ダーク・ファンタジー小説
- Re: engrave ( No.18 )
- 日時: 2012/12/12 20:08
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
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その電話がかかってきたのは黛が朝内 真幸のコーヒーカップに二杯目を注いだ時だった。
黛は朝内 真幸にカップを渡してから、本棚の三段目に置いてある電話の受話器を取った。黛が電話の対応をしているのを、朝内真幸はじっと見ていた。
「……分かった」
受話器をおいた黛は深くため息を履いて、机の上のネクタイを取って自分で締めた。だけどそれはまだゆるゆるでだらしがない。
部屋の隅のタンスからホルスターと弾丸、拳銃を取り出すと腰のあたりに手早くつける。
朝内 真幸はコーヒーカップを置いて立ち上がった。
「黛さん……?」
恐る恐る声を掛ける。もう機嫌は治ったと思っていたのに、またイライラして居る。
機嫌が安定しない黛に近寄ると、黛は拳銃をホルスターから抜いたり入れたりを何回か繰り返して、朝内 真幸を振り返る。
「悪い。アイツが失敗したらしい。ちょっと待っててくれないか」
「嫌です」
ハッキリとした朝内真幸の声に、黛が拳銃を落としかけて危ういところでキャッチする。眉間に皺が集まって、朝内 真幸の視線に腰を折って合わせる。
朝内 真幸はそのこげ茶色の黛の瞳を逸らさずに見つめた。目を逸らさない朝内 真幸に、黛は歯ぎしりをしてみせる。
脅したつもりだったが、朝内 真幸は動じない。
「なぁぁぁんでかなぁ?」
朝内 真幸の瞳は、揺れない。そんな瞳を見ていると、黛はなぜか変な気分になった。
もっと弱虫な女かと思っていた。最初合った時は泣いたし、PFの話を聞いた後も混乱して泣いた。
そんな朝内 真幸が自分の言うことを聞かないことが、信じられなかった。女とはこんなに面倒な物だったかと思い出そうとするが、身近な女と言えば光しかいない。光では女を図る定規にもなりはしない。
黛は朝内 真幸と普通を比べることを諦めた。
黛はもう一度ホルスターから拳銃を抜く。銃弾の数を確認してからしまう。
「まだ私、高城さんと黛さんのことを全然知らないんです。だから知りたいんです。知らない状態じゃあ、一緒になんかいられません」
きっぱりと言い切る朝内 真幸の前髪を掴んで、掻き上げる。ぐしゃぐしゃになった髪に構う様子も見せない朝内 真幸。黛は全体的に朝内 真幸の髪をぐしゃぐしゃにしてから、背筋を伸ばす。
自分の首筋を撫でてからため息を吐いた。
女子高校生を連れていくなんて有り得ない。いっそのこと、コーヒーに睡眠薬を入れたほうが良かっただろうか。そんなことまで気が回らない自分の脳みそが嫌になる。
朝内 真幸に信じられないことは、黛にとって最悪の事態だ。自分と一緒に居られないなんて言われては、仕事ができない。
痛いところを突かれて、究極の選択を迫られる。
時間は無い。早く行かないと、自分の片割れがどうなるかわからないのだから。
黛は、朝内 真幸に背を向けて歩き出した。玄関で自分のプレーン・トゥに足を突っ込んでドアノブに手を掛ける。
「……怪我は、させないから」
後ろを振り返ると、顔を輝かせた朝内 真幸が駆け寄ってきた。
気の利かない黛は、その笑顔が不安からくるものだとは知らずに、光と高城のもとへと足を運び始めた。