ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.10 )
- 日時: 2012/12/05 18:37
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
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呆気に取られている朝内 真幸は、完全に黛の話を信じたようだ。ここで疑う人間もいるが朝内 真幸は素直な性格なのか、すぐに話を理解してくれた。朝内 真幸の中で、この話がつながっていると考えていいだろう。
そのことにほっとしながらも、高城の心は晴れなかった。
黛は、箱を片手で握り潰しながらにやりと笑う。
「まー、安心しな。お前は【被害者】の方だから」
「【被害者】?」
「そ。つまり、だ。あんたのレプリカが作られてるってこと」
一つしかなかったPFの箱を握り潰されて、高城は気分が良くなかった。
あと一つだったのに。相手を納得させるためにはこの箱を使うと手っ取り早い。だからいつも使ってきたのに。
気まぐれでこういう行動をする黛とは、時々細かいところで意見が合わない。そういうところでしばしば喧嘩になったりして仕事に支障が及ぶ。
今回箱を潰したことに対しても文句を言いたかったが、高城は口を閉じた。こんなところで喧嘩をしても、朝内 真幸が戸惑うだけだ。
朝内 真幸は、被害者。自分のレプリカが存在する。
被害者に悪い思いはしてほしくない。
高城はゆっくりと目を閉じた。
寝てしまいそうになるが、ソファで寝ることはできなかった。
隣に朝内 真幸がいるということもある。異性の他人が同じ空間に居る事には、慣れない。
「この世界に、同じ人間は必要ない」
「だから片方を消す」
久しぶりに声を出す。全く同じ声の黛と言葉を合わせる。
高城は目を開いた。
高城と黛を交互に辿る朝内 真幸の目線は、やがて握り潰されたPFの箱に定着する。
紐を力強く握った後、やがて力を失くしたように緩む。諦めたかのように見える横顔。
そんな表情をする朝内 真幸に、虫唾が走る。
高城はポケットから両手を出した。あのまま中に入れていたら、折り畳みナイフを取り出してしまいそうだったからだ。
朝内 真幸の、何かが心に突っかかる。何かが気に入らない。
「……それで……」
朝内 真幸の立場はダブっている。二つ、朝内 真幸という存在がある。それはこの世界のルールに反すること。
だから、消さなければならない。
どちらかを。
「そしてお前は選択した。【生きる】方を」
被害者である朝内 真幸は、生きる方を選択した。
死ぬ方を選択していたらどうなっていたのかを想像したのか、また朝内 真幸の指先に力が入る。そんな姿を横目に見ながら、高城は自分がここに居ないかのような感覚に陥っていた。
妙に、頭がフワフワする。自分がイライラしているのには気づいていたのだが、イライラという感情とこのフワフワはどうしてもつながらない。
高城がそんな思いを振り切るかのようにして立ち上がると、ほぼ同じタイミングで黛も立ち上がる。
「そんな【被害者】朝内 真幸を全力でサポートするのが」
「俺たちの仕事ってわけだ」