ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.11 )
- 日時: 2012/12/06 21:01
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://幹 光=みき ひかる 高城 直里=たかしろ すぐり
+9+
「今日からお前は、俺たちの目の届くところに居てもらう」
ようやく帰れると思って体の力を抜いていた朝内 真幸は、黛の言葉に硬直した。
それも当然だ。こんな突拍子もない、根拠もない、信じられなくても仕方がない話を聞かされて、頭の中は大パニックのはずだ。それなのに、立て続けに知らない男の身の回りに居ろと言われたのだから。
口応えをしようとする朝内 真幸の唇に、高城は指を出した。
突然口を閉じさせられた朝内 真幸は、目をぱちくりさせた。高城は、ゆっくりと指を折る。
「仕方ないだろ。あんたは【被害者】なんだから。あっちだってあんたを狙っているかもしれない」
「……っ!」
アッチ、というのは当然【加害者】の方だ。それを瞬時に理解できないほど、朝内 真幸の脳みそはガラクタじゃ無いらしい。
高城はそれを確認した後、腕を組む。
黛と高城を不安そうに見つめる朝内 真幸の瞳が、涙で濡れていく。
やがて顔を覆って、本格的に泣き始めてしまった。
こうなってしまえば、もう何も言うことは無い。一人にするのがいいだろう。高城は、女の扱いが苦手なのでその場を立った。
黛は朝内 真幸のためにコーヒーを入れるみたいで、キッチンに向っていく。高城はそんな黛の背を見届けつつ、部屋の奥の扉の中へと姿を消した。
突然、自分の存在が重複しているなんて言われてしまえば、疑うか騒ぐか笑うかだ。それのどれでもなく、朝内 真幸は泣くことを選択した。
泣けば、事態が変わる訳じゃない。状況が整理されるわけでも無い。それなのに、涙を流す理由が高城には理解ができなかった。
扉の中は短い廊下があって、そして二つの扉で部屋を分けている。その片方の自室に高城は入った。
ベッドに倒れこみながら、朝内 真幸の今後を考える。
朝内 真幸が信じてくれてよかった。
信じなくて、これを作り話だといって現実逃避をすることも、朝内 真幸には出来たはずだった。
それをされなくて、本当によかった。現実から目を背けたいのは、高城だって同じだからだ。
高城は、枕に顔面を押し付ける。
PF。レプリカ。
この世界は変わってしまった。
人間は、一人でいい。その人の存在できる器は、一つしかないというのに。それを理解していない。
難しい事を考えるのは苦手なので、早急に頭を振ってその話題を消去する。
朝内 真幸には、生き残ってもらわなければならない。
だって朝内 真幸は、生きることを選択したのだから。
「……俺は俺」
口に出してみる。
そう、自分は自分。仕事をすればいい。排除をすればいい。片方を消せばいい。それでいい。何も考えなくていい。
それでいい。
頭がフワフワするのには変わりが無い。何だか体が熱い。
息が苦しくなってきたので、枕から顔を離す。
新鮮な空気を肺に送った時、デスクの上に置いてあった携帯が鳴った。
腕を伸ばしながらそれを取ると、ディスプレイには【幹 光】という名前が表示されていた。
迷うことなくそれに答える。
「……光さん」
『なんか元気ないじゃない? どうかしたの?』
「別に何でもないけど。で? 何?」
通話先で、光が楽しそうに煙草を口に咥えている姿が容易に浮かぶ。
光は平均的な女性の物より、少しだけ低い声で高城に話を続ける。
『直里君、見つけたのよ。すぐに来て』