ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.12 )
- 日時: 2012/12/07 19:59
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://黛 一鷹=まゆずみ いちたか
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すぐに体を起こした高城は、電子音を一定に吐き出す携帯をポケットに突っ込み、代わりに折りたたみナイフを取り出す。デスクの上に無造作に置いてあった、今取り出したものより長くて丈夫な物を代わりに入れる。同じく近くにあった鍵を取り、ヘルメットを掴む。
ドアをやや乱暴にあけて、朝内 真幸と黛が居るオフィスに戻った。
突然現れた高城にコーヒーを啜っていた黛が怪訝そうな顔をして、朝内 真幸は赤い鼻をスンと鳴らした。
「高城? なんだ、なんか用事でも、」
「光さんに呼ばれた」
先ほどまで話していた女の名前を口にすると、黛がコーヒーカップを机の上に叩きつけた。
中身が机の上に散乱して、淡い青い色のカーペットにたれる。
びくりと肩を震わせた朝内 真幸は、何が起こったのか理解ができないようで目を丸くしている。
高城はそんなのには構わないで鍵を手の中でいじりながら、黄色いスニーカーに足を突っ込んだ。黛はそんな高城に近寄り、そして胸ぐらを掴む。
自分と全く同じ顔をした黛が、ものすごく不機嫌そうな表情を浮かべている。
高城は黛の手を振り払う。
ドアを少し開けた時黛が恐ろしく冷たい声を出したのを、確かに聞いた。
「……お前だけか」
「あぁ」
当然のように嘯き、ドアを閉める。
黛は自分の言葉を信じるだろうか。柄にでもなくそんなことを考えながら階段を降りる。
隣に位置した駐車場の中から自分のバイクに歩み寄って、それに跨った。
ヘルメットを被り、先ほど光に言われたところへと向かう。
辺りは完全に日が落ちて月が上った夜だ。人通りも少なくなって来た道を、高城は滑走する。
銀に光るバイクは、夜の街を走る車を追い越してぐんぐんと進んでいく。
ヘルメットの中で、かすかに高城は黛の表情が気になっていた。
黛はきっと今頃、朝内 真幸に罵声を浴びせているのだろう。イライラすると、モノと人にあたるのがアイツの特徴だから。
高城は嘘を吐いたことへの罪悪感を振り切るために、スピードを上げる。
やがて、微かに香る塩の匂いが鼻を擽った。
たどり着いたのは、夜空を映す海が見える岬だった。
バイクを止めてヘルメットを外して、倉庫の壁に背を預けていた女のところまでバイクを押す。
女は高城が来たのを見つけると、背を離してコートのポケットにスマートフォンを入れる。
薄く化粧をした女が、高城に電話を寄越した幹 光。ハニーブラウンに染めた髪は、残念ながら夜に飲み込まれていて見えない。
高城の姿を見て、光は首を傾げる。
「あれ? 直里君一人?」
「なんだよ。不満なわけ?」
自分の後ろを見ながらいかにも不満そうに呟く光に、高城は眉間の皺を深くする。
ヘルメットをバイクのハンドルに掛ける。無意識にポケットに両手を突っ込んで、夜の海辺は寒いことを実感する。
吐く息は白い。光はだが、堂々としていた。それもそのはずで、光は完ぺきに厚着をしている。
「うん。不満も不満大不満。だってあたし、一鷹君の方が好きだもん」
自分よりも年上のはずの光が頬を膨らませて駄々をこねるのを、高城は妙な気分で眺めた。
頭の後ろを掻きつつも、光が変だということを再確認。
「……俺も黛も同じ顔じゃねーか」
「双子でも違う人間なんでしょ? そう見られるのが嫌いだって言ったのは、直里君と一鷹君だ。その通り、キミたちは違う人間だし、やっぱりあたしは一鷹君の方が好きだ」
「…………」
ニコニコと笑いながら言葉を真剣に紡ぐ光の相手はやはり疲れる。
言葉を返したくないとでもいうかのように、高城はそれ以上何も言わなかった。