ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.16 )
- 日時: 2012/12/10 16:06
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
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「光さん、あんたと話してるとやっぱり疲れるわ」
丸まる背筋を直さないまま呟くと、光が不機嫌そうに腕を組むのが視界の端で見えた。
ポケットの中を触りながら、ナイフが落ちていないことを確認する。いまさらバイクの鍵を抜いて、ポケットに突っ込む。携帯を取り出してマナーモードに手早く設定した。
「なぁに言ってんのよ。一鷹君と直里君の自宅兼事務所の家賃、払わなくてもいいのよぉ?」
人差し指を高城の前でぐるぐると回して腰に手を当てる光は、やはり年齢よりも若く見える。
ファーの付いた手袋に包まれた手を掴んで、顔の前からどかしてから高城はため息を吐く。
高城と黛の住んでいるビルの家賃は、光が払っていた。光は俗に言うお金持ちで、高城と黛を上回る給料をもらっている。
その詳細を詳しくは知らないが、そのことを持ち出されると困る高城は仕方がなしに光の話を聞くことにした。
「……で? どこ?」
「ここから三つ目のところ。よろしくね、高城 直里君!」
言ってから、光は自分の口を手で塞いだ。ここに人が居ることを知られては困るからだ。
そのあとに、軽くウィンクを見せてから高城の背中を叩いた。
そして、進みだす高城の耳に唇を寄せる。
「死んだら一鷹君呼ぶから、安心して死んでね?」
人の体温をしている吐息は温かいはずなのに、その言葉はひどく冷たいような気がした。
高城は光を突き飛ばすようにして歩き出す。
ポケットからナイフを抜いて、軽く振る。
後ろに居る光を振り返ることは無かった。
高城は何度か短く息を吐く。三つ目の倉庫の扉に背中をつけて、様子を覗った。
中から話声が聞こえるが、何を話しているのかまでは聞き取れない。
息を整えたところで、また同じフワフワとした感覚が、頭の中を廻る。
金属の扉に背中を預けていたので冷たくてたまらない。音をたてないように離してから、頭の違和感がなくなるのを待つ。
いつまで経ってもなくならない。
その頭の違和感に嫌気がさして、高城は倉庫の中に身を滑らせた。
ナイフを構えて、月明かりがさび落ちた屋根から差し込む倉庫の中を見渡した。
中に居た十数人の男が、突如として飛び込んできた高城に目を丸くする。
「んだ、餓鬼」
近寄ってきた男は、片手に持った銃をひらひらと見せびらかしながら高城の胸ぐらを掴んだ。高城は呆れてその男の髭の辺りを見る。
銃をゴリゴリと高城の斜めに切られた前髪に押し付けて凄むが、高城は動じない。
そんな高城がつまらないのか、男は高城を突き飛ばした。
そして、ナイフが躍る。
首のあたりから噴出した血液を浴びながら、高城は男の股間を蹴り上げた。
蹲る男の首をもう一度ナイフで切り裂き、顔を上げる。
硬直した男たちが、ようやく銃口を高城に向けた。
「俺、餓鬼じゃないから。あんまりイライラさせないでくれる?」