のテーブルにお茶が差し出された。


「どうぞ。沙雨さんがいなくて寂しいでしょう。すぐ帰ってきます。少しの辛抱です」

「ありがとうございます」


 茶碗の中に淹れられたお茶を覗くと、その水面の上には可愛らしいピンク色の花が浮いていた。

 この地には咲いていない、日本人が最も愛している花。


「桜茶、ですか?」

「はい。ここに来る時、本当に急いでいたのですがお茶だけは持っていかなくてはと……。数種類ほど持ってきました」

「嬉しいです。日本に帰るまで、お茶、飲めないんだと思ってました」

「喜んで頂けて光栄です。実はヨーロッパで飲まれている『紅茶』もあるんですよ。昼にヌワラエリアという紅茶を準備しておきます。日本の緑茶に近い感覚らしいですよ」

「本当ですか? 飲んでみたいです」

「これは僕が作った和菓子です。どうぞ」


 そう言って点子が差し出してきたのは桜餅だった。

 日本を恋しく思っている頃だと思い、わざわざ準備してくれたのであろう。

 朱音は軽く頭を下げた。天狐はお茶をロアと時雨に渡すべく、部屋を出て行った。

 朱音はむすっとしている桔梗を横目で見ると、席を立って近くまで寄った。


「あ、あのっ、おひとつどうですか? 天狐さんが作るお菓子はとても美味しいですよ?」

「要らない。前も言ったはずだ。お前らとつるむきはない」

「これはつるむとかそういうことじゃないです。それ関係なしに、どうですか?」


 桔梗がちらりと朱音に視線を向ける。すると桜餅が乗った皿を前に付きだし、怯えた様子で唇を噛んでいた。が、それでもやめようとしない朱音に桔梗が折れる。

 皿に手を伸ばし、二個あったうちの一つを掴み取り口に放り込む。

 朱音の言った通り、その味は非の打ちどころがない。一瞬眉毛が動いた様子を、朱音は見逃さなかった。

 満足そうに微笑むと椅子まで後退して行った。

 そして同じ時に天狐も戻って来た。